待ち合わせ

 公園で一人の少女が待っていた。

 何で待っているかというと、下駄箱に手紙が入っていたからだ。

 男の子からだ。

 それも彼女がよく知る人物からだ。

 だいたいの人が思うように手紙の内容は「放課後、公園であなたに伝えたいことがあります」という内容だった。

 彼女は緊張と興奮の中、手紙の主を待ち続けた。

 しかし、待っても彼は来なかった。

 やがて、日が沈みもうすぐ夜も暮れようとしていた。

 少女はイライラしていた。

 せっかく、好きな男からの手紙にドキドキしながら待っていたのにも関わらず、中々来なかったからだ。

「何よ、せっかく人がこうして来てるのに」

 彼女は手紙の主が来ないことに腹がたってしょうがなかった。

 いやむしろ、乙女心が踏みにじられたからもあると思う。

 それでも彼女は待ち続けた。

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 少年は急いでいた。

 放課後ある人物と待ち合わせをしていたからだ。

 いや、一方的に彼が呼び寄せただけで、向こうは気味悪がっているだけかもしれない。

 それでも彼は待ち合わせの場所に行かなくてはいかなかった。

 彼は授業が終わったら、その娘が来るのを待ち続けようと心に決めていたからだ。

 ただ、少年には誤算があった。

 それは彼とその娘とは違うクラスで、彼にはいつ彼女の授業が終わるかわからなかった。

 そのため、もしかしたら彼女方が早く授業を終わっているかもしれなかった。

 直接伝えればいいのに、この少年はあまりの照れ臭さに直接言うことができず、それでも自分の思いを彼女に伝えたかったので、下駄箱に手紙を入れるという古典的な手段を取ったのだ。

 彼は授業が終わるなり、すぐさま公園に向かおうとした。

 しかし、運が悪く担任の教師に捕まってしまい、掃除当番をやらされてしまった。

 彼は真面目で優しい性格をしていたので、丁寧に掃除をしてしまった。

 掃除が終わると周りの人間からもわかるぐらい慌てて教室を出た。

 自分の思い違いかもしれないが公園で少女が待っている。

 彼は全速力で走った。

 ただ、彼は真面目だったので途中で信号を無視したり、交差点を横横断したりしなかった。

 それでも彼は夕日に照らされながら、走った。

「もしかしたら、彼女はずっと待っているかもしれない」

 彼はそう自分に言い聞かせながら、懸命に公園に向かった。

 本当は彼の青春がつき動かしているかもしれない。

 彼はいないかもしれない少女のために走り続けた。

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 少年が公園に着く頃にはもう日も暮れて夜になっていた。

 公園にはコオロギの鳴き声が鳴り響き、冷たい風が彼の髪を吹き、その辺りは彼にとって憂愁な雰囲気に包まれていた。

 彼は懸命に少女を探した。

 しかし、辺りをベンチ、ブランコ、思いつく限り探したが見つからなかった。

 少年は「ああ、やっぱりか」と思い、泣きたくなる気持ちをグッと堪えて返ろうとした。

「遅い」

 ふっと、その声に驚いて彼が後ろを見ると少女がいた。

 彼は涙が出そうになったが、グッと堪えた。

「人をこんなに待たせるなんて、最低だよ。ねっ」

 彼女はやや怒っているように見えるが、どこか少しほっとしたようすでもあった。

 彼女はにっこり笑い、

「何か言うことはないの?」

 彼を恥ずかしさと照れ臭さに顔が紅潮したが、

「ご、ごめん。いや、ごめんなさい。君をこんなに待たせちゃって」

ともどかしそうに彼女に言った。

 彼女は得意げにふふんと鼻を鳴らし、

「わかればよろしい」

と言った。

 彼はそれを言うと、思いっきり深呼吸をし、真剣な顔で彼女を見つめた。

「今日はこんなところで呼び出した上、待たせてごめんなさい。でも、僕はあなたに伝えたいことがあるのです!聞いてくれますか?」

 少年の真摯な発言に少女も顔をりんごのよう紅くなった。

 彼女は公園に来たとき以上に緊張と興奮のあまりお姫様のようにしおらしくなり、

「はい・・・」

と少年の問いに答えた。

 彼はそれがのどに詰まりそうになったが、勇気を振り絞ってそれを言った。

「僕はあなたが好きです。僕と付き合ってくれませんか!?」

 ついに少年は少女に告白した。

 彼女は予想はしていたが、いざ目の前に来ると恥ずかしさとうれしさのすぐには口を開くことができなかった。

 彼女は顔を赤らめながらも、少し考えたふりをして、

「今はだめ」

と少年の思いを一蹴した。

 少年はショックのあまり、鳩が豆鉄砲に撃たれたような顔の上、氷の如くその場で固まった。

 少女にはその様子がおかしくってたまらず、声を上げて笑い出した。

「『今』だけよ、『今』。だって、女の子をこんなに待たせるような人とは付き合えないからね。君にも同じように待ってもらうよ。だから、告白の返事は後ね」

 彼は「何だ~」と言い、その場でがっくりとうなだれた。

 彼女はその様子を見て、おかしそうにクスッと笑い、

「ねぇねぇ私の家この近くなんだー。知ってた?」

「知らなかったよ。夜は暗いから送っていくよ」

 少年は少女と共に二人並んで公園から出た。

 この二人を送るかのようコオロギが美しく鳴いていた。

 夜は暗かったが、満月が二人を照らしていたため、道が明るく見えた。

「月が綺麗だね」

「うん・・・」

 この月光が照らす影には手を繋ぐ新しい恋人が照らし出されていた。

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