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魔法陣で補助されているとはいえどうしても転移は大魔法だ。そこで管理者は日々転移門に魔力を込めているらしい。もちろん数人が交代で。そして使用申請があると追加で魔力を込める、という工程なんだって。
「距離自体はどれほど差があっても問題ないんだが、転移する量で魔力消耗が大きく変わる。設置される門はそこの管理者の魔力で運営可能な大きさになるんだ」
「ほうほう。つまり隣町は田舎だから、管理者の魔力もそれほど多くない。よって小型が設置されてるってことだね!」
「うわぁ…、バッサリ言ったなお前…。言っておくけど、転移門が町にあるってだけでステータスになるんだからな? 間違っても現地のヤツに田舎とか言うなよ」
「…気をつけマス。えっと、じゃあ王都の転移門は大型?」
「城下にあるものは中型だ。馬車が3台ほど並んで通れるほどか。大型は騎士団本部にしか存在しないな」
「俺らの管轄じゃないぞ。転移門は魔術師が多い第3が管理者だ」
「大型は騎士団の任務でのみ使用が許される。個人的な転移は城下の方を利用するんだ」
「ってことは今日は中型の方なんだね」
大型の転移門ってどれくらいなんだろうね。中型で馬車が3台も並べるんだから、6台くらいかな? もっと? …戦争にも利用されるならかなり大きいのかもしれない。悲しい考えだけど。
「転移門の利用許可って誰でももらえるの?」
「金さえ払えればなー。あとは軽く犯罪歴を調べられる程度か?」
「許可証は1年の更新と、追加の料金がかかる。だから誰でももらえるものだが一般人には維持が厳しい。今は主に商人と私たちのような騎士と、余裕のある一部の傭兵や冒険者くらいだろうな」
「…わー。ファンタジー用語がまた出てきた…」
「…気持ちは分かるが現実だ。そもそも今のティア自体が一番ファンタジーじゃないか」
「エルフだってファンタジーじゃん! 魔族もね!」
ニシシ、と笑うとグラシアノさんだけが話しについて行けないって顔をしていた。うん、ごめんね。
「冒険者かー。じゃあ城下の管理者っていうのは王道で冒険者ギルド?」
「──いいや。城下にも騎士団の支部がある」
「えー…。本部があるのに分ける意味あるの?」
「本部は城の敷地内だからな。一般人に身近なのは支部の方だろう」
「なるほど。交番ね」
説明されれば納得だ。何かあるたびにお城に駆け込むなんて庶民にはちょっと敷居が高い。町の治安をよくするためには本部が近くても必要なんだろう。
交番だとどうしても小さな建物を想像してしまうけれど、中型の転移門があるってことは市役所くらいの大きさはありそうだ。
「王都ってやっぱり人が多い?」
「多いな」
「いろんな種族が入り混じってるから、スノーティアなら見てるだけでも楽しめるかもなぁ」
「ここは人族の王様が治める国なんでしょ? 他種族の差別とかないの?」
知識さんの情報だと、この世界は比較的平和らしい。種族間の戦争は滅多に起こらないそうだ。全くゼロってわけじゃないけど。
その1番の理由は、種族関係なく共通の「敵」がいるからである。
魔力が豊富な場所に魔物あり。
町というのは生きていく上でどうしても必要な場所。人が集まれば魔力も集まる。それは仕方がないこと。
でもそうなると魔物までやってきてしまうから、町の住人数って結構この世界では重要になってくる。まぁ、大きな町は騎士団やら自警団がしっかり機能してるから重要視されてないっぽいけども。
地方の小さな町や村なんかは割と本気で人数に気を使っているそうだ。
エルフの里も、長寿種なのに少人数の集落だった。それも魔力の調整が理由なんだろう。ちらっとしか聞いてないけど、アルネストさんの弟さんは村を出たそうだ。多分ある程度の人数を連れて、村を分けたんじゃないかなぁ。
そんなわけで、ここで生きる人たちにとっての一番の脅威は魔物だ。彼らの、というか国を治める貴族のみなさまは領土を増やすことよりも魔物の被害を未然に防ぎ、退治することへの関心の方が強い。
…たまーに争い好きの迷惑な人が原因で魔物そっちのけで戦争始めちゃうみたい。
あれ、なんでこんな話になったんだっけ。わたしの脳内、すぐ脱線するなぁ。
種族間の争いが滅多に起こらなくても、前に話したようにこの世界には奴隷制度がある。犯罪行為も行われる。身分制度もばっちりだ。だから差別は起こる、はず。
貴族が庶民を見下す。
人数の多い種が少ない種を蔑む。
人が多いならそういう差別はあると思うの。…ん? 少ない方が起こり得る? ──どっちでもいいや。わたしが知りたいのは、たった1人しか見当たらないだろう妖精族は虐められる対象になるかどうかだからね!
「差別なぁ…。種族へのってことならないんじゃねぇか?」
「一部の連中が個人的に嫌っていることはあるが」
「えっと…妖精族は嫌われそう?」
「………」
「………」
って何で2人揃って黙るの!? 急に黙られると逆に怖いから!
「スノーティア。お前さ、今まで見たこともない、自分の手のひらサイズの小動物と対面したとする」
「う、うん」
「その小動物は愛嬌があって、人懐っこい。そういう存在がいたらどうする?」
「お持ち帰りする」
迷わず思ったままに即答したら、頭上からため息が降ってきた。ごめんなさーい。
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