第13話
焰姫による焔が消えると、その場には何も残らない。染闇も綺麗さっぱり消えていた。
命を奪ったというのにこんなあっさりと、簡単に済んで良いのだろうか。
「焰姫による浄化は全てを無に帰す。気に病む必要は微塵もない」
「時灘、まだいたんだ」
「…俺はどこにでも存在し、どこにもいない。刻を司った瞬間からそういう存在となった」
そういって、時灘は姿を消した。去り際、「まだいたんだ」の言葉が効いたのか心なししょんぼりした様子の表情だった。
気を取り直してネノハナを探して足を進める。
マーカーの方へ向かう途中、何度かロルフィに出会い焰姫で薙ぎ払う。
マーカーに近づくにつれ、マーカーの数が増えていくのがわかる。ネノハナの数だけマーカーがあるのかもしれない。
「よく考えると何をどれだけって必要数の見極め大変だよなー」
「生態系を崩さず、必要最低限という意識が根付いていますから今までの経験でおよそ把握出来るのでしょう。」
自分の呟きに直也が応える。ホント良く出来たアシスタントになったものだ。
もう少しで山岳地帯のネノハナ棲息域と言うところで黒い霧がブワリと目の前で膨れ上がる。
ロルフィとは違い、動物を模していない。
霧が生物になろうとしているような感じがし、違和感を生じさせる。染闇が、生物の形を取る。それは病気が目に見える敵になったようなものなのだろうか。
空気が悪くなった気さえする。
「直也、情報補足・情報補完補助・空間把握機能展開」
アシスタントである直也は戦闘に於いて攻撃手段を持たない。戦闘においてはオペレーターに徹させる。
「了解しました。アシスト機能展開、情報検索及び不足部分の補完、空間把握を行います」
直也の目が周囲の情報を一つも逃さないと言うように目を見開く。普段はくすんだ黄色のような瞳の色も輝く黄金に変わっている。
コマンドウインドウに情報が目まぐるしく表示されるその全てを把握し、処理。ウインドウから目を話さず、直也が必要な情報をこちらに表示させた。
染闇・ヒトガタ(剣)
核となるモノがなく、出現条件は不明
通常染闇されるENEMYの前にのみ出現するため、ヒトの前に出現することがなく対処方法は不明
宿主がいない為、宿主を消せば終わるということにはならないということだ。
「え、これ積んだ?」
つい声に出してしまった。
病原菌を消滅させる手段なんぞ持ち合わせておりませんが?
「落ち着いて下さいマスター、情報を解析しています。取り敢えず倒さずとも動きを止める事は出来ます。」
直也の落ち着いた声音につい先程の事を思い出す。時灘の力を使えば問題はない。ないのだが…
「時灘の力を使うとして、その後どう『選択』するかなー」
序盤の簡単お手軽クエストのつもりだったのだがどうやらランダム要素が悪い方向に向いたらしい。難易度が変わっている。
とりあえず方向を『選択』しよう。
目の前のものから逃げるか、消すか。
逃げたらネノハナの採取は失敗、クエストリタイアになる。
消すには方法と手段が未確定。今から探し出さねばならない。
クエストリタイアより、方法と手段を確定させる『選択』が、後悔せずに済む。
「時灘、染闇周囲5メートル「空間停止」」
名を呼ぶのは力を使うという明示。技名をつけて使うとか、使いたいと思って無言で使うより明確に効果を発揮しそうなのでそちらを『選択』する。
染闇の動き全てが止まる。草木、風すらも周辺の動きを止める。要は霧なのだ。一つ一つを止めるより空間指定したほうが早い。
止めてからしばらくし、直也の解析が終わる。
「マスター、染闇の霧は一つ一つが「細胞」と同じです。予め動きがプログラミングされているようです」
「宿主が死ねば染闇も消える、がん細胞のようなものと考えて良さそうだなー。ちっさい細胞一つ一つ潰すよりまとめて焼却出来ればいいんかね」
目の前の染闇はENEMYの形を取り、自分たちを襲おうとプログラミングされているということだ。
有無を言わさず、一つ残らず焼却すれば染闇は消える。方向は決まった。あとは実行すればいい。
焰姫は剣に宿るので焔を纏うことはできても、剣を振るわず焼却することは出来ない。
「直也、焔を司るカミサマに心当たりは?」
「こちらです」
コマンドウインドウに表示された情報に目を移す。
焔神・焼
名前:焼
種類:神
役割:ラグ・クラウドの焔を司る一柱。
浄和遊悟とのバイパス「未形成」
「バイパス形成から行わなければなりません。少し手間ですが、マスターなら直ぐでしょう」
「オッケー、染闇は時灘に任せといてバイパス形成しとこう。使える力が増えるのは後々便利だし、染闇対策になる」
この世界での初めての「バイパス形成」
形成した状態で始まった朔サマや時灘とは違うカミサマとのバイパス形成はどう『選択』すれば良いのか、少し悩みながらコマンドウインドウを開いた。
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