涙の理由。
あの子の優しいところが好きだ。
あの子の声が好きだ。
あの子の風に靡く髪が好きだ。
あの子の猫のような目が好きだ。
あの子の泣く姿が、好きだ。
「ごめんね」
絞り出すように吐き出された振動は、誰かを責めるようなものではなく柔らかく僕の鼓膜を揺らす。
あの子はいつもそうだ。
誰かを責めるわけではなく、ごめんねという。きっと、ごめんねという言葉で自分を刺している。
何があったかは言わない。僕の方からも無理に聞かない。
僕は、あの子の背中をさすって、その猫のような目から零れ落ちる涙を拭うこともせす、ただその美しいあの子の姿を眺める。
お互いに都合のいい関係。
あの子は誰かの体温を感じたくて、僕はあの子の泣く姿を眺めたい。
「ごめんね」
あの子の言うごめんねは、こんなに泣いてという意味なのか、面倒でという意味なのか、もっと違う意味なのか。
あの子がごめんねと自分を刺す度に、僕は頭を撫で、背中をさすり、その言葉の棘を抜いて彼女を赦す。
「貴方の手はいつも温かいね」
「そう?子供体温なんだ」
「落ち着く」
「君は体温が低い方だからね」
少し冷たい手を包む。
彼女の涙が止まったら、この時間は終わりを告げる。
「落ち着いた?」
「なんとか。いつもごめんね」
「僕は泣いてる美しい君を見ることが出来て満足だよ」
「相変わらず変わってるのね」
どんな顔で私を見ているのか想像つくわと、あの子は僕の顔を触る。
「やっぱり笑ってる」
どうか僕の気持ちが気づかれませんように。
「じゃあ、またね」
「呼び出してごめんね。気をつけて」
僕の足音が消えるまで手を振るあの子の姿を名残惜しく振り向く。
堪えていた涙が流れる。
「あの子の目が、良くなりますように」
風は木々を揺らし、僕の声と足音を消し去った。
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