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自分の足で歩く初めての王都の景色は、海外の町を歩いてる気分で楽しい。グラシアノさんが言っていたように人族だけじゃなく獣人やエルフの姿も発見したよ! 残念なことに魔族や竜人の容姿は人族とほとんど変わらないから分からないんだよね…。魔族は体のどこかに紋が浮かんでいるらしい。竜人は目の瞳孔が縦長。それくらいの差しかないそうだ。知識さん情報です。
暗くなってきたからとエルくんと手を繋いで歩いた。陽くんと最後にこんなふうに歩いたのはいつだったかな。小学の低学年くらい? 恋を自覚したら気軽に手も繋げなくなった。陽くんを好きになったことは今でも幸せだと思うけど、そういうちょっとしたスキンシップが取れなくなったのは損したなぁと思う。
もう一度手を繋ぐ前に死んでしまったけど、またこうして繋ぐことができた手は剣を扱うからか硬くて、すごく大きい。触れ合ってる部分はもちろんのこと心が何より温かい。…多分幸せってこういうことじゃないかな。
「…エルくんは、宿舎で暮らしてるんだよね?」
「ああ。騎士団に入ってからはずっとそこで生活しているな」
「その宿舎って男女で分かれてるの?」
「2棟を食堂が繋いでいる形といえば分かるか? 女子の方が少し建物が小さいが」
騎士って響きは素敵だけど、実際は戦闘職。純粋な力量でいえば女性は男性に勝てない。荒っぽい仕事が多くて、命を懸ける時もある。
そんな職に好んで就きたがる女子が少ないのは仕方がないことだ。必然的に宿舎も男子よりは小規模になるよね。
「…その宿舎の規則に、異性の立ち入りを禁止ってあったりする?」
「私の部屋に入れないかもって心配なら不要だぞ? ちゃんと手続きすれば大丈夫だ」
「そっか…よかったぁ。さっき気づいたんだ。規則で禁止されてるならエルくんは絶対部屋に入れてくれないだろうから困るなぁって」
「騎士の家族や恋人が一緒に過ごすことは割とあるんだ。世間体を守るために恋人が泊まり込むことは珍しいが。…ティアの場合は小さい姿で紹介するから、変な勘繰りも起こらないだろう」
「………エルくん。わたしエルくんにならいつでも全部あげるからね」
際どいというかアウトな発言だって分かってるから、声は抑えて誰にも聞かれないように伝える。直後に隣から少し焦る気配が感じられた。
「…流石に、今のティアをどうこうするつもりはまだないぞ私は」
「うん、でもこういうことは早めに伝えておいた方がいいかなって。それにわたしたちの種族ってほとんど年齢関係ないし。あ、でも子どもは暫く無理なの。ごめんね?」
そう言った途端、エルくんは盛大に咳き込んだ。その咳が落ち着くのとほぼ同時に「ティア!」と叱られる。
「もっと、慎みなさい」
「そういう意味で言ったんじゃないもん。──子どもは宝珠に魔力を込めるって話したでしょ? まだわたしは生まれたばかりだから宝珠の魔力が空っぽで無理だけど、色づいて淡く光るようになったらエルくんが魔力を宝珠に込めるんだよ。そうしたら新しい命が芽吹くの。…出会えるのはそこから200年も先の未来だから、それまで元気でいなきゃダメなんだよ? 約束ね!」
「…子どもが産まれるのを見守ることはないって言ってなかったか?」
「わたしは別なのー。夫になる予定の人は異種族だし」
「──そういえば異種婚の話は聞いたことがないな」
「そもそも結婚自体が奇跡だからね!」
あははと笑えば、エルくんは不思議そうに首を傾げた。この様子だと妖精族の婚姻事情は世間的には広まってないらしい。
「好奇心が強いっていうのは知ってるでしょ?」
「ああ」
「加えて自己中なのは?」
「知っている」
「うん。そういう性格というか気質だから、基本的に他人に継続的な好意を抱きにくいんだよ。一時的に興味を引かれて好きだなーって思って懐くけど、他のことにすぐ好奇心が疼いて結局他へ気持ちが移っちゃうの」
「……なるほど。それがほぼ共通なら、結婚生活は難しいな…」
「それでも一時的な恋愛はできるから、今も一応滅んでないわけだけど。多分わたしの両親も別れてるよ。200年も夫婦関係が続くとは思えない…、というか夫婦になってたのかも怪しいなぁ…」
結婚しなくても女性側が「この人との子どもがほしい」って思えば宝珠は淡く光り出す。種族を存続させようっていう本能はあっても、妖精族にとって結婚は重要なことじゃないんだよね。
「結婚」に興味を持って夫婦になってみる妖精もいるっぽいけど、当然長続きはしないよ。知識さんが知ってる中で一番長かったのが5年らしい。短い…。
「…なんというか、エルフには考えられない種族だな…」
「わたしはそんなことないから安心してね! ちょっと前より好奇心は強いけど、エルくんへの気持ちは揺らがないよ!」
「…自覚は一応あったようで何より」
「いやいや、わたし鈍感属性でも天然属性でもないから」
──って言ったら黙られた。何でだ。
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