第22話 夢みる黄色
ぬぅーん。遅刻扱いになっちまった。
数学は苦手だから、せめて出席日数だけでも稼ぎたかったのだが、無念である。蛍光灯をバリバリと食いちぎって、破壊と自傷、ダブルを満たしたい気分。
にしても、僕が遅れて教室に入ると、なんだかおかしな空気になっていた。先生が公式を板書しているのに、ざわついていた。
理由はわかってるさ。
そりゃさ、休み時間にヤンキー姉ちゃんがクラスに乗り込んできたんだ。自由科の生徒が、普通科、特別進学科、スポーツ専攻科の校舎に侵入する。校則にはない不文律を破ったのだ。そりゃ、こうなるだろうよ。
たぶん、風紀委員の義朝くんが代表して注意しにいったのだろう。で、思いっきりガンを飛ばされたんだろう。殴りは……しなかったろうな。机が綺麗にならんでいるし。それでも義朝くん、トラウマものだったろう。頭を抱えて突っ伏している。ごめん。
僕は両手を合わせながら、みんなに頭を下げつつ席に座ると、隣の高山さんが小手紙を僕に手渡してきた。
え!?
まさかこのタイミングで告白!?
高山さんは、このクラスの女子でもベストスリーに入るキューティーな女の子だよ!?
そんな彼女が僕にフォーリンラブ!?
な、訳ない。
とは言え、女子から小手紙もらうとテンション上がるのな。スマホのメッセージよりも古風で。そんなことはいい。
小手紙には、
『悪級劣が家路君に昼休みに自由科校舎の屋上に来いって言ってたよ。大丈夫? 義朝くんが風紀委員会で相談するか悩んでるみたい。私は風紀委員よりも先生に言った方がいいと思う。私でよかったら一緒に職員室までついていくよ』
と書いてあった。
柑橘系のいい匂いがした。この紙は大事に取っておこう。机の引き出しの奥に仕舞っておこう。そして、いつか僕が自立して引っ越すときがきて、荷物を整理しているとこの紙が出てくるんだ。ああ、高山さんはいい子だったなー。告白しておくべきだったなー。と、苦い思い出とともに。
妄想ダメ。
高山さんも不審そうに見ているしね。
『ありがとう でも心配しなくていいです あの人は僕の知り合いなんです いろいろご迷惑おかけしました』
僕の小手紙に高山さんは納得できなかったようで、
「いいの?」
と小声で囁いてきた。
僕も、
「全然、大丈夫っす」
と答えた。ホント、高山さん、いい子だな。結婚したい。
しかし、相当、レツさんのインパクトは凄かったらしい。ままま、正直、僕も今朝目茶苦茶睨まれたし、ぶん殴られたしね。悪い人ではないけど、ガラはよくないな。顔とスタイルはいいけど、ファッションは破滅的だな。照れたり焦ったりすると案外可愛いんだよな。
はい、おかげで今日の数学の公式は何一つ、覚えられませんでした。まっったくの無駄な二限目でございました。高山さんの魅力とレツさんの萌えについて考察して終わりました。わきゃあ。
そうそう。当然のごとく本庄やヨシクニからも、スマホで高山さんの小手紙と同じような内容が届いたし、休み時間もいろいろ訊かれたし心配されたけど、杞憂だっての。
レツさんは自由科でも
同時にヒーロー仲間? でもあるかもしれない訳で、僕との関係性の一切合切が複雑過ぎだ。僕が平気って言っても、周りからすればそう思えないのはよくわかる。でも、僕は「大丈夫す、大丈夫す」しか答えられない。あー、もやもやしてしようがない。
とにかく昼休みに自由科の校舎屋上に行くしかない。そこでレツさんと話し合うしかない。校長のとこまで連れていくしかない。……校長か、これまた、会いたくねえなあ。おや? レツさん、携帯じゃ学食で待ち合わせって言ってなかったっけ? どっちでもいいか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます