3

 ユディーさんとユリさんの会話を聞き終えたわたしが思ったのは「メンドクサイ」だった。


 わたしは珍しい妖精族。だから他の人より危険に晒される可能性が高い。主に人攫い関係で。そしてエルくんは王立騎士団で働く近衛隊長さん。

 再会で盛り上がって、エルフの里でお留守番する考えは最初からなかった。それはきっとエルくんも同じだ。だけど冷静だったとしても、きっと留守番は選ばなかっただろう。エルフの里が絶対の安全地ではない限り。


 エルくんの傍にいれば安全。だから王都に一緒に行く。常に一緒に行動すれば、周りはわたしが騎士団に保護されていると認識する。そうなれば悪い人は手を出しにくくなって、わたしが安心して過ごせるようになる。


 最初は軽くこんなふうに考えてたのに、どうしてこうなった。

 いろんな人に挨拶して回ったのは、単なる「初めまして、よろしくね!」って意味だけだったはずなのに。

 エルくんが団長さんと副団長さんに頭を下げたのがいけなかったのかな。でも仕事に同行させたいなら上からの許可がいるよね。黙ってちゃさすがにまずい。


 うーん、と考えて考えて、わたしはハッとした。そうだ、これが原因か。


「わたしが騎士になれば、問題解決!!」

「──は?」

「え!?」

「何だと…?」


 あれ、副隊長さんにまで聞こえちゃった? 騒がしくしてごめんね。


 何でそういう結論に至ったのかお兄さんたちに教えてくれ、と言われてユディーさんに連れて行かれたのは、副隊長が使用中の机の、隣の机。椅子がいいって言ってみたけど今はダメって言われた…。

 この机の配置からすると、多分ここエルくんの席だと思うの。隊で話し合いする時には必要だもんね。


 机の上で足を揺らしながら周囲を見渡すと、副隊長さん、ユリさん、ユディーさんの3人だけじゃなくて今室内にいる全員がこっちを注目していた。

 もしかしてさっきの会話みんな聞いてたの?


「さ、お前の話を聞こうじゃないか」

「え? 説明することあるかなぁ」

「いやいや、あるって。誰が聞いても説明要求するから!」


 ユリさんに言われて、わたしは首を傾げながら口を開いた。


「だって騎士団に保護してもらったら偉い人が権力振りかざしてわたしとエルくんを引き離すんでしょ? でもわたしには騎士団っていう後ろ盾がないと最悪攫われて知らない国で奴隷落ちしちゃう。エルくんはね、ただわたしに安全に過ごしてほしくて一緒に行こうって言ってくれたの。わたしに手を出せないように、騎士が守ってるよって周りに認識させたらいいって。だけど、わたしが一般人の立場じゃ傍にいるのが難しいみたいだし、保護されるのもダメってなったら、もうわたしがエルくんの傍に堂々といられる立場になるしかないよね! ──ってことでわたし騎士になる!」

「動機が不純なのに、清々しいほど正直だな!」

「…なると言って簡単になれるものじゃないよ、スノーティア。騎士になるには最低限の戦闘能力が必要になる。君は剣を振るったことがあるかい?」

「いや、副隊長。スノーティアちゃん、生後3日ですよ。あるわけないじゃないですか」

「…うん…副隊長さん、剣は経験ないの。弓なら少しだけ経験あるけどダメかなぁ?」


 前世では中学からずっと弓道を続けていた。部活じゃなくてね、ちゃんとした教室に通ってたんだよ。きっかけは漫画の影響を受けたっていうありがちなもの。でもなんだかんだ続けられたし楽しかったから、弓道は好きだったんじゃないかな。


「ほう、弓か」

「待った待った!」

「副隊長、何事もなかったかのように話を続けないでっ?」

「生後3日でいつ弓を引ける時間があったっていうの!?」

「む…。確かに…いや、しかしエルフの里は森にある。そういう機会に恵まれた可能性もないわけではないし、スノーティアが嘘をついているとも思えない」

「副隊長さん、わたし魔法が得意だよ。攻撃魔法、防御魔法、支援魔法も治癒魔法もぜーんぶ大丈夫! 欠点は自分で移動できないことだけど、頭とか肩とかポケットの中とか、なんならベルトに装着しての運搬も問題なし! とってもいい人材だと思うの。あ、魔法が必要ない時は変身魔法で大きくなれるから、やり方を教えてくれれば事務仕事はきっとできるよ。加えてお給料はもらえるならもらうけど、なくても困らない。低賃金でも可。但し、エルくんから引き離さないことが条件! こんな感じだけどどうですか」

「うわ…。ちっちゃい幼女ががっつり自分を売りこんだ…」


 周囲が軽く引いてるけど気にしない! これは交渉なんです。気後れせず、自分のペースに持っていくのが大事! …って何かの本に書いてあった気がする。事実かは知らない。


 この場で1番階級が上の副隊長さんの返事をドキドキしながら待った。周りもシンと静まっている。さっきまでのざわつきが嘘のよう。


「──スノーティ」

「よっしゃ、採用だ!!」


 バーン、と派手な音を立ててドアが開かれた。何事かと全員が音の正体へ目を向けると、銀髪の大男がそこにいる。そしてその影にはこめかみを押さえて首を振っている副団長さんが…。……いつからいたんだろう?

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