その日わたしは、埋まっていくソレに愕然とした 1

 王都に着いてすぐ、エルくんに連れて行かれたのは中心部からやや離れたちょっと薄暗い通りに建つ、ファンシーなお店。


 男らしいエルくんとは一切縁がなさそうなそこに躊躇いもせず彼は入店した。そして出迎えた女店主さんとやり取りし、事前説明も何もないままポケットから出されたのである。


 目の前の女店主さんはとても綺麗な人だった。波打つ金髪は艶々。海のような色の目は少し猫目で、気が強そうな印象を受ける。そして何より目が惹かれるのは立派な2つのお山様…。えっ、ヘンタイじゃないよ! 女の子だって巨乳美女には普通に目が惹かれるよっ?

 あと細い腰にも。綺麗なおみ足にもね。…いいなぁまさに美女。わたしも将来こうなりたい。


 わたしがポケットから出された瞬間、女店主さんは目を丸めて停止。わたしも美女さんの綺麗さと初対面に停止。


「この子の日用品の手配を頼みたくてな。ここはいろいろ取り揃えてあるだろう?」


 そんな女2人の様子なんて目に見えていないかのように、エルくんは話を続けていた。マイペースだね…。


「──ってちょっ! 本物っ? え、何であんたのポケットから出てくるの!?」

「…初めまして。スノーティアです。エルくんの恋人です、よろしくお願いします!」

「あらあら、小さいのにしっかりしてるのね。あたしはここの店主のエルミラっていうの。仲良くしてね?」

「エルミラさんだね。こちらこそ!」

「いやん、何コレ、かっわいーい!! きゃーっ! 何でこんな子がこんな男の恋人──……ん? んん? こ、い…びと、ですって?」


 まさにギギギ…と言い表せる動きで、エルミラさんの視線がわたしからエルくんに移された。わたしも一緒に見上げる。ご飯食べてからずっと見れなかったから。


「フェアル近衛騎士隊長」

「…何だ」

「今あたしの耳にありえない情報が飛び込んできたの。ねぇ、聞き間違いよね? それか幼い子のよくある幼な言葉よね? …まさか、どんな女にも靡かないことで有名な隊長様の性癖が、幼女趣味だったわけじゃないわよね」

「違う、私を幼い子どもに興味がある変態と一緒にするな。私が心を寄せるのは昔から唯一人だ」

「そうよね、ずっとそう言っていたわよね? …じゃあこの子の言葉について説明して頂けないかしら?」


 にっこりと笑うエルミラさんは美人効果なのかとても迫力があった。真正面から向けられたらわたし、ちょっと怖かったかもしれない。

 だけどエルくんはそうでもないようで、圧倒されている気配は感じられない。さすが隊長さん!


「説明も何も、そのままだろう? 私が探していた子がこの子で、ようやく出会えて恋人になった。何も不思議はないはずだが」

「………スノーティアちゃん。あなた今何歳なの? とても幼く見えるけど実は100歳を超えてるのかしら?」

「ううん、わたし0歳だよ。ええと2日前に生まれたばかりだから、ちょっと世間知らずなところがあるけど迷惑かけないように頑張るね」

「──フェアル隊長さん? これ、不思議だらけよね?」

「私とスノーティアは特殊事例だ。何も問題はない」

「0歳児を220歳超えの男が本気で恋人にすることのどこが問題ないの!? バカっ? バカなの!? これだから堅物は嫌なのよ、変態が多くて!!」


 エルくんを怒鳴りつけたエルミラさんは、それからわたしを真剣に見つめて言った。「エルフは一途だけど、その想い人が必ず気持ちに応えなきゃいけないわけじゃないのよ。スノーティアちゃんはこれからいろんな人と出会って、恋をしていいんだから遠慮なんてしちゃダメよ」と。


 うーん…。やっぱりこういう反応になっちゃうよなぁ。分かってはいたけどそれでも恋人宣言したのは、エルくんはわたしの! って手っ取り早く理解してもらっておきたかったからだ。

 …前世みたいにどこの誰かも知らない女の子に間違っても横取りされないように。…224年分のわたしの知らないエルくんがいるけど、ご両親やエルミラさんの話を総合して彼女がいたことは1度もないと思っていいはずだ。


 安全面が確保されるまでわたしを隠すと言っていたエルくんが躊躇わずに紹介したエルミラさん。2人の話を聞いていればそれなりに親しい間柄で、信頼関係も結ばれているように思える。

 わたしはちょっと考えてから決めた。きっとエルミラさんには今後もお世話になるだろう。それならちゃんと話して、エルくんとの関係を認めてもらいたい。


 とはいえ、前世云々はさすがに話せないし信じてもらえるかも分からないから、そこは創作することにした。こういう時、妖精族が謎に包まれてるのは便利だね。


「あのねエルミラさん。わたしは生まれたばかりだけど、エルくんと出会ったのはずっとずっと前のことなの」

「…どういうこと?」

「妖精族はこの宝珠を核にして生まれるんだよ。お母さんの魔力が満ちた宝珠にお父さんの魔力を注いでもらって、命が宿るの。それから妖精の姿を取れるようになるまでが大体200年。わたしね、生まれる前にエルくんと出会って、エルくんが大好きになったんだ。だから生まれてきたばかりだけど、恋人にしてもらったの」


 生まれてはなかったけど存在はしていたんだよということを伝えて、あとはあやふやに。こうしておけば話を聞いた人は勝手に想像を膨らませて自分で納得する答えを見つけてくれるはずだ。


「妖精族って凄いのね。生まれる前から現実世界を夢に見れるなんて初めて聞いたわ」

「…えへへ」


 ほらね。


 わたしはその相手が見つけた答えをただ笑って流す。これで完璧。否定しなかったけど肯定もしてないから嘘ついてないもん。

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