8. 目撃! 未来の昼ごはん

 朝の学級会で、担任の川原先生が話し始める。


「今日から本格的に新学期の授業が始まります。みんなは5年生になったけど、これは低学年、中学年、高学年のうちの高学年に入ります。つまり、みんなは下級生の手本とならなきゃいけないってことだ……」


 以下、話が長いから省略!

 まあ確かにもう5年生なんだな~って思ったし、手本になれと言われればなんとなく悪い気はしないよね。


 学級会のあと、1限目はそのまま川原先生が担当の社会の授業。黒板には世界地図が貼られてる。

 いつもこんな感じの見て楽しい授業だったら割と楽しいんだけどなあって思う。アタシの成績は、どの教科も、良くもなく悪くもなくって感じ。あえて得意な科目を言うなら、ん~、理科、かな? 植物とかを観察する時は、「いいところに気づいた」って褒めてもらえることが多い。視力がいいのと関係があるのか分かんないけど、「見る」ってことが結構得意なんじゃないかなって思ってる。


 ちなみにアタシの席は黒板に向かって一番左の列つまり窓側の一番うしろ。黒板から一番遠いところだ。まあじゅうぶん見えるから問題ないけどね。リリカは目が悪いからいつも前の方。このことに関してだけは、自分の目の良さをうらむ。だってぜったいにリリカの近くの席になれないんだもん。

 そして自分の席の隣を見れば、なんということでしょう、そこには空野陽太が座っているのです。アタシの天敵。よりによってこんな席順ある? 空野も視力は1.5ぐらいで良い方だ。もちろんアタシにはかなわないけどね。

 そして空野にしては珍しくだまってノートを取っているのかと思ったら、何やら関係なさそうな図を描いている。どうやらサッカーのグランドらしい。ほんとサッカーのことに関しては熱心だよね。


「じゃあ次のとこを、空野、読んでくれるか」


 ほら、聞いてないから当たっちゃったじゃん。


「え、あっ、はい!」


 あわてて立ち上がる空野。けど案の定どこを読めばいいかわからないみたい。アタシに小声で「どこ? どこ?」って聞いてくる。ため息を一つついて、だまって教科書のページを指さした。あんたも視力良いんだから見えるでしょ。


 そんなこんなで、午前中の授業がおわって、昼休みがやってきた。今日から給食始まるんだよね~。どうもウチの学校の給食は結構評判がいいらしくて、他校から視察? とか来てることもある。アタシも給食は基本好きだな。

 昼休みになると、給食当番が給食の乗ったワゴンを取りに行く。給食当番は出席番号で決められた班で交代でやる。

 アタシはというと、当番じゃなかったのでお手洗いにいった。ほんとはリリカと一緒に行きたかったけどね。アタシは洗面所の鏡の前で、学校内では外してた未来メガネをつけてみる。アタシの目が良いのはみんな知ってるし、伊達メガネなんて、学校でいらないって没収されちゃうかもしれないからね。でも昼休みだし、こっそりならいいでしょ。

 鏡に映る、メガネ姿のアタシ。未来メガネで見てるんだから、もしかして鏡の向こうのアタシはあしたかあさってのアタシなんだろうか。そんなことを考える。けれど、それが分かるような部分はなくて、向こうのアタシもこちらと同じ動きをするのだった。それにしても、やっぱ、伊達メガネかっこいいなあ。


「あれ? 沙雪がメガネかけてる」


 そう言ったのは、あとからトイレに入ってきたクラスメイトのユウコだ。


「ああ、うん、度が入ってないやつだよ。おじいちゃんにもらったんだ~」


 うん、ウソは言ってないぞ。


「へえ、いいじゃん、似合ってるよ」

「でっしょ~。あ、でも先生には内緒ね」

「あはは、おっけ~わかったよ~」


 ユウコは話のわかる子で助かる。クラスメイトなら没収されないしいいよね。未来が見えることはとりあえず秘密にしとこう。

 ひとしきり、メガネを楽しんだアタシはトイレから出る。するとちょうど給食当番がワゴンを押して教室に向かってくるところだった。

 教室の前の入り口まで来たワゴンは、カーブして教室に入ろうとする。けど、あれ? なんか変じゃない?


「ちょ、ちょっと待って!」


 2段になってるワゴンの下の段、そこには味噌汁とかスープの汁物が入ってるバケツみたいに大きなお鍋があるんだけど、アタシの目には、そのお鍋が倒れて中身がこぼれちゃってるように見えたんだ。

 少し離れてたところにいたアタシの声に気づかなかったらしく、給食当番はワゴンを教室に押していく。アタシは、教室の前側の入り口まで走った。そのまま教室に飛びこむ。


「ねえ、そのお鍋大丈夫なの?」


 アタシの問いに当番のみんなはキョトンとした顔。


「お鍋、倒れてない?」


 アタシはさらに具体的に聞いた。


「美沢、何言ってんの?」


 当番の山下くんがそういう。アタシはワゴンに近づいて確かめる。そこには中身の入ったお鍋がきちんと収まっていた。


「あれ……だいじょぶみたいだね。なんか倒れてるように見えたんだけど」

「夢でも見たのか~?」


 そういう山下の顔をにらんでやったけど、その後ろからこちらを見る目線に気づいた。同じく当番中のリリカだ。リリカはしきりに自分のメガネを指差している。

 あ、わかった。思わずアタシは顔に手を当てる。そうだ、未来メガネをつけっぱなしだったんだ。ってことはさっきお鍋が倒れて見えたのは、未来?

 ってそんなことより今はこの状況から逃げる!


「あ、ごめん、大丈夫だったね。ごめんね邪魔して、気にしないで。あとこのメガネも、うん忘れてくれると……うれしいかな……」


 アタシはそう言いながらあとずさりして、自分の席にダッシュ!

 ああもう、恥ずかしい目にあった。

 席に戻ると、空野が話しかけてきた。


「なあ、今の何?」


 真面目に聞かないでよ~。むしろからかってくれた方が反撃できて気がまぎれるのに。

 アタシは質問には答えないで、机に伏せて寝たふりを決め込んだ。

 ちなみに、今日の汁物は豚汁で、おいしかった。


 でも、さっき見えたのは何だったんだろう。ぜったいにお鍋が倒れてるようにみえたんだ。あれがもしも未来の風景だったとしたら、いつか給食のおつゆが思いっきりこぼれちゃうってことじゃん。それって、ヤバい!

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