4
エルくんがわたしを迎えに来てくれたのは、空がすっかり夕日に染まって夜の気配を見せ始めた頃のこと。
閉店の看板がかけられたお店のドアをノックした彼を、ドキドキしながらわたしが出迎えた。
「おかえりなさい、エルくん。お疲れさま!」
「……………ティア!?」
「えへへ~。どうかな、似合ってる? エルミラさんがコーディネートしてくれたの」
その場でくるんと1周回ってみる。スカートがふわりと広がったけど、踝丈だから心配はいらないよ!
「魔法もね、今度はちゃんとできたんだよ! まだ少し時間がかかるけど練習すれば大丈夫そうなの。でね、エルミラさんがこの服わたしにくれるって。微調整が必要だけどそれくらいならなんとかなるから、服ができるまではこれを──」
数時間ぶりの再会とオシャレをしている状態で浮かれたわたしは、いつもよりお喋りになっていた。
その口が途中で止まることになったのは、そっと頬にエルくんの手が触れて、優しく撫でられたからだ。目を合わせたエルくんは、見たこともないくらいに優しく微笑んでわたしを見つめている。それを目撃した途端に、顔がものすごく熱くなった。
前世より肌が白くなったから、真っ赤になってるのはバレバレだし隠せやしない。白い肌って憧れてたけどこういう時は、ちょっと…うん。
「エル、くん?」
「──綺麗だ。凄く可愛い」
「っ……あ、ありがとう…」
「…でも、少し困るな」
「困るって何が?」
「可愛すぎて、誰かに奪われないか心配になる」
………。
う、わぁああああああああああ!!!!
こ、殺し文句、頂きましたですよっ、ごちそうさまですありがとうございます!!
耳までカッカと火照らせていたところ「はいはい、そろそろ2人の世界から戻って来てちょうだいねー」とエルミラさんに声をかけられた。わたしはそれで冷静さを取り戻せたけど、エルくんは逆に自分の言動を振り返るきっかけになったようで、片手が口元を覆ってる。耳も赤い。
こっちの世界に馴染んで日本人感覚が薄れていても、やっぱり今のは恥ずかしかったようである。エルくん可愛い。
「これがスノーティアちゃんの日用品ね。はい」
「…洗面道具一式とカトラリー一式だけって、少なくないかティア? 他に必要な物あるだろう」
「ないよー。だって日中はこの大きさだもの」
「服は?」
「夜の間だけだから今まで通りでいい」
「…タオルは?」
「いらない布1枚ちょうだい。切ってタオル代わりにするから」
「……石鹸」
「お風呂の? 浄化魔法でキレイになるよ。それかこの大きさのまま入る」
「………寝具…」
「エルくんの隣で寝るからいいの」
「──ずっとこんな調子だから、結局お買上げはそれだけなのよ。はいこれ、領収書」
「……ああ。この時間までティアを預かってくれて助かった。礼を言う…」
どこか覇気のない声でエルくんは言って、請求されたお金を支払っていた。
お疲れなのかな。あとで肩でも叩く?
「これ、あたしから初回のお客様におまけね」
「何だ……櫛、か?」
「どうせ髪も大きくなってから梳かせばいいって言うだろうから勧めなかったのよ。それから、少し時間をもらうことになるけどスノーティアちゃんが妖精のままでも過ごしやすいように、いろいろ用意するから出来上がったら連絡するわ。ちょっと大きな金額になるから。あと採寸させてもらったから適当に人サイズの服を手配して送るわね。予算はどれくらいを考えてるのかしら?」
「金なら十分ある」
「でしょうね。じゃ、適当に見繕うわ。──うちは日用品以外にも女の子のオシャレに味方する品もあるから、気が向いたらまたどうぞ」
こうしてわたしたちはファンシー雑貨店をあとにした。お店の名前は『ミラの小物屋さん』。外装からは何のお店か分からないのに、店名は割と分かりやすかった。精巧なミニチュア家具やらドールハウスを「小物」って言うのかは知らない。小さいからいいんじゃないかな、きっと…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます