第3話

コマンドウインドウを起動。




現在地を「ハル」、気候は「温暖」と設定。




設定を有効にしたところで一瞬意識が途切れ、すぐ元に戻る。




そして、窓の外に目を移す。




そこに他の生物らしいものはなにもなく、桜だけが立派にそびえ立っていた。


大きな、とても大きな桜が花を散らす。

一定感覚で散る桜は、地面を覆いつくすこともなく、地に触れると消え、また散っていく。

消えることの無い幻想的な桜が、自分のホームであり、絶対的なモノなのだとその時に『自覚』した。




「今日も外は桜がキレイです。お散歩でもしてみますか?」

直也がいつの間にかヒトガタになり、外へ出るための支度をし始める。

サポーターがただの猫では話が進まないだろうという判断を無意識化で『選択』していたようだ。




ただ、外へ出るための支度といっても何かあるわけではない。動きやすいよういつの間にか服装は変わっており、コマンドウインドウがマップを表示する程度。




マップも曖昧なものだ。

中央に「ハル」と書かれ、桜が描かれている。他は霧がかかったようにぼんやりと「有る」ようで「無い」状態になっている。

ここでも、『選択』が必要らしい。

ランダム係数を使用する事も可能らしいが、その方法は『ERROR』が発生しやすいらしく思考がそちらに興味を示さない。




直也の「まだですか?」な視線が少し痛い気がする。が。『選択』ばかり続けていると嫌になってくる。

「桜のカミサマにご挨拶に行こうか」

なんて声に出していた。




そうか、桜にカミサマがいるということは多神教じみたものが存在することになる。

理解したところでコマンドウインドウが歴史書を開き、そこに新たに追記された。




⑤神という■■■が多数存在する。




神、というものが何なのかはまだ不確定だがどうやら存在証明は完了したらしい。

教派や信仰の仕方、それを取り巻く人々の歴史情報が増えていく。




今の日本と似たような、でも少し違う宗教観の出来上がりだ。




もともとの知識が日本のものなので、やはり影響は受ける。桜のカミサマだって安直かもしれないが大目に見てもらいたい。

いや、自分だけの世界なんだから誰も気にしないのだが。




「桜のカミサマですね、分かりました。行きましょう」

ここで本当ならカミサマの名前が出るのかもしれない。でも直也の口からは何一つ出ない。飽くまでサポーター故に、決定権は何一つ持たないよう配慮されているようだ。




ようやく、『ソト』に踏み出す。

元現実ではない、バーチャルだろうが今の『現実』に。







『選択』から逃げに逃げるとこうにも話が進まないらしい。

少しの誘導は必要そうだ。

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