5
久々のフェリー。しかも今回は泊りがけなのだが、あまり楽しくはない。明日、模試なのだ。
この瞬間も風は参考書を読んでいる。僕は何となくデッキに出て、本島の方を眺めている。迫りくる異世界。
島から帰っていく人々も多く乗船している。このあと本島でも色々なところを見て回るのだろう。僕たちだって本島には知らないところが多いので、観光したっていいわけだけど。
「了さ……」
いつの間にか、風が隣に立っていた。参考書も、持っていない。
「なに」
「俺ね……島出たくないんだ」
「え」
思わずだらしなく口を開けたままになってしまった。そんなこと言うなんて全く予想していなかった。
「どうするのさ」
「いや、出ることにはなるけどさ。なるけど……出たくない」
「うーん」
「……俺、家継ごうと持ってる」
「え、風、でも……」
「了は?」
「俺は……将来のことは何も考えてない」
「そっか」
双子なのに、全くお互いの心がつかめていないようだ。双子の心が通じ合うというのは噂にすぎないのかもしれない。
「でも、風は出なきゃしょうがないだろ」
「うん。だね。……だから大学では畜産学んで、島に帰ってきたい」
「へえ」
本島が目の前に迫ってくる。考えても、僕の中には何の未来も出てこない。
「おりよっか」
「うん」
焦るべきなのだろうか。なんとなく蜜さんのことを思う。若くして飛び込んだ世界で挫折して、心を休めている人もいる。早ければいいということでもないだろう。ただ、いつかは何か決めないといけない。
桟橋を渡った先は、育ったのとは違う大地。
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