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17時前。余裕を持ってその部屋を訪れたはずなのに、席は埋まっていた。…正確には空いてるんだけど魔法陣があってね、その上に小さな人がいるの。そうちょうどわたしの本来の大きさと同じくらい。
でもその人たちには実体がない。ホログラムのように見える。
伝達魔法の1つだ。遠い場所にいてもテレビ電話のようにリアルタイムで相手が互いに見えて、会話できる。タイムラグもないという優れもの。
騎士団長、アドルフェリノ・キンズさん。
副団長、マリアーノ・フォードさん。
第1隊長、ディオン・バークスさん。
第1副隊長、エンリキス・オズリードさん。
第2隊長、イオス・ドネリさん。
第2副隊長、アルヴァン・スティエースさん。
って順番に簡単な紹介が始まったんだけど、当然ながら覚えられない。いいの、役職名で呼べば失礼はないから。それさえも今は間違えそうだけど。
円卓に時計回り順で座ってくれてるのが幸いかなぁ。会議が終わるまでに少しでも顔と役職を一致させられるといいな…。
伝達魔法で参加しているのは、第5の隊長さんと、第6の隊長副隊長さん、第0の副隊長さんの4人。他の、遠方勤務の方々は転移門を使っての出席になったようである。お疲れ様です。
1番気になった人はなんと言っても第0の隊長さん。…頭から首まですっぽりと黒い布に覆われてるの。顔分かんない。声も違和感があった。多分声質を魔法で変えてる。
さすが諜報部隊の代表者。魔法を使わずに声を変えることもできるはずなのに、それさえ聞かせるつもりはないらしい。伝達魔法出席の第0副隊長さんは顔半分隠れてる程度だったよ。隠してるのは上半分。目元隠すと正体分かりにくいよね…。
「でだ、今日集まってもらったのは、そこの娘っ子の件について至急話し合いが必要になったからだ。まずは自己紹介からしてもらおう」
団長さんから視線で促されたので、わたしは頷いて一歩前に出る。
「初めまして。妖精族のスノーティアと申します。先日、ウィルディー子爵領エルフの里付近で生まれました。どうぞよろしくお願い致します」
お辞儀をしたいところだけど、妖精族を含めて女性は挨拶の時、スカートをつまんで裾を気にしつつ腰を落とすのが礼儀ということになっている。だからきちんとマナー通りにやったよ。他ではお辞儀してたけどね! 言葉遣いだって意識すればちゃんとこれくらいのことはできるんです。
朝から噂になっているから、本部に立ち寄る隊長さんたちはわたしが妖精族だと名乗っても、特別驚いた様子を見せなかった。逆に事前情報がなかった部隊、特に伝達魔法で出席中の人は心底びっくりしてる。…あ、いや、諜報部隊分かんない。情報を取り扱う部隊のリーダーさんたちだから知ってたはず。うん。
「ま、そういうことで。3人は座ってくれ」
ここでようやく私たちは着席を許された。副隊長さんはとばっちりだったよね、ごめんね。
「さて、何から話すか。──やっぱ結論から言った方が早いな。俺の権限でスノーティアを騎士団に入れることにした。階級は医術師見習いだ」
「おい、医術師だと? どう見ても戦えそうには見えねぇぞ」
「妖精族の魔力は竜人族より上回るとは文献で見ましたが、それが事実かも分かりませんよ」
「そもそも本当に妖精族なのか? 俺のイメージだと手のひらに乗っかるくれぇ小せぇんだが」
と否定的な言葉がすぐさま飛び交うようになった。敬語で話す人もいればそうじゃない人もいる。団長さんも副団長さんもそれを咎める気配はない。
どうやら会議室では階級関係なく、対等に発言できるものらしい。尤もわたしはそれに当てはまらないだろうけど。
──でもなぁ。妖精族に生まれてから、どうもおバカさに磨きがかかってるんだよね…。丁寧語でさえちょっと意識が薄れると消える。前世ではそんなことなかったのに。
ある程度の否定的発言を自由にさせたあと、副団長さんが両手を叩いて黙らせた。そして。
「では、まずはスノーティアさんが妖精族だということを証明して頂き、次に魔力量…は証明が出来れば自ずとしれますから問題ないでしょう。医術師として一番肝心な回復魔法を見せて頂くことにしましょうか」
って話が進められたんだけど、そういうことは事前に教えておいてほしい。
妖精族だって証明? それってどうしたらいいの?
「…えっと…?」
「魔法を解くんだ、ティア」
「え、それだけで証明になるの? だって変身魔法なら自由自在だよ?」
「大丈夫だ。ほら」
「…うん。あ、でも落ちた服はエルくんでも触らないでね。副隊長さん、回収お願い」
何せ今のわたしはパンツも履いている。ワンピースだけなら誰に触られても平気だけどさすがに下着は恥ずかしい。だからここは同じ女性である副隊長さんを頼るんだ。
魔法解除は魔力消耗を意識的に止めてしまえば簡単にできる。1秒後にはわたしは小さくなっていて、着ていたもの全てが椅子の上に落ちた。わたし自身は解除前にしっかり両手でエルくんの肩を掴んでおいたからそこにしがみつけている。
「んーっしょっ…と!」
よじ登っていたらエルくんがサポートしてくれて、無事に肩の上に座れた。数時間ぶりの巨人の世界だけど、この大きさにも慣れてきたような気がする。ここから大きなエルくんの顔を見るのも嬉しい。
「えへへー」
「…ティア?」
「こっちの方がエルくんと近いのー」
「……」
「──見て頂いたように、彼女は魔法で体を大きくさせていましたが本来はこの姿です。変身魔法には膨大な魔力が必要になることは皆さん知っておられますね。……では次に移りましょうか」
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