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 模試の結果が返ってきた。

 勉強してないのだから、良い結果なわけがない。それでも志望校が絶望的、というほどではなかった。

 当たり前だが、風の結果も同時に届いた。いつものことながら、桁違いの成績だ。桁が少ない。

「もうさあ……内地の進学校でも行けるんじゃない」

「うーん、でもさ」

 どうせ島を出るのなら、どこでも同じなのに、と思うことがある。でもほとんどの人が子供は内地には行かせたくない、と思っているようだ。海は繋がっているけど、隔てるのはできるだけ小さい海が良いようだ。

「いい大学行きたいだろ」

「それはそうだけど、そんなに遠くには行けないよ」

「ふうん……」

 考えてみれば、僕だって同じなのだ。成績が悪いから後ろめたさがあるだけで。できれば島に残りたいぐらいなのだ。

「ただ……大学では、わからないよね」

「そりゃあね」

 内地の大学に進むと、そのまま戻って来ない人も多い。島が好きと言っていても、だ。内地の色に染まってしまうからかもしれないし、内地の方が仕事があるからかもしれない。少なくともこの島では、親の仕事を手伝う以外の仕事は思いつかないし、そうしたいと思う若者は少ない気がする。

「了はさ……島烏で働くの?」

「えっ」

「みんなそう言ってるよ」

「なんで」

「だって……よく行くしさ。蜜さんと結婚するんじゃないの?」

「いや……え?」

「それもいいと思うよ」

 荒唐無稽な話でもないだけに、戸惑いは増していった。僕と蜜さんは、少なくとも今はそんな関係ではない。それでも。それでも先日の、「帰ってくるまで待つわあ」という言葉が、頭の中で鳴り響く。

「風は……結婚とかしたいのか」

「そりゃあ、お父さんやあ母さんは安心するだろうし、したいよ」

「そういうことじゃなくってさあ」

「……どうなるだろうね。よくわかんないよ」

 風の中には、ビジョンがあるようでない。なんか、少し安心する。

「風はさ、誰かのこと好きじゃないの? 普段あんまり女子と喋ったりしてないけど」

「え……いや……そうだね……」

「いるんだ!」

「了が気付いてないことにびっくりしたんだよ」

「え。なんで」

「だって僕たち……双子じゃないか」

「そんなこと言ってもさ」

 いつも同じクラスにいるのに、全く知らなかった。もしかしたら違う学年とか? 双子じゃないとしても、気付きそうなものだ。

「了は、絶対わかってると思ってた。ショックだな」

「言ってくれればいいのに。だいたい、それならなんでずっと家にいるんだよ」

「だって勉強が……」

「一緒にしようとかさ、何でもいいから会えばいいじゃないか。その子の近所にライバルでもいたらどうするんだよ」

「……僕、そんなに積極的にできないよ」

 見た目が同じでも、中身は違う。全く違う。そして、通じ合ってもいない。きっと僕が風を羨ましがるように、風も僕のことを羨ましがっているのだろう。つくづく不思議な関係だ。

「島を出る前に、できるだけのことはしといたほうがいいと思うけどなー」

「……うん」

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