20. 作戦スタート!


「空野、アレのことで話があるんだけど」


 結局空野を仲間に引き入れることになって、アタシが話をつけるしかなかった。


「へ、アレ?」

「ほら、アレだってアレ」


 アタシは目の横でメガネをつかんで動かすしぐさをした。


「あ、あー、アレね。またなんか見えたのか?」

「だから話してるんじゃん。ねえ、放課後時間ある?」

「そうだな、今日なら空いてるぜ」


 そしてアタシたちは蔵に集まった。ほんとは空野なんか入れなくていいのになあ。


「ようこそ、空野陽太くん。僕は松野雪弥。君のことは、いとこのさゆ吉からよく聞いてるぜ。」

「ちょっとユキ兄その呼び方!」

「え、さゆ吉って美沢のこと?」


 そう言って空野はあっはっはと笑いだす。


「……絶対こうなると思った」


 こんなお決まりの会話をしてから、アタシたちは空野に水明桜の話をした。


「なにそれ、面白そうじゃん!」


 まあ、空野ならそういうよね。まったく単純というかなんというか。それにしても、空野を引き込むのはもっと苦労するかと思ってた。ちょっと拍子抜け。


「じゃあ、空野くんも作戦に加わってくれるってことで」


 ユキ兄が出した作戦はこうだ。当日の昼間。学校が開いてるから、アタシとリリカと空野で教室へ行って、ベランダの手すりに銅の電線の片方を縛り付ける。束は手すりの上に置いて、もう片方の端に釣り糸とおもりを結んで、下に垂らしておく。

 学校が閉まってから、アタシたちはもう一度学校へ行き、下から釣り糸を引っ張って電線を下ろす。そしてその端っこを校門のアーチに結び付ければ完成!

 あとは結果を待つばかりってわけ。


「なんかスパイ映画みたいだな」

「ちょっと、遊びじゃないんだからね。真面目にやってよ?」

「あったりまえだろ。こういうのこそ真面目にやらないとな」


 目をキラキラさせていう空野。ほんと、こういうの好きなんだなぁ。


 そしてそれからは何事もなく時間が過ぎて、いよいよ作戦の当日をむかえた。あさイチで蔵に集まって最後のミーティング。

 まずはアタシたち、小学生の仕事だ。


「よし、頼んだぜ少年探偵団!」

「はい!」


 元気よく返事したのは空野。こいつこういうキャラだったっけ。


 休みの日でひっそりと静まり返る学校。ほんとは図書館のために開いてるんだけど、入ってしまえば教室までいける。

 一応、教室の前でリリカに見張りをしてもらうことにした。先生とか来たら困るもんね。


 アタシと空野は素早くベランダに出る。

 空野は手早く結ぶ場所を決めて、ペンチでぐるぐると電線をしばりつけた。


「あんたこういうの得意だったんだね」

「工作ならまかしとけよ」

「スポーツだけじゃなく手先も器用とはね」

「へっへーん、視力だけの美沢よりは上等だろ」

「その自慢がなければいいんだけどね」


 そんな言い合いもしつつ、釣り糸とおもりも仕込んでお仕事終了。さて、とりあえずは引き上げよう。


「二人とも、うまくいった?」


 教室を出ると、リリカが小声で聞いてくる。


「まあね」

「オレにかかればこんなもんだぜ」

「ふふ、よかった」


 とにかくこれで作戦第一段階終了。


「お帰り、その顔見るとうまくいったみたいだな」


 蔵に戻るとユキ兄が迎えてくれた。


「じゃあ、夕方の部に備えて休憩!」


 アタシたちは蔵の中で読書やゲーム、それにちょっとだけ宿題とかして思い思いにすごした。本当は夕方の作戦のことで頭がいっぱいだったけど。

 意外だったのは、ユキ兄と空野がけっこう話が合ってたっぽいことだ。なんか外国のサッカーの話題で盛り上がってたみたい。

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