第11話

街の外に出る。

街から一歩外に踏み出すだけで風が変わる。

「街は朔様の守護がありましたが、ここからはありません。そのため変わったように感じられるのでしょう」

風の匂いを嗅ぎ、きょろきょろとあたりを見回せば直也が違和感の正体を説明してくれた。

護られた場所とそれ以外の差。

それがこんなにもわかりやすく感じられるとは思わなかった。

自然が多いから空気が澄んでいると思っていた。確かに草木は自由に育ち、空はキレイな青空だ。でも、空気は少し重く感じる。ピリピリとした空気が張り詰めているように感じる。

目的地のアイコンが指す方向は、その空気の感覚が少し強い。

『選択』を迫られる、そんな圧力が足を重くする。それでもーーーーーーーーー

「いくか」

立ち止まることはいつでも出来る。

元現実ではたくさん止まってきた。

なら今は進んでみよう。アシストする存在もいる、力を貸してくれる存在もいる。

ならば進むしかないだろう。

後ろに控える直也が、微笑んだ気がした。





黒い霧が視界の端に映る。

こちらがその霧を認識するやいなや、霧もこちらに気づき自分の方へ向かってきた。これがマップに現れていた黒いモヤなのだろう。その霧の中心部には、狼のような姿だがサイズがライオンぐらいのなにかが存在した。

目は血走り、歯をむき出しにしてこちらを威嚇してくる。真正面から放たれる「殺気」に一瞬たじろぐが直ぐに立て直す。

なにしろこの世界では初めての戦闘(殺し合い)だ。すべての情報を把握したい。




ゲームで言うポーズ状態を『選択』する。

「時灘、アレを基点に半径3メートルのタイムストップ」

バイパスを繋いでいるカミサマの一柱の力を借りる。

言い終わるや否や対象の動きが止まる。それと同時に自分の近くに長髪の男性が立っていた。少し存在が薄く感じるのはその男性が多次元を用いた実体だからだろう。

自動的にコマンドウインドウがその男性の情報を映し出す。




時神・時灘

名前:時灘

種類:神

役割:ラグ・クラウドの刻を司る一柱。

浄和遊悟とのバイパス形成済




表示されたついでに自分のバイパス形成済種類を確認するとリザイアとは殆どバイパスを繋いでいないことが窺える。




「お前は優しすぎる」

時灘の第一声は、何故か自分を憐れむような慈しむような言葉だった。

「有無を言わさず首をたたっ斬ればいいだろう。その剣を振れば実現するに、わざわざ刻を止めてやる必要はない」

第一声のせいで「いや、情報把握したくて…」とは何故か言い出せなくなってしまった。




ーーーなんかコイツ、俺の事勘違いしてないかな




そんな思考が浮かぶと同時に「時灘だからねー」と朔サマの声が聞こえた気がした。

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