14. クラムチャウダーを救え
「あれ、まだ給食取ってきてないのか? お~い、ワゴン係誰だ~」
そう呼びかけるのは先生の声。これ以上手間取ってたらヤバかったね。
「あ、オレでーす、今行きまーす」
空野が答えて教室から出ていく。アタシとリリカもあとを追った。
配膳室につくと、残ったワゴンが2つ。あれ、他にまだ取りに来てないクラスがあるってこと?
少し悩んでいると、空野が急かしてくる。
「おい、早く持ってかないと怒られるぜ」
「分かってるよ。じゃあアタシとリリカで押していくから、あんたは前の方見張ってて」
「ハイハイ、リーダー殿。頑張ってクラムチャウダー守ってくれよな」
「あんたに言われなくてもそうするよ。じゃリリカ、いこう」
「うん、さゆちゃん」
アタシたちはゆっくりとワゴンを押し始める。車輪がキュキュッと少し音を立てて、廊下を進み始める。アタシたちは一歩、二歩と足を踏み出して、ワゴンが進むのを助ける。
空野はワゴンの前方をスタスタと歩いていく。結構離れたかと思ったら、戻ってきて、ニヤニヤとアタシたちを眺めてる。どうでもいいけど、うしろ向きに歩くの危ないからやめてよね。
アタシは、ワゴンと廊下の先をかわりばんこに見てた。そして何回目かに視線を上げた時、勢いよくゴムボールが飛んでくるのが見えた。
「きゃっ!」
アタシは思わず目をつぶり、腕で顔を覆った。でも顔に当たると思ったけど、予想した痛みは来なかった。ゆっくりと目を開けると、顔の前にはゴムボールをつかんだ手があった。
「あっぶねーな! 給食台無しになったらどうすんだ!」
空野が怒鳴った。相手は廊下の行き止まりでボール遊びをしていた隣のクラスの男子たちだ。
「すまん! 手が滑った!」
「野球部のクセにノーコンかよ」
空野は悪態をつきながらボールを投げ返した。そのボールは天井や壁にバウンドしながら飛んでいった。
「サッカー部ほどじゃねーよ」
あちらが言い返す。全く、ろくなもんじゃない。廊下でボール遊びとか、先生に言いつけたら絶対怒られるぞ。
「なあ美沢、クラムチャウダーこぼすって、もしかして今のが原因なのか?」
空野がそんな疑問を口にする。
「そうかもね」
「うーん。お前の未来メガネの話、やっぱり本当なのか?」
「だからそう言ってんじゃん」
「全然信じてなかったけど、ちょびっとだけ本当かもって思ってきたぜ」
「ちょびっとかい。まあでも信じてくれないよりましか。あ、あと、それから……ありがとね」
「ん? なにが?」
「今、ボールから守ってくれたじゃん」
「ああ、まあ美沢っていうか給食を守っただけ」
「なにそれ、お礼言って損した!」
「いらねえよ、礼なんか。よし、もう教室つくぜ」
空野の言う通り。教室の入り口はすぐそこだ。
「さゆちゃん、スピード落そう」
「うん、リリカ」
アタシとリリカはワゴンを押す力を弱めて、逆に引っ張り気味にする。スピードを少しづつ落として、ほぼ止まったところで方向転換。教室のドアを通り抜けて、黒板の前まで押していった。
無事に運べた! アタシたちは給食を守ったんだ。未来を変えたんだ!
「よっし、到着! 二人ともお疲れ~」
空野がそう言いながら手を挙げる。どうやらハイタッチがしたいみたい。アタシとリリカもその勢いでハイタッチしちゃう。パチンといい音がした。
「よかったね、さゆちゃん」
「うん、ありがとリリカ!」
アタシたちは給食の無事を喜びあった。そして無事に到着した給食を食べるために、ごはんをよそう列についた。
その時だった。
外の廊下をガラガラと音を立てて、すごいスピードで何かが通り過ぎていったんだ。そして……
ドンガラガッシャーン!!
何かが倒れる大きな音がした。
アタシは悪い予感がして廊下に飛び出した。
音がした方を見ると、隣のクラス、5年3組の入り口で倒れてたんだ、給食のワゴンが。
アタシはそこに近づいてよく見るとすぐに気づいた。それが、あの日未来メガネでみた光景そっくりそのままだってことに。
アタシが見たのは3組のクラムチャウダーがこぼれる光景だったんだ。
アタシは、未来を、変えられなかった。
「これって……美沢が見た未来、当たっちまったってことかよ」
いつの間にか隣に来てた空野が小声で言う。アタシは、何も答えることができなかった。
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