第9話 黒集団と黄色

 夜道を歩きながら、ホント、ひどい一日だったと思う。


 僕史上、最悪の日と言えるだろう。受験失敗とか、就職難とか、好きな女の子にフラれるとか、そんなことよりもずっと。


 百歩譲って、戦隊ヒーローになったのは認めても良い。


 だが、どうして黄色なんだ。


 どうして、よりによってガンジーなんだ。


 類い稀なる素質ギフトつったっけ? 英雄なんて、一杯いたじゃないか。坂本龍馬、関羽雲長、サラディン、オデュッセウスもそうだ。みんな、最高にクールだ。なぜ、そういう人たちをチョイスしないのだ。


 そりゃ、ガンジーについても調べたよ。校長から新しくもらったスマホで。立派な人だと思うよ。誰にもできない偉業をなしえた英雄だと思うよ。


 でもさ。


 弱そうじゃん。いや、絶対弱いじゃん。戦隊ヒーローに向いてないじゃん。


 だから黄色なんかになちゃったんだよ。


 と、ここで、冒頭の僕の愚痴につながる訳。善かったら読み直してみて。たぶん、僕の気持ちに共感できるから。


 はあ、と大きな溜め息が漏れる。人気もいないし、わざとらしくやってやった。


 校長は、


「まずは、他の四人を探すんだ。悪の組織が巨大になりつつある今、その力を結集せねばならん」


 って、言ってたけど。


 そんなこと知らん。だって僕は黄色だし。そんなの赤の役目だろ。


「と言っても、Hiヒロニウムは観測されても、その持ち主を特定できないのだ。正確な位置データまでを掴めないこともある。しかし、それ以上にこの町の住人は多い」


 だったら尚更、一介の高校生に見つけられる訳ないっしょ。無茶振りも良いところだ。今日、一日全部が無茶振りだったけど。


 はあ。溜め息が駄々漏れしっぱなしだった。


 だけど、そうとばっかりは言ってられないか。現に僕は戦隊ヒーローになっちゃった訳で、それはもうあらがえない事実な訳で。


 しょうがねえ。


 と、開き直ったところで、空腹に気付いた。


 そういや、牛肉コロッケを食べようと思っていたんだ。お肉屋さんで売ってる揚げたてホッカホカのヤツ。でも、時間が時間だ。商店街はみんな閉まっている。


 忘れていたが、今日は両親も遅くなるって言ってた。


 まあ、コンビニでいいか。カレーパンとカレーまんがあればいいんだけど、と頭によぎったところで、慌ててその欲求を否定する。


 黄色がカレー要素を食べてたら、黄色の思うつぼになる。


 意味不明だが、そんな気がする。自分の運命に流されていく気がするのだ。


 僕は商店街の外れにあるコンビニを目指す。そして、その途中にある有料駐車場の前を通りかかる。


 僕は目撃する。黒タイツを身に纏った不審者集団を。


 やべえ。と思った。ヤンキーに絡まれる寸前に感じる、悪寒に似た直感だ。


 僕は足を速めた。なるべく目を合わせないようにした。


「にょー」「にょにょー」「にょーん」


 と連中は不可解な言葉を発していた。抜けていて、世間をバカにしているような。


 いよいよ末期だな。と走りかけたが、時はすでに遅かった。制服のブレザーの襟足を、凄まじい力で引っ張れた。


 僕はしこたま後頭部を打つ。僕を見下ろす黒タイツ集団。目出し帽のようなモノを被っているが、目が虚ろだった。どことなく作り物っぽかった。


 連中は僕を駐車場の隅へと引きずっていく。抵抗はした。思いきり暴れたつもりだ。手足を振り回し、なんとか逃げようと試みた。


 無駄だった。


 僕は集団から滅多打ちにされる。四方八方から手や足が飛んできた。その一つ一つを理解できないくらい、痛めつけられた。痛めつけられ続けている。意味がわからなかった。まるで子供がじゃれつくように、ただ理不尽で徹底的だった。


 僕は両腕でなんとか頭と顔だけを守ろうとした。立っているのもやっとだった。


 それでも暴力は止まらない。

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