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でもね。わたし、昨晩知識さんからの情報をあさりながら考えたんだよ。
妖精の持つ魔力は膨大。そしてこの世界にはたくさんの魔法がある。魔法といえば攻撃系だったり支援系だったり回復系だったりといろいろ思い浮かべることはできるけど、女の子なら誰だって1度は考える。
『シンデレラみたいに魔法でお姫様になって王子様と幸せになりたい』
変身魔法、ないですか。と問い合わせたところ、バカみたいな魔力と細かい想像力を駆使すれば可能だよと知識さんは教えてくれた。
魔力量に問題はない。想像力にはちょっと自信がないんだけど、例えば今の姿を鏡に映した状態でなら人サイズに変更するだけなんだからいけるんじゃなかろうか。
人サイズになれるなら飛べなくても普通に生活できる。前世の記憶があるから飛べない不便さなんて感じないと思うの。
そして妖精族の魔力摂取は呼吸と同時。変身魔法発動中に減る魔力は自然と回復できる。それでも足りないならご飯を食べればいいだけの話だ。食材には多かれ少なかれ魔力がある。他種族の基本的な魔力摂取は食事なんだから妖精が同じことをしたっていいじゃない。
って思ってるんだけど、どうかな。ダメかな? 個人的には素晴らしい考えだと思ってるんだ。むしろ何ですぐに思いつかなかったのか。
一応事前に相談しようと思ったからまだ実践はしてない。隊長さんも出立前の準備で忙しそうにしてるから、落ち着いてからにしようと思って。
うん、だからね…。
「王都に戻ってからだと時間が取れないし、今ならちゃんと見ていてやれるから、ほら頑張れ」
「あ、あああ、あの。えっと、た、隊長さん。お話が、相談したいことがあって!」
まさか、落ち着いたからって隊長さんがわたしの飛行魔法の練習を言い出すとは思ってなかったよ!!
嫌です、わたしの羽根は単なる飾りなんですよ、それでいいんですってば!
「うん? 急ぎじゃないならあとでゆっくり聞く。明るいうちに練習してちゃんと飛べるようになっておいた方がいいぞ」
今のままだと不便だろう、と気遣ってくれる優しさがツライ。
どうしよう、勘違いをそのままにしたツケがここで来るとか。傍にはグラシアノさんもいる。因みに落下した話も伝わっていてゲラゲラ笑われた。
「魔力のコントロールは出来るんだろう? 大丈夫だ、スノーティアならすぐ飛べるようになるから」
「ええと、いや、あの…」
というか練習しなくても飛ぶこと自体には問題ないんだよ隊長さん。問題は羽音。あの鳥肌が立つ嫌な音の方!
「…スノーティア? どうしたんだ。昨日は無謀にも派手に飛び降りたのに」
「う…」
無謀じゃなかったもの! とは反論できない。
どうしよう。これは素直に謝って白状した方がいいのか。それとも誤魔化し続けるか。
話をそらすネタならある。変身魔法のことを言えばいい。ただ何となくそれはそれ、これはこれって隊長さんは割り切って結局練習を強要してきそうだ。
考えて考えて考えて。元々そんなに賢くないわたしは、諦めた。飛ぶ練習と一瞬の恥なら後者を取る! 虫はダメだ! わたし妖精だけどっ。
「ごめんなさい、隊長さん…。わたし飛べなかったわけじゃないの…」
「…どういうことだ?」
「ちゃんと飛べるの。…ただ、羽根を動かすと羽音がして、わたし、その音が生理的に無理というか。それで昨日は落ちただけなの」
「──羽音? 私には何も聞こえなかったが…そうか、周波の関係か…」
隊長さんはわたしが真実を黙っていたことを怒りもせず、何やら難しい顔をしてブツブツ呟いている。そしてその横ではグラシアノさんが盛大に笑っていた。そうだろうね、予想通りの反応だよ、ふんっ。
「だが、飛べないとどこにも行けないだろう? 普段は私の傍にいればいいが、仕事中無理な時もある」
「あ、あのね。それで相談したいことがあるんだ! 飛べないなら歩けばいいでしょ」
「……スノーティア、君の足ではどこに行くにも日が暮れる」
「違ーう! わたしだってバカじゃないんだからねっ。誰もこのままでとは言わないし、それじゃ相談なんて必要ないよ! そうじゃなくて、変身魔法で人の大きさになればってことだよ」
変身魔法のことは隊長さんもグラシアノさんも知っている様子を見せた。でも現実問題として必要になる魔力の多さを考えてか揃って首を横に振っている。
「危険だ。あれは発動中に魔力を消耗する。妖精族は魔力が枯渇すれば命に関わると聞くぞ」
「俺も賛同出来ないな。もし変身中に魔力不足に陥ったら、途端に危険度が増すぜ? お前の場合飛べないなら逃げる手段がないだろ」
「確かにたくさんの魔力が必要になるけど、変身魔法の維持には発動時と違ってそれほど消耗するわけじゃないみたいだし、わたしは呼吸ができれば魔力の回復が自然とできるよ。念の為に補給用の食べ物を持っておけば大丈夫だと思うの」
それから3人で暫く話し合いがなされた。
グラシアノさんは割と早めに折れてくれたんだけど、隊長さんはなかなか頑固で心配性。結局夕食の時間まで折れてはくれず、最終的に「それじゃあ試しに今から就寝前まで実践してみて様子を見たらいいんじゃね?」というグラシアノさんの提案を採用することになったのである。
何とか自力移動の方法を手に入れられそうでホッとしたわたしは、大失敗した。
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