第21話 赤と電話

 下駄箱から普通とさして変わらない制服を受け取って、更衣室まで行くのも面倒なので、トイレで着替えることにしたんだけど、個室でもぞもぞしていると、スマホがヴヴヴと振動した。


 レツさんからだ。


「あー、牛乳か? 今、どこだ?」


「あ、姉さん、SMSを読んでくれました?」


「おいおい、難しいハイテク用語を使うんじゃねえよ。あたしのさ、携帯が授業中、鳴ってさ。大変だったんだぜ? 何回も何回も、連発で鳴るしよ。授業中だぜ、気をつけろよ」


「いや、それは姉さんがマナーモードにしていなから……」


「だから、ハイテクはなしな! それとレツって呼べ!」


「あ、すんません、レツさん。でも、マナーモードはただの機能なんですけど」


「ごちゃごちゃうるせえ。今度、まとめて教えてくれればいい。……で、何だっけ? あ、そうだ。お前からのハイテクみたいでさ。よくわかんねえから、直接訊きに来た」


「え?」


「牛乳、お前、一の五だろ? 今、あたし、お前の教室にいるぜ。どこ、お前?」


「マジっすか!? わざわざ来てくれたんですか! あ、え、えーと、僕も今すぐ戻りたいんですがね、ちょ、ちょっとトイレでして」


「ああ、そっか、悪ぃな!! 変なときに電話してよ。それじゃ、また後で顔出すわ。つうか、昼飯、一緒に食おうぜ!! 学食あるんだろ、このガッコ? 昼休み、そこで待ち合わせな!」


「あ、待ってください、レツさん。切らないでください。実は大事な、この学園での注意事項がありましてね。自分の身を守るためというか、是非知っておいて欲しいことで……」


 僕は声を潜めて、レツさんに悪級劣ワルキューレについて説明する。今一ピンと来ていないみたいで反応が薄い。だから一層と熱が入る。


「うーん、よくわかんねえけど、わかったよ。気をつければいいんだな。ありがとよ、牛乳。っと、二時間目、始まっちまったじゃねーか。それじゃ、後でな。……おい、こら、あたしの教室まで案内しろ」


 理解はしてもらえたらしい。それだけでも充分だ。


 ここで問題に気付く。授業が始まったにも関わらず、僕は未だトイレで着替えを終えていないことに。これって遅刻になるんすかね。独り、トイレで呻いた。

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