3

「私もサボりたかったなあ」

 昼間の食堂。僕と蜜さんはそばをすすりながら話す。

「そりゃ僕だって」

「了君はダメ」

「蜜さんまで」

「だって、了君がいるとややこしくなるでしょ」

「……そうかなあ」

「崎原さんは、すごい苦しいと思うけど」

「崎原が?」

 蜜さんは、食べかけのドンブリをずずっと僕の方に寄せた。二つのドンブリが縦に並ぶ。

「どっちがおいしいと思う?」

「え」

「どっちのそばがおいしいかな」

「同じでしょ」

「じゃあ了君と風君も一緒?」

「いや、それは……」

 蜜さんの黒い瞳が、僕のことをまじまじと見つめている。そのレンズに、小さな僕が映っている。

「好きな人には振り返ってもらえなくて、同じ顔の人から告白されたら、すごい複雑だと思うよ。割り切るなんてできない」

「え、それって……」

「しかも好きな人の好きな人は素敵な年上のお姉さんで、同じ部活にいたり、ね」

 急に、胸が痛くなった。そういう図式とかは、考えたこともなかった。

「そんなわけないよ。崎原はそんな……」

「どうかなあ。私が見る限り、部にいるのも将棋はついでみたいだけど。でもね、嫌いでもないみたい」

「……」

 そばを食べ終え、僕は頬杖をついて考える。わからないこと、わかりにくいことが多い。



「気を付けてな」

 バスはもう来ている。荷物を抱えた風は、僕らに向かって頭を下げた。

「いろいろと、迷惑かけてごめん」

 崎原は、風の肩を軽くたたいた。

「私たちは迷惑かけられる相手なんだから、いつでもいいんだよ」

 すっきりとした顔だった。二人に何があったのかは、何も聞いていない。

「じゃあ、帰るね」

「ああ。また」

「またね」

 風がバスに乗り込み、僕らは手を振る。扉が閉まり、走り出すバス。その姿が見えなくなるまで、僕らは見送っていた。

「なんだったんだろうな、今回の」

「ねえ。人騒がせだよね」

「けど、風もつらかったのかもな。一人で」

「そうね」

 島にいた頃とはいろいろ変ってしまった、そう思った。そしてこれからも、いろいろと変わっていくのだろう。

「今さらだけど、双子って不思議だね」

「え」

「同じようで違うし、違うようで同じ」

「まあ、ね」

 自分たちにだって、わからない。けれども僕らは結局は違って、そしていろいろと共感し合える。僕が悩んだときには、風に助けてもらうこともあるだろう。

「よくわかってなかったって、わかった」

「え」

「賢くなったってこと」

 バスセンターには次のバスが入ってきて、また次のバスが出ていく。わからないことはわからないままで、僕らも歩き始める。


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