神様。

水色の目を、初めて見た。

それを持つ彼の存在は異質で、窓からの日差しを浴びた病的な肌の白さは、彼をより一層儚い存在だと示していた。


彼は体育に一切参加しない。

加えて座学もいつも本を片手に授業を受ける。

お昼になるといつの間にか何処かへと姿を消し、時間になると戻ってくる。


一度、お昼に彼を見たことがある。

風に吹かれて靡く少し長い黒髪。

手に持ったペットボトルの水は暑さで結露してキラキラと輝いていた。

そこは、私の、お気に入りの場所だった。


「どうしたの、こんな場所に何か用事?」

「いや、ここは私のお気に入りの場所で…」


そうなんだ、残念。と、言葉が転げて床に落っこちた。


「君こそ、用事?」

「そう。ちょっとね」


柔らかな笑み。

日の光も相まって、この世のものには見えないくらい綺麗だった。まるで、神様のようなーーーー。


「それじゃ、僕は他に落ちつける場所を探そうかな」

「いいよ、ここ来ても。わ、私が言えることじゃないけど…」

「落ち着けないんじゃない?他人がいると。大丈夫?」

「私は大丈夫だよ」

「そっか、ありがとう。でも、僕は他を当たるとするよ」

「そう、、わかった」


じゃあね、と骨ばった手を私に向かって振って、彼は去っていった。


「…あ」


彼が落としたであろう、薬が床に転がっていた。


「あの目と同じだ」


その錠剤は、彼の目と同じ、綺麗な水色だった。

私は教室で渡そうと、それを拾ってポケットに。


そのお昼以来、彼と話すタイミングがないまま、今に至る。


「この薬、いつ返そう…」



と。

キリキリとした悲鳴が響いた。



お気に入りの場所を出て、人だかりのある場所へ。


「…え?」


そこには、さっきまで思い返していた彼が横たわっていた。



真っ赤な鮮血と真っ白な肌。

薄く開いたまま閉じることのない眼、周りには私の拾ったものと同じ水色の錠剤が散らかっていた。



「美しい…」


思わず言葉が溢れた。

彼の死は圧倒的なもので、クラス中悲しみの色に染まった。



きっと、彼は本当に神様だったのだ。

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