まほうつかい

こぺる

第1話 軟弱男

 俺は働きたくなんかない。稲刈りやら家づくりやら全部他のやつがやればいい。俺は四六時中寝て、働き終えた同世代の奴らと喋っているのが好きなんだ。この前来た変な女が土器の作り方を教えたせいで俺まで働かなきゃいけない。


「お前、楽したいのか?」


 出たなあの変な女だ。いきなり来ては俺に話しかけて来やがる。


「おい聞いているのかお前。楽させてやると言っているんだ。」


 生憎俺は働く気なんてないんでね。母さんになんと言われようが俺は働かない。それで、こいつは何を言いたいのやら。


「お前にこの集落で一番になれる知恵を与えよう。『文字』というものを教えてやる。これから三日三晩教えてやろう。熱心に励めよ若者。」


 はて、『もじ』とは一体なんのことやら。あの女はいつもおかしなことを言っている。「前よりは良くなっている。」だとか、「やはり『くるま』は移動に便利だ。いち早く伝えねばならんな。」とか。『くるま』なんてなんのことだが。やっぱりあの女はおかしい。明らかに浮いているし、中国の文化や技術だとか言って俺たちが聞いたことも見たこともないものを知っている。おかげであの女は神なんて呼ばれてやがる。大層なことだ。


「おい。おいお前。『文字』を教えに来たぞ。この世界にはまだ『紙』の作り方を教えていないからな。ほれ若造、小石を持ってこい。地面に直接『書く』としよう。」


 また訳の分からないことを言っている。『かみ』だとか『かく』だとか、ちゃんと俺にわかる言葉で喋ってくれないものか。 


「お前、根性は軟弱でひねくれているくせに『文字』の覚えはいいんだな。」


 おまけに余計なことまで言ってくれる。今の会話に「根性は軟弱でひねくれている」はいらなかった。別に俺はただ動きたくないだけだ。しかし、まぁ文字というものはすごく使い勝手の良いものだ。はじめは何を言っているのやらと思ったが、教わってみるとなるほどこれは使える。


「おい。おいお前。またぼーっとしているのか。文字は伝えた。私はこれから中国に行かねばならん。お前から数えて5、6世代くらいになる頃にはまた戻る。お前に一つ頼みがある。絶対に後世に私のことを伝えるな。適当に神として祀っておけ。では私は行く。まずこれから船を作らなくてはならないのでな。」


 わかった。またな変な女。いなくなると寂しくなるものだな。名前も聞いていなかった。そうだな…「あまてらすおおかみ」ってのはどうだい。あの女にぴったしじゃねぇの。さぁて、俺はみんなに文字を教えてくるとするか。

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