悪役令嬢は、「パンがなければ、お菓子を食べればいいじゃない」と言いたい」

「パンがなければ、お菓子を食べればいいじゃない」


 昔、フランス革命の時にマリー・アントワネットが言ったといわれた問題発言だ。


 彼女は歴史上で類まれに見る貴婦人であり、そして贅沢の限りを尽くしたといわれた人だ。


 最後にはその贅沢さが仇となり、革命の中処刑されたいう。


 しかし、処刑される前でも、貴婦人らしいその立ち振る舞いは、過去の文献から見るだけでも、とても見事であった。


 その立ち振る舞いや悪名の高さはまさに至高の「悪役令嬢」と呼ぶにふさわしかった。


 ここ、イグラス王国の貴族のご令嬢として、転生した少女マリア・テレーズは前世で何故か、この至高の「悪役令嬢」に憧れを抱いたまま、病気で死んだ。


 たぶん、「ベルサイユの薔薇」の見すぎだろう。


 前世では彼女は「大川杏子」と言い、高校へ通学の途中に事故にあって死んでしまったのだ。


 そして、ある日前世の記憶思い出したのだ。


 前世でマリー・アントワネットに憧れていた彼女は、貴族の令嬢に転生した今ならあの台詞、「パンがなければ、お菓子を食べればいいじゃない」を言えるチャンスだと思ってしまった。


 何考えているだか。


 しかし、別に領民の不満は全くと言ってもなく、麦も今年は豊作。


 パンは領民に腐るほど、届いている。


 これでは、あの至高の「悪役令嬢」にはなれない。


 素敵な王子様も現れないし、きっと来てくれないだろう。


 そこで彼女は一計を案じた。


 彼女は父であるルイ・トーマス。テーレズ公爵にあるお願いをしたのだ。


「ねぇ、パパ。あたし、パンが嫌いなの!それももう見たくほど!だから、うちの領土から麦を作るのをやめさせて!ビールも嫌いなの!」


 何て、めちゃくちゃな理論なのだろうか。


 彼女は自分でも何言ってんだろうと思った。


 と思ったら、公爵は、


「いいぞ!他ならぬ、わが娘の頼みだからな!よし、今日から領民にパンとビールを作ったら、銅貨10枚の罰金の刑にしよう!よーし、パパ頑張っちゃうぞ!」


と何をトチ狂ったのか、この要求をあっさりと呑んでしまった。


(えっ、ちょっとパパ?あんた何言ってんの?)


 流石の娘のマリアもこう思った。


 すぐに撤回しようとしたが、もう遅い。


 公爵は上機嫌に近くにいた召使いに「明日から、パンとビール禁止な!」と伝えてしまい、召使いも「えっ、何それは」と一瞬呟いたが、すぐに子飼いの騎士や召使いに伝えに行った。


(何であっさり聞くのよ!ボケ親父!まぁ、いいわ。これであの発言が言えるわ。これであたしも悪役令嬢の仲間入りよ)


 こいつも大概だが。


◆◇


 領内でパンとビールが禁止されて、数日が経過した。


 人々は普通に生活していた。

 

 何の代わりもなく。


 しかし、確かに以前と比べると、領民の不満が多くなった。


 それは「パンが好きなのに、パンが食えない」とか、「ビールくれ、ビール!」というものだった。


(よし、これなら行ける!)


 そう思った彼女は、窓を開けて、いやみらしいグリム童話のシンデレラの姉妹のようにゲスい笑顔を浮かべ、なおかつ妖艶な雰囲気を出せるように張り切りながら、誰かに聞こえるようにこう言った。


「パンがなければ、お菓子をたべればいいじゃない」


 彼女はこれで憧れのマリー・アントワネットに近づける。


 そう思ったが、側を通っていた執事がこう言った。


「いや、パンがないから皆さん米食ってますよ」


 その言葉に彼女は固まった。


(えっ?ちょっと、待って?ここ中世ヨーロッパでしょ?何で、米があるのよ?)


 さらに、執事はこう続けた。


「後、貧乏な方はビール飲めないので、禁酒する者もいますが、我慢できない人はワイン飲み始めましたよ」


 彼女はしばらくの間、石となっていた。


 1ヵ月後、マリアは公爵に「パンとビール」を作ってあげてもいいと伝えた。


 何故か、公爵はそれを却下した。


 こうして、テレーズ公爵が保有する領土は「米派」の人間が大量にすむようになったそうだ。

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