第2章 たたかいの『選択』

第8話

目を覚ます、その表現は間違っているのかもしれないが記憶が途切れたのだから「覚めた」は間違っていない。




「随分と…色がついた気がする」

目に入った風景に、思わずそう呟いた。

さっきまでの世界がモノクロだった訳ではない。桜は綺麗な色付きを見せていたし、空は透き通るような青空だった。だが少しの孤独がにじみ出ていたのだろう。今の風景と比べてしまうと少し褪せたようだった。

今は桜が鮮やかに楽しそうに舞い落ち、空には雲が流れ「生きている」ような感覚を覚える。それにさっきと違って「音」が多方面から聞こえてきている。




改めて自分の位置を把握する。




先程朔サマからそそくさと退散したのでマイルームと桜神木との間の道。桜神木は見晴らしの良い丘にある為、下り道となっている。振り向くと心なしか意味がありそうな、そんな笑みを浮かべる朔サマが見えた気がする。





遠くから、声が聞こえる。

朔サマとは反対方向。つまりマイルームの方角だ。

どうやら自分を呼んでいるらしい。

「マスターにお客様のようです。先に行って対処いたしますか?」

「いや、すぐ着くだろ。自分で確認する」

少し足早に動く。予想以上のスピードが出て身体能力に驚いているうちに声の主の元へたどり着く。




如何にも、モブっぽい若者がマイルームの前に立っていた。




「モブっぽいとは失礼ですよ浄和様!」

声に出ていたらしい。見たところ「街」の住人だ。良かった。村人Aの量産型でなくて。

自動補完機能に任せただけあってその辺にいそうな、でもテンプレ過ぎない「人間」だった。

「浄和様に依頼が来てるんです。結構溜まってきたので一度街に来ていただけませんか?」

依頼、ときたら益々冒険っぽい感じがしてワクワクしてくる。補完された内容は自分好みの「良い」感じだ。

「マスター、肩慣らしにはちょうど良いと思います。何件か処理しておくと宜しいかと」

「ん、そうしよっか。えーっと…」

遠慮しがちな目でこちらを見てくる若者に街に先に戻るよう伝えると、若者は人懐こい笑みを浮かべ街へ戻っていった。





自分の現在位置は分かったがこれだけでは「立ち位置」がわからない。

街に行けばどういう扱われ方なのかもはっきりするだろう。

自分の世界なのだ、嫌われていたり非難されていたり、そう言うマイナス面はないと思うが自分で確かめなければ実感はわかない。

もしそんな世界ならその現実は『選択』せず、自動補完機能をまた走らせればいい。やり直しも『選択』出来るだろう。




「マスター?」

コマンドウインドウを開きもせずボーッとしていたように見えたため、直也が頭の上からコマンドウインドウを触りToDoリストのようなものを表示させる。サンキュ、と礼を述べながらコマンドウインドウに目を走らせた。

溜まっている、どころじゃないような依頼量が一瞬見えたので即座にコマンドウインドウを消した。




「補完機能、優秀過ぎね?」




依頼量にしろ、直也のサポーターからアシスタントへの補助機能向上にしろ、大幅に改善されている。






少し、進む先が見えないような、見えるような。そんな不思議な感じが楽しいと感じることができた。




足を、進めよう。

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