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「団長、副団長まで…。どうされたんですか」


 副隊長が尋ねると団長さんは笑いながら歩を進め「いや、緊急の会議の知らせをして回っていたところだ」と言い、わたしの目の前で足を止める。


「団長さん?」

「所属は近衛、肩書きは医療術師見習い、賃金は他見習いと同額、昇級と同時に賃金も増額。勤務時間帯は基本的にはフェアルと同じで、部屋は女子宿舎──そうだな。1人じゃ何があるか分からん。マーティンと同室なら危険もないだろう。これでどうだ、スノーティア」


 腕を組んでニッと笑いわたしを見下ろす団長さんを見つめ返す。

 これは騎士として採用してくれるってことでいいんだよね。さっき派手な音の裏でそんな声がしてた気がするし。

 交渉成立っぽい? しかも結構いい条件で。これに飛びつかないともったいないよね。


「──わたし、立派な騎士になれるように頑張ります! 団長さんありがとう!!」

「おう、心から感謝しろよー」

「はーい! でも部屋はエルくんと一緒がいいな」

「ダメだ」

「…けちー…」

「騎士になるからには規則は厳守してもらうぞ。──でだ、内容に少々変更が出たが会議はする。マーティン、フェアルと17時に会議室に来い」

「了解しました」

「団長さん、わたしは行かなくていいの?」

「そうだな…、フォード。どう思う?」

「…他の隊もスノーティアさんの話で持ちきりです。来て頂いたほうが手っ取り早いんじゃないですかね。機密内容を取り扱う会議でもありませんし」

「ってことだ。お前も2人と一緒に来い」

「はーい」


 話がまとまると、団長さんと副隊長さんはすぐに出て行った。始終足取りが軽い団長さんの後ろを行く副団長さんは何だか少しお疲れ気味のように見える。…いつもこんな感じで団長さんに振り回されてるのが簡単に想像できた。

 副団長さん、頑張れ。


 嵐が去って静けさを取り戻した室内。


「わたし、医療術師見習いになりました! 改めてよろしくお願いしまーす」


 とりあえず挨拶のやり直し。と思って言った直後、副隊長さんがユリさんを呼ぶ。


「すぐに隊長に報告を」

「了解です!」


 そのままバタバタと駆けていくユリさんをキョトンと見送った。同じ見習いでもユリさんは忙しそうだ。こんな些細なことでさえ伝令役に駆り出されるんだね…。

 っとそんなことより、わたしはこれからのことを考えよう。そのためにはまずはっと。


「副隊長さん、医療術師ってどんな仕事ですか?」

「そこからかー」


 副隊長さんに聞いたのにユディーさんが反応した。教えてくれるなら誰でもいいや。


 それから、仕事中の人たちは自分の仕事に戻ることになり、わたしは夜勤明けのユディーさんから騎士団について教えてもらうことになった。


 騎士団の実務部隊は、精鋭で構成される近衛隊をトップに、第0から第6部隊まであるらしい。部隊の数が意外と少ないなって思ったら、4と5は部隊の中でたくさんの小隊に分かれているのだそう。主に国中の警備が仕事らしいから。6は国境を守る人たちだから、そこもある程度小隊があるらしい。


 1つの部隊には戦闘員はもちろん支援隊員が配属されている。わたしが働くことになる医術師もその1つで、治療が専門になるそうだ。医術っていうくらいなんだから予想はしてたよ。

 ただ予想外だったのは医術師は半戦闘員で、半事務員でもあった。怪我人いないなら他の仕事して働けってことらしい。よって騎士団内で断トツの不人気職。雑用係とも呼ばれるみたい。

 医術師と似たようなことができるのが衛生士で、そっちは軽く治療魔法が使えたらなれるみたい。主な仕事は隊員の健康管理なんだって。


 そもそも騎士団が医術師として認める最低ラインの魔力量を持つ人が、団員さんには少ない。ここは人族の国だから当然所属する団員さんも人族が多いのは仕方のないことである。

 それならそのラインを下げれば問題解決! ってことにもならなかった。だからこそわざわざ医術師なんて職がある。


 怪我の治療だけならね、衛生士だけで事足りるんだよね。治療魔法と治癒魔法は別なの。病気を治すには治癒魔法が有効で、だけどものすごぉっく魔力が必要になる。人族の魔力量では厳しい。

 魔族でも平均より多い人じゃないと無理じゃないかな。エルフ族の平均魔力量があれば確実。知識さんの情報が時代遅れじゃないなら。


 でもね、それだけ魔力があれば十分戦闘職でやっていけるわけだ。騎士団に入って「魔力多いし素質もあるみたいだし、医術師なんてどう?」って声をかけられても大抵が断る。

 正式に医術師になってしまうと待っているのは過酷な仕事忙しい毎日。戦闘員として働いた方が断然楽だし、治癒魔法が必要な状況になればその時手助けすればいいだけの話だ。


 ということから、慢性的な医術師不足という問題を騎士団は抱えていた。

 そこになーんにも知らず、騎士団に入れてくれるなら何でもオッケーっていうアホの子が飛び込んできたら、利用する手はないよね。本人は自分で何でもできるってアピールしてたしね!


 因みに、人手が足りないから王都で働く部隊には医術師が配属されてないそうだよ。お城に優秀な医師お医者様がいるからだって。そりゃそうだ。

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