第2話 瀕死の黄色
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「…………どうかね、容態は?」
「手は尽くしました。後は本人の気力次第かと」
………………え?
「……そうか。最善を頼む。このような勇気の持ち主は失いたくない」
…………何?
「ええ、もちろんですとも。事故の凄まじさは、彼の身体自身が物語っていました。その経緯も。執刀した私が一番理解しています」
……へぇ!?
「まさか、こんなことになるとは、まだ若いのに、いや若さ故か」
はああああああ!?
何!? 僕、死ぬの!? ちょ、ちょっと待って!? え、何、マジ、何ですか!?
と、はるか遠くから聞こえてきた二人の会話によって、僕の意識は戸惑いと恐怖やらがごちゃまぜになって、混乱、むしろ錯乱とともに呼び戻された。
「おお、目覚めたようだ! 大丈夫かね!?」
「気分はどうかしら? どこか痛む?」
死にたくない!! 嫌だ!! まだ絶対に死にたくないんだ!! そんな思いが僕の脳みそを拘束し、九九の二の段すらも答えられないくらい、頭の中が一杯一だった。とにかく息が苦しい。喉を掻きむしりたい。
「様子がおかしいぞ!? 何が起こっているんだね!?」
「ご心配なく。ただのパニックです」
そのとき、右腕にちくりとした痛みが走った。それとともに、すぅーっと気持ちが安らいでいく。さっきまでの頭を埋め尽くしていた恐怖が、あっという間に消え去った。
そして僕の心に落ち着きと平静さが訪れた。
LEDの灯が白々しい。ベージュのカーテンで仕切られた空間、僕はベッドに横たわっていた。
身体は動かせなかったが、様子は窺える。
どうやら病院らしい。僕は再び安堵する。
「ふむ、どうやら安心したらしい」
「当然です。
「君、それは!?」
「はい、俗に言う麻薬の一種ですね」
おや? と僕はようやくここで二人に気付く。僕の顔を眺める白衣の女性と初老の男性。おかしいな。二人とも何となく見覚えがある。
白衣の女性が僕の右目にペンライトをあてた。眩しい。
「意識は明瞭ね。ここがどこだかわかる?」
あれ、この人って確か保健の先生じゃなかったっけ? 一部、年上マニアに受けているお姉さんじゃないか。
「善かった。うむ、何はともあれ、善かった」
うん、校長先生だよな? 朝礼で見たことある。フライドチキンを売ってそうな、挨拶が長いおじさんだ。
校長は僕の右手を強く握りしめた。
「君、ありがとう! 本当にありがとう! 君にかける感謝の言葉が見当たらない。……ただ言わせてくれ。 君は人類の未来を守ったのだ。ありがとう、私の猫を助けてくれて!」
何言ってんだ、このおじさん? とかなりヒキつつも、涙する校長の姿に、僕はあの事故のことを鮮明に思い出す。
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