18. 未来を求めて現地調査
「もちろんいいよ。私も協力できてうれしい」
「ありがとリリカ~」
というわけで次の日学校で頼んだら二つ返事でオーケーしてくれたリリカ。もう大好き。その日放課後を待ってアタシたちは水明桜の下に向かった。
「まず、今の状態を描いておくね」
「うん、アタシは桜が倒れる日を調べてみる」
リリカが花壇のフチに座ってスケッチブックを開くのを見てから、アタシは水明桜の方を向いた。
この前、蔵で教えてもらった方法を、家に帰ってからも練習してたんだけど、けっこうできるようになった。やりやすかったのは、窓を開けて山の方を向いてた時。やっぱり前に何もない状態の方がいいみたい。
そして今、アタシは校門から水明桜を挟んで反対側、玄関の前あたりにいる。よし、未来を見るぞ、がんばるぞ。
まずは腕時計を左目の前に。やっぱりこの腕時計、昔の男の子向けって感じですっごいダサい。いつかかわいいのに変えたいな。でも、ユキ兄からもらったから、変えたらがっかりされるかな。って今はそんなこと考えてるときじゃないよね。
視線を桜から少しずらして、うしろの景色を見えるようにする。そして、右手の人差し指を右目の前に。意識を集中して、腕を前に伸ばしていく。伸びきった腕、その指先、そこからさらに、伸ばす!
腕時計の分と秒の表示がギュルギュル変わっていく。そして日付も少しづつ未来へと進んでいく。その瞬間は突然やってきた。ある日を境に、水明桜が真っ二つに裂けたのだ。水明桜の幹はアタシの身長より少し低い高さで大きく二またに分かれてるんだけど、その分かれ目から左右に裂けちゃってるんだ。
なんて悲しい光景だろう。こんなの見たくないよ……でもしっかり日付を確認しないと。
アタシはピントを少し近づけて、桜が裂ける前まで戻る。日付は、5月1日。ゆっくりと先に進めるけどこれくらい未来になると微調整が難しい。少しずつ、ピントを伸ばしていく。5月1日から、2日、3日、4日、5日、あっ! 裂けた! 5月5日が桜が倒れる日だ。
これで日付はわかった。あとはどんな風に裂けてるのか、描いてもらうためによく観察しないと。燃えろ、アタシの観察力!
ピントを動かないように、そしてどこがどんな風に裂けているのか忘れないように、アタシはものすごく集中してた。あまりに集中しすぎて、未来を見るのをやめた瞬間、ちょっと足がふらついたぐらい。あ~、つかれた!
それでもアタシは忘れないうちにと、急いでリリカのところに走った。リリカの持つスケッチブックには、今目の前の立派な水明桜の姿がしっかりと描けていた。
「やっぱリリカの絵はすごいね!」
「えへへ、まだラフだけどね」
「イメージを伝えるなら十分だよ。でもさ、これからちょっと悲しい絵を描いてもらわなきゃいけないのが、つらいけど」
「だいじょうぶだよ、さゆちゃん。だってさゆちゃんはひどい光景を実際に見たんでしょ? それに比べたら全然だよ」
「ほんとに、ありがとね。じゃあ、やっちゃおっか!」
そして、アタシたちは裂けて倒れた水明桜の絵を描いた。どこからどう裂けてて、枝が地面についちゃってるとか、細かくリリカに伝えて、それをスケッチブックの上で再現していく。やっぱり描いてるときのリリカは少し辛そうだった。
やっぱり、今回はぜったいに未来変えたいな。ここまでしてダメだったらショック大きすぎるよ。
そしてアタシたちは調査の成果を持って、蔵へと集まった。
アタシは桜が倒れる大体の日付をユキ兄に教え、そしてリリカは倒れた桜を描いた絵を見せる。
「こりゃ悲惨だな……」
「だよね、絶対守りたいよね」
「でも、大変だぞこれ、ダメでもともと、って思ってた方がいいよ」
「分かってるけど、でも」
「うん、こんなの見せられて、何もしないわけにはいかないな」
「はい、今回でさゆちゃんがクラムチャウダーをこぼれるのを見た時の気持ちが分かりました」
「二人ともありがとう……!」
「まあできるだけのことはやろうぜ。それ以上のことはできないけどな。ところで、この倒れ方なんだけど、さゆ吉、人為的な感じしたか?」
「ジンイテキ?」
「ああ、だれか、人がわざとやったようなところ、あった?」
「うーん、どうだろう」
「例えばオノとか、のこぎりを使ったような感じは?」
「それは……ないと思う。なんかものすごい強い力で無理やり引き裂いた感じ」
「なるほどな、そうなるとやっぱり」
「分かるんですか?」
「憶測だけどね、雷じゃないかと思う。」
「え、雷ってそんなにすごいの?」
「うん、ネットで調べた時あるけどさ、すごいぜ、杉が真っ二つになったりするんだぜ」
「そんなの、どうやって守ればいいの」
「一番確実なのは、金属の箱をかぶせちまうことだな。水明桜をすっぽり覆えるくらい大きい箱で。そうすれば、箱に雷が落ちても、桜にダメージはない」
「へ~、すごいねそれ」
「でも、無理ですよね」
「だよねえ。オレたち子供の手に負える対策じゃない」
「じゃあ、校長先生に頼めんだら?」
「聞いてくれないだろう。こんど水明桜に雷落ちるから、でっかい箱作ってかぶせてください! って言っても」
「あ~、じゃあどうすればいいの~」
「そこはオレが何とか考える。できる範囲で効果がありそうなのを。それがオレの役目。さて、今できることはこれくらいかな?」
「ええ、なんかもうすることないの」
「ないな、おとなしく宿題でもやりましょう」
「ふふっ、そうですね」
「あー、もどかしいなあ」
そんな風に最初の作戦会議は終わったのだった。
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