第2章 赤、参上
第11話 赤の気配
困ったことになってしまった。これでは遅刻してしまうかもしれない。
二階の自分の部屋から、幼なじみである百田の家の玄関を覗いているのだが、未だ出てくる気配はない。
いや、別に百田と一緒に登校したいとかじゃないんだよ。マジで。
昨日のてんやわんやで制服がズタボロになったから、ジャージで登校する羽目になっただけで、それを百田に見られたくないだけなんだよ。
いじめられっ子だと思われたくないんだよ。
た、確かに、僕は昨夜、「にょーにょー」言うロボット達? からボコボコにされた。そしておそらくは本物のヒーローによって命を助けられた。
善かったと思う。
命は本当に大事なんだと痛感した日だった。二回も死にかけるなんて、そうそうないだろうし。
なんて不幸だと実感した日だった。二回も制服がズタボロになるなんて、そうそうないだろうし。
はぅああ、と溜め息が自然と漏れでた。そりゃそうだ。
Aさんの言葉を信じるなら、僕が黒ロボット達に襲われたのは体内に大量投与された
僕が連中に為す術を持たなかったのは、ガンジーの英雄精神によるものなのだろう。
非暴力&非服従。のカレーなる精神。
わきゃあ。
っていうか、どうよ、それ、ヒーローとして?
悪の集団に対してハンガーストライキする正義の味方ってどうよ? どんだけ気の長い戦いだっての。むしろ、されるがままじゃん。昨晩みたいにめちゃくちゃのずたずたにされても、何もできない。
非暴力じゃない。抵抗する力がないんだ。
非服従じゃない。有無を言わされなかっただけだ。
その意味では、己の鋼の精神を貫き通したガンジーは立派な人だ。まさに
すげえよ、あんた。パねえよ。
まがい物な僕には到底太刀打ちできない。
つっても、僕にもゴミのようなプライドがある。このまま、黒悪集団にやられっぱなしでいてたまるか。ヒーローは実在した。僕を助けてくれたあの人こそ、正規のヒーローだ。だから贋作・人工・非正規ヒーローの僕が選ぶ道は一つ。
残りの四人を見つけて、僕の身体(+制服)を助けてもらおう。あわよくば、悪の組織を壊滅してもらおう。
僕? うん、隅っこで体育座りをしてるよ。
不幸中の幸い、あれだけ滅多打ちにされたにも関わらず、身体はなんともない。事故といい、暴行といい、それでも尚健康なボディとは悪運に恵まれているのかもしれない。両親に感謝しないといけない。
……そろそろ、出ないと不味いよなあ。
百田はまだ出てこない。彼女はきっと低血圧なのだ。だっていつも気怠そうだし。
ま、まあ、ここ数年、ちゃんと話してないから、なんとなくの雰囲気ね。
故に、今朝、百田と登校が一緒になる。
「あれ、おはよう、久しぶりね」
「おぉ、お、おはよう、百田。き、奇遇じゃん? 今、出るの?」
「昨日遅くまでスマホで話しててね。……あなたは元気? 今日は随分と遅いんじゃない?」
「う、うん。バ、バリバリのボチボチだよ! 僕も昨日遅くまで忙しくてさ」
「ふぅん、なんで体操服なの?」
「ぁああ、これ!? け、健康のためにさ、学園までジョギングしようかと思って」
「あ、そう、頑張ってね」
と、彼女が言い終わるや駆け出す僕。振り返りもせずに全力疾走。そのまま失踪。
……55点だろ、こんなの。
何年ぶりかの会話だぜ? もうちょっと何かあるだろ? 学園のマドーンナ、百田と話すんだぜ? しかも幼なじみって最高のポジショニングで、だ。これじゃ次回の会話につながらない。下手すりゃ数年後に、悲観的に考えれば、母親から「知ってる? 百田さん、結婚したんだって。残念ねえ、あなたも幼稚園のころ、彼女と結婚するって言ってたのにねえ」と帰郷した僕に告げられるのであった。完。やだやだやだ。
せめて百田とチューしたい。千歩譲って、手ぇ繋ぎたい。ぎゅーって。
きゅん。
って、言ってる場合か! ようやく百田は家を出た。よし、僕も学園に行くとするか。
彼女と話すのは、もっと僕が良いコンディションの時だ。
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