第12話

取り敢えず時灘の見当違いな視線を無視してコマンドウインドウを開く。ついでに直也には情報支援モードを展開してもらい詳細を補完していく。




敵性生物のは「ENEMY」と総称され、目の前にいるENEMYはロルフィという種類らしい。一般に棲息しているENEMYで、染闇されやすい。染闇とは、黒い霧による汚染・狂化であり「治療法の確立がされていない」。そして染闇はENEMYにしか認められていない。

一度染闇されれば狂暴化し、目に映るすべてが危害を与える存在と認識し攻撃を行う。

救うには息の根を止めることのみ。




「結構エゲツないなー…」

コマンドウインドウを閉じ、止まっているロルフィに視線を移す。こちらが憎い、怖いと言う感情が目から読み取れた。この状態は精神にも良くないだろう。疲弊だけが溜まっていくだろう。

「染闇されれば群れから離され、こうして単独…集団染闇されていれば集団で攻撃をしてきます。時灘様の力で刻を止めても他のヒトが襲われるだけで根本解決には至りません」

直也が眉間に皺を寄せ、首を横に振る。助からない、と念を押しているように。

「だから優しすぎる、といったのだ。染闇されているものを止めても結局は殺さねばならん。ロウフィを救いたくても、その『選択』は出来ん。さっさと楽にしてやれ」




朔サマとのやりとりでは決めきれなかった属性・名を呼んだ。




「焰姫」




剣が紅い焔を帯び、顕現する。

それと同じくして武装した蒼髪の女性が現れる。焰姫と呼ばれた女性が自分の側でふわふわと浮いていた。元現実のゲームで言うところの精霊ポジションなのだろう。

「焔にて浄化を。断ち切りて安寧を」

焰姫はそう呪うと、姿を消した。

剣の焔が強く、蒼く変わる。

熱いと感じることはないが、空気が熱されているのか風が乱れ髪や服を揺らす。




時灘が指を鳴らすとロルフィが動き出す。




焰姫を構え、

走り寄り

一閃。




余程焰姫の切れ味が良いのか豆腐を切るようにロルフィの身体を刃が走る。

予想された生々しい感触が感じられなかったのは幸いだろう。

切断された面がズレる瞬間、蒼い焔がロルフィの身体を包み昇華していく様は幻想的すぎて思わず見惚れてしまった。




ーーーーーーこれは殺しではない、救ったのだ。




そう自分に言い聞かせているかのように、その様を見続けていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る