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 明るい時間に見る城門内は、昨夜とは何もかも違って見える。…ほとんどシルエットだったからね。

 まず、騎士宿舎はなんというか…学校の校舎みたいな外観だった。コンクリートとは違うのかもしれないけど、見た目はそれっぽい。屋上もあって、そこで日々洗濯物が干されてるらしい。宿舎にも数人侍女さんがいるんだよ。男子宿舎で見かけたのは見た目年齢50歳位のお姉さんだった。

 隣に訓練所、厩舎ってあるんだけど、距離は遠い。訓練所は野球場くらいの大きさのものが2つある。そんなに広さいるの? って聞いたら魔法を使用する訓練になるとこれでも狭いって言われた。魔法怖い。


 厩舎から少し奥に行くと騎士団の本部がある。宿舎と同じ感じかと思ったら、こっちは要塞っぽい。さすが騎士団。何がさすがなのか、自分で言っててよく分からないけど。

 3階建ての本部は最上階が役職を持つ騎士たちの執務室が並ぶ。事務職の人たちも3階に仕事部屋があるそう。2階はそれぞれの部隊の部屋だったり、会議室だったり。1階は医務室と水場と食堂。地下に本部勤務の使用人さんたちの休憩所があるらしい。

 日中人が多くて騒がしいのはもちろん2階である。わたしは誰かと一緒の時以外は行かないように言われた。人が多いと逆に危ないからだって。楽しそうだからちょっと覗いてみたいんだけどなぁ。…近衛隊の部屋なら許してくれる?


 城門から一番遠いところに建つのがお城。騎士団本部の建物と雰囲気は似てる。お城って聞くと白亜の宮殿みたいなのを想像したのに全然違った。残念だけどこれはこれで見応えはある。

 王族の住居区域は特定の側近と近衛隊の騎士しか入れない。それ以外は入城を許された人であればどこを見て回ってもいいらしい。わたしは今は単なるエルくんの客人だから、お城には入れない。エルくんが隊長として、書類に同行者だと記せば入れるそうだけど、そうなるとお城の偉い人に呼び出される可能性があるからしたくないんだって。

 会うだけならわたしは別にいいと思うんだけど…グラシアノさん曰く「お前、バルドと結婚したいんだろ? 貴族とは関わらないに限るぞ」だそうだ。騎士は準貴族爵だよとはつっこまないでおいた。そういう意味じゃないって分かったし。


 あれだよね、他人のものでも権力で自分がほしいものを奪う感じの。漫画やら小説でよく読みました。

 わたしはもちろん宝珠に魔力が満ちたら逆プロポーズでも何でもしてすぐにエルくんと結婚するつもりでいる。それですぐにエルくんの魔力をもらうの。だって生まれてくるまで200年だよ? エルくんは400歳超えてるんだよ! エルフの寿命は本人の気力次第とはいえ600歳っていう先入観がある。間違って老化が始まってたら大変だ!

 そういう人生計画があるから、変態貴族に目をつけられてエルくんと引き離されるなんてまっぴらごめん。


 王都でもずっと一緒だーって喜んだけど、やっぱり創作物みたいに都合よく物事は回らないんだなぁって実感中である。

 離れてる間の寂しさは副隊長さんの傍で紛らわそうっと。


 …それにしても。


「貴族の横暴を警戒するなら、結婚は無理でもせめて正式に婚約者にしてくれたらいいのになぁ」


 思ったことが口に出た。

 自分の声で意識を戻したら、わたし、大注目浴びてたよ! 回想してるうちにそういえば近衛隊の部屋に着いてたね。わたしを肩に乗せたまま、エルくんが何か喋ってたよ、そういえば。


 わたしの本音がしっかり皆さんの耳に届いたことは、目の前の様子を見れば分かる。

 紹介されたばかりの騎士の皆さんはびっくりしてこっちを見てるし、エルくんは手で目元を覆って天井を仰いでる。部屋の隅にいるグラシアノさんはゲラゲラお腹を抱えて笑ってたよ。


「──え、えぇと、その。…妖精族で隊長さんの恋人の、スノーティアです。…皆さんのお邪魔をしないように気をつけるので、どうぞよろしくお願いします…」


 やっちゃったなぁ、と思いながらも挨拶で誤魔化した。

 本当はエルくんの彼女ってことは言わないように言われたんだけど、もうこの場合は仕方がないよね? それに自己紹介の時に言うなってだけで、隠せってことじゃなかったし。

 エルくんは多分、自分が今現在こうなってる姿を知人や部下に見られるのを防ぎたかったんだと思うの。隊長さんだもん、威厳は大事だよね。

 その気持ちをくんで、言わないって決めてたんだよ? ホントだよ?


「たたったたた隊長!?!?」

「どういうことですかっ?」

「妖精ってだけで夢でも見てる気分なのに!」

「隊長についに恋人だと!?」

「俺らが王女殿下の癇癪に耐えてる間に、未来の嫁さん見つけて連れ帰って来るなんてあんまりだッ」


 騎士さんたちの反応は大半がこんな感じだった。で、残りはというと「ついに隊長も脱独り身か。長かったなぁ」「これで隊長狙いの女が他に目を向けるようになるぜ!」と祝う人や喜ぶ人。「…今日は自棄酒だわ」「それ私も混ぜて…」と落ち込む人。特に何も言わず関心もなさそうな人、がちらほら。あ、大笑いしてる人がそこに1人ね。


 そしてまだ気持ちを切り替えられないエルくんに変わって、副隊長さんがこの場を落ち着かせてくれた。因みに副隊長さんは祝ってくれた人である。グラシアノさんは副隊長さんを見習えばいいと思う。

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