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そんな会話をしながら歩き続け、見えてきたそれらしいシルエットに気分が上がる。暗くて全体が見えないのが残念で仕方がない。
高い城壁、手前は深い堀らしきものがある。そこにかけられた重厚な橋の先に騎士らしき人の影が2つ。長い棒のような物を持ってるみたい。お粗末なわたしの想像力じゃ、槍かなーぐらいにしか思いつかない。
ドキドキしながら橋を渡り、門番さんと話でもするのかなって思ったのにエルくんも門番さんたちも特に何もしなかった。あれ?
「エルくん、わたし入って大丈夫?」
「入らないと今晩休めないだろう」
「そうじゃなくて…。普通関係者以外立入禁止的に引き止められない? で、訪問理由を聞かれたり、門番さんに帰れとか言われちゃう展開じゃないの」
「…物語ならそうなった方が盛り上がる種になるだろうが。いちいち見知らぬ者を引き止めていたら混雑するし、2人じゃ捌ききれない。──あの門にはいろいろ魔法がしかけてある。害意ある者は通れないようになっているから、門番が動くことは滅多にないぞ」
「…おぉ…」
さすが魔法。万能ですね。
でも、それならわたしがここにいて大丈夫って許可はどうするんだろう。さっき手続きがあるって言ってたよね?
てことで聞いてみたら、宿舎の事務所で直接話を通すのだとか。基本的に事務所で申請、申請者の所属隊長からの許可、宿舎長からの許可で中に入れるらしい。実質、隊長さんから許可が下りればオッケーな仕組みである。
「…隊長さんが申請者の場合は?」
「特別な措置はないな」
「…ずるくない?」
「ずるくない」
ずるいよ。
──ま、まぁおかげでわたしは苦労もせずお城で過ごせるんだから、ありがたく思っておこう…。
城門内は1つの小さな町のように広かった。
王族が日々を過ごす大きなお城、騎士団の本部、訓練所、使用人や騎士たちの宿舎、厩舎、その他諸々の施設に加えていくつかの手入れが行き届いた庭やら畑やらがある。1つ1つの施設が大きい。
端から端までかなりの距離があるから、徒歩での移動は時間がかりそうだ。
「おー、戻ったか。いい休暇を過ごせたか~?」
騎士宿舎を入ってすぐの事務所にエルくんが入ると同時に低い男性の声が耳に飛び込んできた。
「予定外の仕事が入りましたが、無事に戻りました。カルヴァッド長、私の隊の者が不在あの間に何かやらかしてませんか」
「ハッハッハ。お前んとこは大丈夫さ。なーんにもなかったぜ。…で、そこのお連れさんは客人か?」
軽く挨拶を交して早速わたしのことに話が移る。エルくんにカルヴァッド長と呼ばれた男性は、長身のエルくんよりももっと背が高かった。そしてムキムキマッチョ。髪は黒くて、目は紫紺色。見えにくいけど瞳孔は縦に長い。──竜人だ。
初の竜人! うわーっ大きい! 強そうっ! 右頬から首筋まである古傷が強面をさらに強化させてる気がする! でもよくよく見れば整った顔立ちだよ。厳しそうだけど心根はいい人っぽい感じ。
一見宿舎の事務で働いてるなんて誰も思わないだろうこの人が、どうして事務所で働いてるんだろう? この体格だからきっと元々は騎士さんだよね。そして上下関係に厳しそうな騎士団で隊長のエルくんと気軽に話してる。ってことは、カルヴァッドさんはエルくんより上の立場だったことがあるのかもしれない。
騎士職を続けられなくなる理由って何だろう? 怪我かな。元気そうだけど後遺症が残るほどの怪我をする可能性はあるよね。…それとも家庭の事情かなぁ?
気になるけど、そういうことはもっと親しくなってからが礼儀だよね。我慢我慢…。これからお世話になるんだからきっと仲良くなれるはず。
「お、おい…なんか、珍しい反応をされてるんだが…」
「あー…。とりあえず滞在許可証を頼みます」
「あ、ああ。──ほいよ、これに必要事項を書いてくれ…」
まだまだ竜人観察を続けていたい気分ではあるけど、滞在許可証にも興味がある。
差し出された紙には何が書いてあるのかと覗き込んだ。
……おおー、見たことのない文字が並んでる。これがクアウテリト語なんだね。日本語よりはアルファベットに近い。でも形は全然違う。丸っぽかったりぐにゃぐにゃしてたり、四角っぽかったり、……なんか虫っぽいのもある……。
えーっと、記入が必要なのは申請者の名前と階級、滞在者の名前と申請者との関係、客室準備と食事の有無、滞在期間。あとは隊長と宿舎長のサインみたい。
備考欄もあるけど、わたしに関しては書くことないかな。
……って待って待って。
ねぇエルくん、何でそこに『許可なく食べ物を与えない』とか『1人でフラフラしていたら至急フェアルの元へ連れて来ること』とか書いてるのかな。手が止まらないよ! 備考欄が埋まっちゃうっ、わたしそんなに備考事項ないってば!!
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