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 久しぶりの島は、当たり前だけれど、前と何も変わっていなかった。そしてそんな僕の前を、以前と同じように駆け抜けていく影。

「崎原」

「あ、了君」

 ピンぴょんと跳ねていた髪が、背中にくっつく。以前と変わらない、つまり最近にはなかった笑顔。

「こっち来てたんだ」

「うん。なんか……ほら、やっぱり落ち着くと思ったから」

「そうだね」

「了君もずっと?」

「連休中は」

「じゃ、また会えるかもね」

「うん」

「じゃあ、また!」

 走り去っていく背中は、本当に前と変わらない。けれども、頑張って同じことをしているのだと思う。

 僕は、ただここでのんびりしている。けれども、前のように何をしていいのかわからないということはない。

 海を見るといつも81マスが浮かび上がってくるようになった。今僕は将棋が本当に好きなのだと思う。そしてそれは決して一人で得たものではなくて、蜜さんがいて、崎原がいて、そして風がいてたどり着いたものだと思う。

 来週は、初めての大会。



 この街に来るのはいつ振りだろうか。長く続く繁華街に、頭がくらくらとする。

「んー、なんだろうね」

 四人掛けの席に、三人で座っている。僕の向かいには胡屋さん。

「なんですか」

「似ているのは当然なんだけど、双子って言うほど似ていないね」

「いや双子ですし」

「そうですよ」

 僕の隣には風。

 明日からの大会のため来たのだが、せっかくなので弟に会いたい、と言ったらこうなったのだ。ちなみに唐澤さんは「飯なんかつるんでられるか」と言ってどこか行ってしまった。

「そっかあ。風君は将棋しないんだよね」

「はい。趣味とか何もなくて」

「もったいない。今度是非してみようよ」

「機会があれば」

「うーん……了君よりもしっかりしてそうだね」

「よく言われます」

 風は以前と変わらず元気そうに見えた。ただ、以前と変わらず上手く気を遣えるだけなのかもしれないと思った。

 風はこの数か月の間に、僕以上のいろいろな経験をしてきたのだ。いい高校に合格して、街中に暮らして、レベルの高いクラスメイト達と勉強して。そして、女の子に振られた。それらのことを何事もなく乗り切れるほど、頑丈じゃないことはよく知っている。

「これ、地元料理なんですね。うちでは出なかった」

 風がおいしそうに食べるのは、豚肉を煮た料理だ。そういえばうちでは豚肉そのものがあまり出ない。すごくおめでたいことがあるときに食べるものだと、どこかのおじいに聞いたことがあるような気がする。

「地方によって違うのかもね。風君の寮でも出なかった?」

「はい。いや、出てたかな……忘れちゃいました」

 食事は楽しいものになった。胡屋さんも基本的に明るくて、この場を楽しんでいるようだった。唐澤さんもいれば、と思ったが、あの人はどうも集団行動が大嫌いみたいだ。蜜さんもそうだけれど、将棋が強い人というのはそういうものなのかもしれない。周りに壁を作って、それに耐えられるのか。ただ、明日は団体戦だ。

「あの……了」

「なに」

「頑張ってね」

「ありがとう。風も、いろいろ大変だろうけど頑張って」

「うん。大丈夫だよ」

 僕は、弟のことが好きだ。そう思った。今までだって仲が悪いことなんてなかったけど、嫉妬することはあった。

 けれども、兄弟がいて本当に良かった、と思うのだ。僕らには劇的な共感とかそういうものはないけれど、友人には決して築けない信頼関係がある。そんな気がする。

「よし、そろそろ行くか。睡眠が一番大事なんだよ」

 胡屋さんの言葉で、僕らは立ち上がった。風との時間は終わりだ。しばらくはまた、信じ続ける時間。

 

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