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 お茶を終えたあとは真面目に服の相談だ。


「まず確認したいんだけど、変身は今の容姿をそのまま人の大きさにするつもりなのかしら? それともある程度成長した姿?」

「えっと16歳くらいを予定してるの。身長は…エルミラさんの顎辺りくらいかな? 人目を集めないように、でもエルくんの恋人として認められる程度の、程よい感じの容姿が理想的!」

「…気持ちは分かるけど、想像はしにくいわね…。…ねぇ、試しに今1度変身できないかしら? そうすれば採寸して服も早く用意できるわ。下着は急ぎでしょうし」


 そう言われてわたしはちょっと考える。

 変身したのはあの素っ裸になった1度きり。まだ練習してないからまた同じように結希の姿になってしまう可能性がある。

 今は変身を避けるのが最適。それは分かるんだけど…また後日ってなると忙しいエルくんに時間を作ってもらわなきゃいけなくなるんだよね。それに採寸には時間がかかるはずだ。その待ち時間も申し訳ない。


「…わたし、まだ上手に変身できないから…あの、どこか鏡のある部屋を貸してもらいたいな。それから成功するまでは一人にさせてほしい。それでもいいなら、変身してみる」


 そうしてエルミラさんは自分の衣装部屋へわたしを案内してくれた。エルミラさんの渋る顔を未だに見てない。わたし、結構ワガママ言ったはずなのに。

 変身後はこれを着て出て来てちょうだい、と薄いワンピースの下着を用意して部屋を去って行った。隣の部屋で待っててくれるみたい。


「──よし、今度はちゃんと成功させよう」


 できれば1度で。

 発動にすごく魔力を消費してしまうから、限界は3回までだ。それ以上は命に関わってくるからダメ。


 鏡の前に立って、じっくり自分を観察する。

 この姿が年頃の女子になったらどんな感じだろう。身長は結希と同じがいい。見栄をはってスタイル抜群の高身長にしちゃうと転けそうだから。

 …参考にできそうなのは過去に見たファッション誌。水着を着たモデルさんを思い浮かべて、鏡に映る妖精を合成するように重ねて。幼すぎる顔は違和感がすごい。もうちょっと頬から丸みをなくし、目鼻口も微調整して童顔を修正する。結希に似ないように意識して、純粋にこの顔を成長させたものを想像したよ。


 そのイメージが揺らがないよう目を閉じて集中し、しっかり固まったと思った直後に変身魔法を発動させた。

 詠唱は必要ない。ファンタジーさを追求するならあった方がそれっぽいんだけどなぁ。今度考えてみる?


 ごっそり減った魔力と引き換えに、発動が成功しているのを感じられた。あとは思い浮かべた通りの姿になっているかどうか。

 恐る恐る目を開けると、やっぱり裸だった。最初に見えるのが白い裸体って微妙だ…。それから琥珀色の目と視線が合う。髪の色も白金だ。


「……わぁー。美少女できたー」


 じっくり時間をかけたおかげか大成功だった。自画自賛だけど好ましい姿に変身できたと思う。胸もあるよ。大き過ぎず小さ過ぎずな適度な大きさ。姿自体が魔法で作った偽モノなんだけど、胸の大きさを故意的に大きくしちゃうのは罪悪感があったから前世と同じにした…。


 成功を盛大に祝いたい気分を抑え込んで、下着を身につけるとわたしは隣の部屋をひょっこり覗く。エルミラさんは机に向かって何かを書いてるようだ。仕事かな?

 ちょっと邪魔するようで気が引けるけど、「エルミラさーん」とその背に声をかけた。


「はいはーい、無事にできたかし…ら……、スノーティアちゃんっ?」

「あ、はい。スノーティアです。えへへ、どうかな? エルくんの恋人だって名乗ってもいい感じに見えるかな、エルミラさん」

「……っ、だ、抱きしめてもいいかしら」

「え。──えっと、どうぞ?」


 それから15分ぐらい、エルミラさんは正気を失ってわたしを愛でた。気恥ずかしかったけど、エルミラさんは温かくて柔らかくて、優しい花の香りがして、ちょっとくすぐったかったよ。

 …まぁでも、今後は下着1枚の状態でのハグはやめておこうと思った。相手は女の人だけど何だかイケナイ気がする。エルくんにはこのことは内緒。


 エルミラさんの手を借りて余すところなく採寸をされたあと、せっかくだからと彼女の服を着せてもらった。少女時代の思い出の服…を元に傷むたびに作り直したものらしい。「だから着れないのにこれだけ何着もあるのよ」と恥ずかしげに笑うエルミラさんが可愛かった。


 初めて王都に家族と来て、お祭りのパレードを見た時に着た服なんだって。普段着にするにはちょっとだけ気を遣う、でもドレスとまではいかない一張羅って感じかな? 灰色が混じった青のAラインワンピースで、レースとフリルが控えめに縫い付けてある。草花をモチーフに光沢のある黄緑の糸で刺繍されていて、大人っぽさの中に可愛らしさを残したデザインだと思った。


 胸元がちょっと私には大きいけど、そこはエルミラさんがピンで調節してくれたから違和感なく着ていられる。

 ついでに、と髪も一部を編み込んでハーフアップにしてくれた。仕上げは優しい桃色の紅を唇に。


「できあがりよ! 部屋に飾っておきたいくらい可愛いわよスノーティアちゃん。魔力が大丈夫なら、今日はそのままフェアル隊長と帰ったらいいわ」


 服もあげる、という言葉にわたしは素直にありがとうとお礼を告げた。

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