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「って、ん? ユディーさん? ユディールさん…?? あれ?」

「ああ、同名なんだ。俺はユディール・アスコット。ややこしいから俺はユディー、こっちの見習いがユリって呼ばれてる」

「なるほど。じゃあわたしもユリさんとユディーさんって呼ぶね。夜勤ご苦労様でした。わたし、妖精族のスノーティアです。よろしくお願いします」

「よろしく。隊長のところにいるんだってな。さっきちらっと耳にしたんだけど恋人なんだって?」

「わぁ! ちゃんと重要なところが欠けずに噂になってる。すごい!」


 噂はしょせん噂。正直、エルくんの傍に妖精がいるっていう情報程度にしか広まらないんじゃないかなって思ってたんだ。

 もしも自分が当事者じゃなくて人間だった場合として冷静に考えてみたら、恋人なんて聞いても信じない。そして知り合いに話すなら恋人情報は何かの間違いだと思って言わないでおこうと思う。

 そうやって思いやりだったり、逆に悪意を持って伝わっていくのが噂だから。


「ま、俺ら騎士だからな。噂もちゃんと広められないようじゃ伝令なんて出来ないだろ」


 言われてみればそうだった。

 ユリさんも伝令役としてフレシュカまで来ていたように、ここの人たちは誰であってもその役割を果たさなきゃいけない可能性がある。だからこんなに正確なんだね。騎士さんたちって記憶力いいんだなぁ。


「見た目は幼そうなのに、しっかり話せるんだな。隊長にまた変なのが寄ってきたんだとしたらどうするかって考えてたんだけど、いやぁ、まともそうでよかったわ」

「見た目だけじゃなく実年齢もピッチピチだよ。わたし今日で生後3日だから!」

「へぇ。妖精って損な種族なんだなぁ。生まれた時から自分で何もかも考えなきゃならないなんてさ」

「…おおう、思ってた反応と違う…。でも全然損じゃないよ。おかげで0歳でもエルくんの恋人にしてもらえたし、みんなとお喋りできるし、優しくしてもらえるし、あとはえーっと、みんなと同じご飯が食べられるよ」

「……かっわいいなー、妖精」

「ですよね。俺、近衛隊でよかったって今心底思います」

「癒しだわ。仕事明けだと余計に。…副隊長~、スノーティアってこれから毎日隊長と同じ日程で来るんです?」


 黙々と書類仕事に勤しんでいる副隊長さんにユディーさんが声をかけると、副隊長さんは書類から目を離さないまま「さぁな」と答えた。


「先程聞いたところによると、騎士団で保護すると団長が決めたそうだが、詳しくはあとで会議が行われることになったらしい。その結果次第だ」

「騎士団で保護されるなら、もうほとんど隊長と一緒にって確定じゃないですか」

「甘いな~。ユリ、ここは“王立”騎士団なんだぜ? 隊長個人が保護するのとは話が違ってくる」


 王立騎士団は国が税金で運営している施設。だから正式な保護となれば、わたしのことを国に報告する義務が生じてくる。そうなると国、というかお城にいる貴族や王族が黙っているはずがないから、わたしを1度連れて来いって召喚命令が出されるだろうとのこと。

 貴族と関わるなって言われたばかりなのにね。


 命令されたら騎士団は断れない。謁見して、もしそこで気にいられでもしたら、騎士団じゃなく国王が保護するって話になっちゃう可能性がある。

 そうなったとしてもわたしは断固拒否するよって言ってみたけど首を振られた。「もし隊長を騎士団から脱退させるぞって脅されたとしても、お前は拒否できるか?」って。


 別にね、エルくんが職を無くしたとしてもどうにでもなると思う。エルフの里に帰ればアルネストさんやシアチアさんたちがいる。次期村長としてアルネストさんを補佐しながら勉強すればいい。

 里に帰るのがまだ早いなら冒険者になる道だってある。この世界の冒険者事情には詳しくないけど、近衛隊長まで上り詰めたエルくんの腕なら仕事はこなせるはずだ。


 わたしはエルくんがどんな状況になっても傍から離れるつもりはない。騎士団にいなくても生きていける。2人でいれば。

 でも、それを正直に口にすることはできなかった。


 エルくんが200年過ごしてきた場所。それだけ思い出があって、知り合いがいて、仲間がいる。

 それなのにわたしのせいで全てを捨てさせるわけにはいかないことぐらい、分かってるよ。わたしは自己中な妖精だけど、ちゃんと大事なことは理解も納得も行動もできるんだから。


 そしてユディーさんは、逆もそうだと言った。わたしの安全を確保したいなら、と脅されたらエルくんは自分の気持ちを通せないって。


 まだただの可能性の話ではあるけれど。

 何か、ヤな感じ。ますます偉い人と会うのが嫌になっちゃった…。


「でも、報告しなくてもこれだけスノーティアちゃんの話が広まってますから、結局は呼び出されませんか?」

「一個人の彼女に国が何の用事があるって?」

「通常ならそう言えますけど、スノーティアちゃんは妖精ですからそれだけで呼び出す理由になるじゃないですか。それこそ保護を名目にするとか」

「妖精族だって世間に知られた種族だ。正体不明の生物じゃない。王立騎士団で近衛隊長を務め、普段護衛をしている男に対して「自分がしっかり守ってやる」なんてどの口が言えるんだ?」

「…確かに。あれ、でもそれなら騎士団で保護しても状況一緒じゃ?」

「騎士団に保護を頼むってことは、国に守ってくれって頭下げたのと一緒だろ。こっちから頭下げといて、保護するための措置には従わないなんて通用するわけないだろ?」

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