SCP-548-JP「歌う雨音」について
晴れた心に傘はもういらない。
オブジェクトクラス:safe→Neutralized
SCP-548-JPはサイト-■■■■の至って普通のロッカーの中に収容されています。
実験の際にはランク2の職員に許可をもらうことで、特定の場所にのみ持っていって使用することが出来ました。出来ましたというより、むしろ実験は歓迎されました。何故かというのは…後回しで。
SCP-548-JPの見た目は一般的に販売されているビニール傘のそれです。
特異性は「雨に当たると雨音がピアノの音色に変わる」というもので、雨音以外…例えば、蛇口の流水とか川の水では特異性は発揮されません。雨だけです。
雨に打たれ続けるとピアノの奏でる音に変わり、その音色から出来る曲はショパンの「練習曲作品10第3番ホ長調」ーーー「別れの歌」と言った方が分かりやすいでしょうかーーーに該当します。
これ以降、実験などでSCP-548-JPをさしている人を「被験者」、SCP-548-JPが雨に接触して起きる「音の鳴る現象」をSCP-548-JP-Aと表記します。
雨が触れる瞬間にSCP-548-JP-Aが発生するのか、と言われるとそうではなく、大体雨が触れてからSCP-548-JP-Aの発生までは0.7〜2秒ほどのラグが存在します。
そして、演奏する度に技術が向上します。そして音色は「楽しそう」であると聞いた人に思わせる音色になります。際限なく。が、逆に長時間に渡り演奏しなければ技術は比例するように落ちていきます。練習が大事だって事ですね。
部屋の中に入ったり、途中で雨が止んだりすると例えサビの部分でも演奏を停止します。どこから声を聞いてるのか、その膨大な情報はどこから仕入れているのか分かりませんが、要望に応じてその要望に合ったSCP-548-JP-Aが発生します。つまり某X日本の某紅い曲をリクエストしても某紅い曲が流れて、サビの某紅く染まった部分でも雨が止めば曲が止まるってことです。生殺しですねコレは…
発見に至った経緯ですが、■■■■年■月■■日、【削除済み】において発生した、ピアノの発表コンクールに向かう途中の女の子と車が衝突した交通事故の後に発見されました。
交通事故時雨が降っており、SCP-548-JP-Aが発生。様子を見に来た野次馬Aが「なんだアレすげぇ…」的なことを漏らし、SCP-548-JP-Aの技術が上昇したところに財団職員が駆けつけました。その後、SCP-548-JP-Aを聞いた野次馬及び警察官にはしっかりとAクラス記憶処理を施しました。
その後の調査により、ピアノ発表コンクールに向かう女の子の演奏曲が練習曲作品10第3番ホ長調であることやSCP-548-JPは元々彼女の持ち物であったことが分かりました。
《第1期実験記録》
実験担当者…塚原研究員
1回目内容:SCP-548-JP-A発生後、Dクラス職員Aに拍手させた後に「練習曲作品10第3番ホ長調」をリクエストさせる
結果:旋律がやや乱れがちながらも終始「楽しそう」な音色で弾き終えました。
考察:上手く演奏出来なくても楽しめてるようです。楽しければokです。
2回目内容:SCP-548-JP-A発生後、Dクラス職員Bに5分間SCP-548-JPをバカにした後に「練習曲作品10第3番ホ長調」をリクエストさせる
結果:リクエストを無視し、大音量で音成らざる騒音を発しDクラス職員Bの鼓膜は破壊しました。
考察:悪意には悪意で返す辺り、人間らしい反応だと思います。
3回目内容:SCP-548-JP-A発生後、Dクラス職員Cに拍手させた後に【
結果:無視することなく演奏。終盤の演奏は「軽やか」に感じた。
考察:ジャンルに好き嫌いはないようです。
ここでちょっとしたアクシデントが発生しました。
最初に収容していたサイトに雨が降らない事態が発生。やっとこさ降った雨でSCP-548-JP-Aを発生させたところ、著しい演奏能力の低下、普通のSCP-548-JP-Aによる演奏音にただの雨音が確認されました。その後、演奏を続けたことによってなんとか元々の演奏技術まで戻しましたが、最初に書いてあった「演奏しないと技術が落ちる」というのがここで判明し、この技術の落ちた先の「特異性を失う」ことを恐れて定期的に雨が見込めるサイトにお引越しです。
「雨のたびにSCP-548-JP-Aを発生させるなら、優先度の低い実験もやっていいのではないでしょうか?」とは、塚原上級研究員の発言です。
…いつのまにか昇進してますね。塚原さん。
《第2期実験記録》
1回目担当者:塚原上級研究員
1回目内容:塚原上級研究員が被験者となった状態で■■助手がSCP-548-JPへ向け、「練習曲作品10第3番ホ長調」をリクエストする。
結果:リクエスト通りに
考察:リクエストする人が被験者でなくても別に良いようです。また、一人の時よりもなんだか上達が速くなっている気がしたので、そこも確認したいです。
2回目担当者:■■助手
2回目内容:SCP-548-JPに向け賞賛を与えた後、「練習曲作品10第3番ホ長調」とモーツァルトの「キラキラ星変奏曲」を続けてリクエストする。
結果:二つの曲が一緒に流れることもバックレることもなく、しっかりとリクエストの通りの
考察:リクエストは一度に複数行っても問題ないようですね。
3回目担当者:塚原上級研究員
3回目内容:■■博士、塚原上級研究員、■■■研究員、エージェント・■■■■計4名による賛辞の後、「練習曲作品10第3番ホ長調」をリクエストする。
結果:腕前がとても上昇した
考察:複数人で実験を行うとやはり技術の上達が速いようです。
…ここでまたもやアクシデントが発生しました。
日本全土を巨大な寒波が覆い、三カ月雨がほとんど降らない状況が発生。念願の雨で急いで実験してみると、
今や博士とまで昇進した塚原さん。SCP-548の特異性を失ってたまるかと、Dクラス職員、財団職員、研究員、エージェント…大量の人を呼び、コンサートを実施しました。
…いえ、コンクールでしょうか…?
《第三次実験記録》
担当者:塚原博士
内容:計約■■■■■人の人(想定より多く集まったので実際は不明)の前でSCP-548にビゼーの「カルメン前奏曲」、リストの「第3番 嬰ト短調」(通称:ラ・カンパネラ)、モーツァルトの「ピアノソナタ第11番第3楽章」(通称:トルコ行進曲)をリクエストし、SCP-548-JP-Aが終了する度に拍手と賛辞を送る。
結果:期待以上に技術が向上。「ピアノソナタ第11番第3楽章」終了時点でプロ並みの腕前と化していた。
演奏終了後、いかなるリクエストも引き受けず10分くらいSCP-548-JPが沈黙、その後、リクエスト無視でとある曲を演奏し始めました。その音色は、聞いた者全てが口を揃えて「満足そうな音色だった」と発言しています。
とある曲を演奏し終えると、SCP-548-JPは突如大きな力に弾き飛ばされるようにーーーまるで巨大ななにかに轢かれるようにーーー吹き飛ばされ、そのせいで骨組み部分と中棒が損傷。特に酷かった傘布には大型車のタイア痕が。
その傘を修理しても…もう二度とSCP-548-JPとしての特異性が発揮されることはありませんでした。
…そうそう、忘れてました。沈黙10分後に演奏した曲の曲名をまだ挙げていませんでした。
SCP-548-JPが最後に演奏した「とある曲」の曲名は…ショパンの「練習曲作品10第3番ホ長調」。
ーーーー日本で呼ばれている名前は、「別れの歌」でしょうか。
皆さんも「傘」使いますよね?どんな時、傘を『閉じ』ますか?
奏者の心も『晴れ』、舞台は幕を閉じるようです。
さぁ、目一杯の拍手で出迎えましょう。
ーーーーーーーfin.
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