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15歳になった僕たちは、愛用の武器と少しのお金、食料を持ってエルフの里をあとにした。まずは1番近いフレシュカの町へ行って、冒険者の手続きだ。それから簡単に依頼をこなしながら王都を目指そうということになった。
無事に冒険者になったあとの旅は、いろいろとあったけどまとめて言うなら楽しかったかな。簡単そうな依頼だと思ったら実はものすごく大変だったものもあったし、知り合った同業の人と酒を飲んだこともある。シアンがスタイル抜群の美女から誘惑された時はちょっとヒヤヒヤしたって経験も。
そういうこと全部まとめて、楽しかった。
冒険者生活は順調。そんな日々の中、単独では結希探しを続ける。何を手がかりにすればいいかなんて全然分からないけど、じっとしておくことなんて出来なかった。
獣族に生まれていたら寿命は100年もない。人族だって150歳ほどしか生きられないんだ。エルフの時間感覚でいて、結希の生まれ変わりを見つけたと思ったらもう死んでいた、なんて事態は絶対に避けたかった。
「バルド、今騎士団の入団試験やってんだってさ。何かさ、力試しに参加するやつも結構いるらしいんだよ。──俺らもちょっとだけ、やってみねぇ?」
王都についてシアンが持ちかけてきたその提案を蹴らなかったのは、自分がどこまで強くなったのか知りたいと思ったから。
決して騎士になりたかったわけじゃない。
入団試験の結果は2人揃って「まだまだだな」と苦笑するしかないものだった。現役騎士を相手に武器も魔法も自由な試合だったんだけど、相手の騎士に膝をつけさせる程度で、剣を弾くことも突きつけることも出来ず。
修行頑張ろうな、お互いに励ましつつ宿に帰ろうとしていたら──何故かどこかの隊長だという人から声がかかり、入団を勧められた。
断ったけど。
冒険者は自由だ。国境も関係なく、どこの国にも冒険者の身分証があれば入国審査を受けずに入れる。それは人探しをしている僕にとっては都合がよかった。
騎士になってしまうと国に縛られてしまう。それじゃダメだ。収入面の安定性はあっても、彼女を探せないなら意味がない。
僕はそういう理由だったけど、シアンは「規則とかガッチガチそうじゃん。俺そういうの向いてねぇよ」というなんとも呆れることを口にしていた。
…まぁ、それが本心じゃないことも知ってたけど。僕が冒険者を辞めないならとことん付き合ってくれる心づもりなんだろう。
その後、王都を出た僕たちはいろんな国を回った。獣族と人族の国を優先しながら、魔族や竜人の国にも行った。エルフの国は緑が多くて故郷を思い出す、いい国だった。
だけどどんなにいろんな場所へ足を運んでも結希の手がかりは見つからないまま時は過ぎていく。
焦りが募っていた22歳の実りの季節。魔族の国で依頼をこなし成功報酬を受け取ったあとのことだ。
歩いていたら「探し人に会いたいなら、時が来るまで待ちなされ」とすれ違い際に告げられた。魔族の女性だった。それも相当な年齢だと思われるご老人。
彼女は探しものが得意なのだと話した。そして何かを探している者を見つけることも。
「時が来るまでとはいつですか。どこで待てと?」
「おいバルド。信じるのかよ。どう考えても怪しいだろ…!?」
「信じる信じないは自由さね。ただ私はその人が幸せになれるちょっとした手助けをしたいだけじゃからの。老い先短いこの婆の話だけでも聞いてみないかい? なぁに数分で終わる話じゃよ」
「…貴女は僕の探しものが探し人だと言いました。それだけで僕にとっては信じる理由になります。教えて下さい!」
頭を下げるまでもなく、彼女は穏やかに笑って教えてくれた。
まだまだ先の未来に僕の探し人が現れる。今はまだ時期じゃないのだそうだ。どれだけ探しても見つからないだろうと言われた。
「大丈夫さね。お前さんはその人と結ばれておるよ。時期が来ればどこにいようとも自然と引き合わされるようになっとる」
「……っ。僕は、彼女だとちゃんと気づけるでしょうか」
「それも含めての“大丈夫”じゃ。気づけなくとも自然と分かろうて。…私の話はこれだけじゃ。お幸せに」
結局、それきりその女性とは1度も再会出来なかった。騎士になったあとも。
──そう、私は冒険者から騎士になった。母国であるスピアフォードで。
時間が経つにつれ女性の言葉を信じていいのかと自問することにもなったが、他に縋れる情報がないのだ。闇雲に探しても見つからないとも彼女は言っていた。…という思考に至る時点で私は完全に信じ切ってしまっている。
私が騎士になるのと同時にシアンも騎士団に入った。今回は「そろそろ恋人ほしいしさー。結婚まで考えるならやっぱ安定って大事だよな」と言っていたな。相変わらず素直じゃない。
まぁそういうところを含めて、ずっと付き合ってくれていたシアンには感謝しているしこれからも変わらない関係でいたいとも思う。
入団してすぐに所属部隊が第5と第6で別れたがな。
「バルド、お前今度見合いするんだって~?」
「誰だ、そんないい加減な情報を流したのは」
とはいえ、国境の守りを固める第6部隊に所属された私の元へは、長い期間を開けることもなくこうやってくだらない話の種を見つけては地方警備をする第5部隊にいるシアンが顔を出した。
1度「お前私の他に親しい友人がいないのか」と言ってみたことがある。もちろん冗談だったのだが「親しい間柄っていうならそうだなぁ。ある程度の仲ならたくさん?」と思ってもいなかった反応を返されてこっちが少し狼狽える結果になった。それきりその件について私がシアンに話をふったことはない。
「やっぱデマかー。だよなぁ」
「当然だろう。私には想う人が既にいる。それを知っているくせに何のつもりで確認を取りに来たんだ」
「いやー、俺らもう190歳じゃん? 流石に心変わりしても不思議じゃねぇよなぁと思って。てかこの歳で結婚してないエルフって、周囲からは危険物件的に見られんのかね?」
「何年経とうが私には彼女だけだ。見合いもしない。──シアンはその気になればすぐに婚姻出来るだろう? 私に気を遣うことはない。いい相手がいるなら結婚しろ」
「はぁ~? 何言っちゃってんの? 自分の結婚でお前を気遣うとかわけわかんねぇぞ。俺が結婚しないのは、こいつだって思える女と巡り合ってないからなの。分かる? 結婚してみたら何か合わなくて、別れたらこれだからハーフエルフは…って言われるんだぜ? ムカつくじゃん? 俺は絶対生涯1人の嫁さん貰って仲良くするんだよ‼」
「……その割に、恋人が変わる頻度が高いような気がするが?」
「そ、れはだな! いろんな子と付き合ってみねぇとどんな子が俺に合うか分かんねぇじゃん!?」
「……」
その考えはどうなんだ、親友よ。
前世の経験から言わせてもらうと、いくら何人の女性と付き合ってみて相手の好ましいところを見つけても、心の奥が動かなければいずれ関係は破綻するぞ。
…と少し助言してやりたくもなったが、流石に前世の話はシアンにも出来ない。
まぁ、陽希には恋愛感情ではなくても元から心にずっと「妹」という気にかける相手がいたからこそ、他の女性と続かなかったのだろうが。必ず最後には「私のこと特別だって思ってないでしょ」と振られていたな…。
その点シアンは心に誰かがいるわけでもないから、上手くいくこともあるのかもしれない。
「…なぁ、今度俺近衛に移動することになった」
「そうか」
「王都で王サマや偉ーい人の傍に控えるんだってさ」
「近衛だからな」
「柄じゃねぇよなぁ。魔物やら悪党とヤり合ってる方が何十倍も楽しそうじゃね?」
「…確かに、シアンが大人しく何時間も控えているところは想像が難しいな。だが出来ないことはないだろう。しっかり励め」
「えー。ぜってぇ暇だって。やだなー」
「…お前な。一応精鋭部隊の、多くの騎士が憧れる部隊だぞ」
「俺憧れたことないしー」
「ガキか」
ため息をつきつつ言うと、シアンは少し躊躇いがちに私を見て口を開いた。
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