その日わたしは、会議に出席した 1

 エルくんの王女様護衛任務は、王女様がお茶会に出かけると同時に終了になった。グラシアノさんも一緒だったよ。

 お茶会に同行するのは残りの4人だとか。そんなに人数いらないでしょ。


 ってわたしは思うんだけど、エルくんもグラシアノさんもどうやらその4人に感謝しているらしい。

 遅いお昼を一緒に食べながら聞いたところによると、その4人は通常であれば勤務態度に問題ありとされる、いわゆる問題児なんだそうな。

 貴族出の騎士で顔だけはいい。そして何より王女様のご機嫌を取るのが上手いらしい。グラシアノさん曰く「戦闘員として近衛に入れる腕じゃねぇけど、全くの役立たずでもねぇから便利なんだぜ」だそう。仲間だろうにシンラツである。


「にしても、騎士団に入るって思い切ったことしたな、スノーティア」


 そう言ってさり気なくパンを差し出しても食べないからね? しっかり見て。わたし今変身中。ほら、手にはちゃんと適正の大きさのフォークがある。


「ユリが伝令に来た時は何事かと思ったぞ」

「騎士団に保護された時のデメリット欠点をユディーさんが教えてくれたの。個人的には脅されたってエルくんと逃げちゃえばいいって思うんだけど」

「ブハッ。…スノーティアは時々男らしいよなぁ!」

「思い切りがいいって言って! …でもここはエルくんには大切な場所だからそうさせたくないなって。そしたらもう、自分の立場を変えちゃうしかないでしょう。ってことで副隊長さんに頑張って自己アピールして売り込んでみたんだよ」

「そこでタイミング悪く団長が来るとは…」

「タイミングだよエルくん。ばっちり書類も書いて提出もしたから、あとは団長さんから任命書をもらえたらわたしも騎士の仲間入り! 副隊長さんが言うには会議の時に渡されるんじゃないかって」

「──そうだろうな。肝心な時には迅速に対応する方だ、団長は」


 ため息をつきつつ、エルくんがお肉を刺したフォークを向けてきたから、ぱくりと食べる。じゅわっと肉汁が口の中に溢れておいしい。タレがさっぱりしてるから重くない。

 変身中だから魔力除去されてない、通常のご飯だよー。


「でもさぁ、医術師って激務だろ。戦闘だからって後ろに下がれるわけじゃねぇし。魔法使うなら妖精サイズじゃないとダメっつーことは、バルドとペアだよな。…振り落とされねぇ? こいつ、結構激しいぞ」

「私がティアを危険に晒すわけがないだろう」

「そうだよグラシアノさん。エルくんがわたしを落とすなんてありえないよ!」

「いやいやいや。遠心力を舐めるな。な? 2人で話し合って対策考えておけ」


 と言われたので、必要かなぁと思いながらも対策を考えつつお昼を終えた。

 …あれ、そういえば最初のサラダを食べた時以来わたしのフォークが仕事した覚えがない。トレーの上のご飯は完食してるし、お腹はそこそこ満たされてるのに…。



 その後、訓練所で鍛錬ということでわたしも女子メニューで参加してみた。生後3日の体じゃ全然ついて行けない。無念なり…。

 あちこち痛い。息苦しい。

 ボロ雑巾のように地面に倒れ込んでいたら、いろんな騎士さんに「大丈夫か~?」ってからかわれた。恥ずかしかったけど、無視されるよりは嬉しくて、適度な対応をしておいた。


 はにかんで「まだまだ、これから頑張るの!」。これで相手の胸には萌えダメージが行く。美少女すごい。女の人にも効果はあったよ。


 鍛錬後は久しぶりにお風呂に入れた。


「これが魔法で出来てるなんて信じられないわ」

「肌に吸い付くこの感じが、偽物なんて詐欺よ…!!」

「あうっ、あの、お姉さま方…っ。手が! 手の動きが怪しいよ…!! ちょ待っ…」


 髪を洗ってもらったり、背中を流しっこしたり、無意味に戯れたりとしたおかげで大分打ち解けられたと思う。

 いろんな意味で大変だったけど、それ以上に楽しかったよ! さすが騎士だけあって、お姉さま方はスタイル抜群でした。わたしのぷにぷにさとは全く違う…。


「わたしもお腹に縦ライン入るかなぁ」


 わたしと同じく汗を流し終えたエルくんの隣を歩きながら思わず零すと、エルくんが咳き込んだ。大丈夫? と見ればほんのり顔が赤い。…湯上がりのせい?


「──ティア。思ったんだが、変身時の君の体は実体はあるがまやかしだろう? 鍛錬を重ねて筋肉はつくのか?」

「………ああっ!?」


 衝撃の可能性に気付かされた瞬間だった。

 気づかなかった自分のアホさに泣けそうである。せっかくあんなに頑張って走り込んだのに。腕立て伏せもスクワットも、木剣での初めての素振りもしたのに…変身解いたら水の泡…。


「…妖精サイズで鍛えればお腹割れる?」

「…どうしても割りたいのか…」

「憧れだよ!」

「今のままでいいと思うんだがな」

「そんなこと言って、見たことないんだから分からないでしょー?」

「………いや、まぁ、あれは見てないことになる、のか?」


 何言ってるんだろうエルくん。王女様警護のあとの鍛錬だったからお疲れ? 記憶が曖昧になっちゃった? 考えるまでもなく、見てないでしょう。だってわたし、露出狂にはなってな…………。


 なっ。

 なっ、ななななっ、なってたぁぁぁああ!!!

 いや、あれは事故だけど!!

 でも素っ裸を披露したのは間違いない!


 たった2日前の記憶だよ、わたしバカだろ…っ。


「あ、あれは[ノーカン]で!! というか忘れてよう!」

「…そう簡単に出来ることではないと思うが」

「じゃあわたしがやってあげる! 大丈夫ボヤーッとモザイクがかかる程度だからっ」

「結構だ。かけるならシアンにやってくれ」

「ハッ、そうだった! エルくんよりもグラシアノさんだよ! エルくん、グラシアノさんの元へ!! 急務ですっ」

「はいはい」


 手を引っ張って急かしたわたしを、笑ってエルくんはされるがままになってくれた。別に今は一緒に行動してなくても大丈夫なのにね。エルくんはわたしに甘すぎる。


「だが、魔法を使うなら変身を解かないといけないだろう。どうするんだ?」

「あ。…妖精に戻る?」

「もうすぐ会議の時間だ。どうせ変身前後の姿を見せろと言われる。今解いて、もう一度魔法が使えるほど魔力は平気か?」

「ご飯食べたからそれは大丈夫だけど…。できれば着替えが必要ない、変身後から戻る姿を見せる方がいいデス…」


 近衛隊の部屋でできたのは単なる勢いだ。それもなく、多くの人の前で裸になるようなことはできない。というか勢いがあったとしても本来しちゃダメだよねーあはは…。反省…。


「グラシアノさんへの対処は会議が終わったあとにする…。それまで絶対グラシアノさんには何も言わないでね?」

「ああ。私も今回は全面的に協力しよう」


 そう言ったエルくんはちょっとご機嫌になったようだった。楽しそうで何よりである。

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