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 久々のフェリー。しかも今回は泊りがけなのだが、あまり楽しくはない。明日、模試なのだ。

 この瞬間も風は参考書を読んでいる。僕は何となくデッキに出て、本島の方を眺めている。迫りくる異世界。

 島から帰っていく人々も多く乗船している。このあと本島でも色々なところを見て回るのだろう。僕たちだって本島には知らないところが多いので、観光したっていいわけだけど。

「了さ……」

 いつの間にか、風が隣に立っていた。参考書も、持っていない。

「なに」

「俺ね……島出たくないんだ」

「え」

 思わずだらしなく口を開けたままになってしまった。そんなこと言うなんて全く予想していなかった。

「どうするのさ」

「いや、出ることにはなるけどさ。なるけど……出たくない」

「うーん」

「……俺、家継ごうと持ってる」

「え、風、でも……」

「了は?」

「俺は……将来のことは何も考えてない」

「そっか」

 双子なのに、全くお互いの心がつかめていないようだ。双子の心が通じ合うというのは噂にすぎないのかもしれない。

「でも、風は出なきゃしょうがないだろ」

「うん。だね。……だから大学では畜産学んで、島に帰ってきたい」

「へえ」

 本島が目の前に迫ってくる。考えても、僕の中には何の未来も出てこない。

「おりよっか」

「うん」

 焦るべきなのだろうか。なんとなく蜜さんのことを思う。若くして飛び込んだ世界で挫折して、心を休めている人もいる。早ければいいということでもないだろう。ただ、いつかは何か決めないといけない。

 桟橋を渡った先は、育ったのとは違う大地。

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