その日わたしは、1
「んふふーっ。できた!!」
装飾の少ないシンプルな桃色ワンピースの上に、裾にフリルがあしらわれた可愛い白のエプロン。腰まである白金の髪は邪魔にならないようくるくる纏めてお団子に。
騎士団に入って半年。
わたしは今、やっと念願だった目標を達成させた。
お皿の上には一口で食べられる大きさの、チョコパイ。
「スノーティアちゃん、どうだい? 上手に焼けたかい?」
そう言って顔を覗かせたのは、ここ『ミィプ シェロゥン』っていう素敵な店名を持つパン屋の女将さんである。…店名だからこっちの発音に近づけてみたけど、笑顔一番って意味だ。城下にはいくつかパン屋さんがあるんだけど、ここは知っている中で1番小さなお店。
わたしがこのお店を好んで足を運ぶようになったのは、エルミラさんからエルくんへ店に来るよう連絡が入ったことがきっかけである。
なんとエルミラさん、わたしが妖精サイズのまま生活を送れるように、ドールハウスをもうちょっと大きくして、中の家具もきちんと使えるように丁寧に作ったものを準備してくれていた。
大きさはたたみ半畳ほどで、贅沢にも2階建て。プライバシーを守るためか前面がパカッと開いたりはしない。もうドールハウスというよりは精巧模型である。…安全面を考慮して、屋根は取れる仕組みになってるよ。寝室は2階。
ちょっと大きなそれを宿舎へ持ち帰るその途中に見つけたのがこのパン屋さん。
窓から見えた惣菜パンについ目が惹かれたの。ここのパンって形や食感はいろいろ研究されてるんだけど、惣菜が中に入ってたり上に乗せられてたりした状態で売られていることがない。
パンを買って自分で野菜や卵、お肉を挟んだり乗せたりすることはあるけど。
久しぶりに見た惣菜パン。その時のわたしは本来の姿で空腹なんて全く感じなかったのに、それでも惹かれた懐かしさ。
わたしがじーっと見ていたらエルくんも察してくれてお店に立ち寄ってくれたんだ。あとで聞いたところによると、エルくんも時々利用してるお店だったみたいだよ。やっぱり惹かれるよね!
騎士になってからいろいろとバタバタしつつも、この生活には慣れた。
お城から呼び出されて嫌々王様や宰相さんや、その他偉ーい人に挨拶することにはなったし、会う前から天敵認定していた例のとんでも王女様にも会ったよ。その際しっかりエルくんはわたしの宣言してやった! ふふん。
態度が生意気だとか不敬罪にするだとかいろいろ言われたけど、こっちも興奮状態だったからそれがどうした精神で応対。周りが顔色を悪くしていたり、呆れていたり、笑うのを我慢していたりとしていたけど、現状こうしてわたしは捕まってもいないし元気でいるから問題ない。
とんでも王女様はどうしようもなくワガママではあっても、根は悪女じゃないなって認識を改めた。ツンツンした悪役王女様って感じ? 今はまだ顔を合わせるたびに威嚇されるから仲良くなってはないけど、意外ととんでも王女様とは上手くやれる気がする。コツはね、適宜スルースキルを発動することだよ。
まぁ王女様の話はこのくらいにしておいて。
初のお給料でお菓子の材料を購入したわたしは、宿舎の厨房でアイスクリームを作った。レシピを細かく覚えてなかったから「要改良」の出来上がりではあったけどおいしかったよ。作業を見守ってくれていた料理人さんたちにもお裾分けして、なかなかの好評を頂きました。
…甘さが足りないって言う人もいたけど、知りません。わたしにはあれくらいの甘さがちょうどいい。
それからオーブンに慣れるためにクッキーとかマドレーヌとかも焼いたりした。お菓子にこだわらなくてもいいことに気づいてからは、なんちゃってピザとかグラタンとかも作ってみたよ。
初めて見る食材がたくさんあって困ったけど、すっかり仲良くなった料理人さんたちの協力もあっておいしい仕上がりになったし、情報も入手!
チョコレートの元になるカカオ──イガの実ってこっちではいうみたいなんだけど、それを取り寄せてくれて、お菓子作りに使えるよう研究までしてくれたんだ。料理人さんたちには本当に助けてもらった。
そんなこんなで、甘さ控えめのチョコレートがようやく完成。
初めてパンを購入した時に女将さんと知り合い、それからたまに足を運んでいたら仲良くなった女将さんから、パイ生地の作り方を教えてもらって。
そうやって準備に時間をかけ、わたしは今日、宿舎厨房ではなくここでチョコパイを作っていたのである。パン屋さんの方の厨房じゃなくて、自宅のキッチンを借りてるの。さすがパン屋さんなだけあって、プライベートのオーブンもしっかりしてる。
因みに騎士団からここまでは1人で来た。最初から変身魔法を使って。エルくんには渋られたけど。さすがに半年も経てば町での顔見知りもできる。人サイズ限定で近場になら1人で行っても許されるようになったんだ。──軽く剣を扱えるようにならなきゃ許可が出なかったから、頑張ったよ!
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