第151話 『チャイナ』対策会議

『トウキョウ』上層部、応接間。

 魔王討伐の作戦会議と同様に『トウキョウ』の五宝人、それに俺たちのパーティーとフクダさんが集められた。

 締め切った暗い部屋に、サラの加護ギフトによって映像が投影される。

 これは……九州近辺の地図だろうか。


「皆さん、お集まりありがとうございます。それでは、対『チャイナ』の作戦会議を進めていきましょうか」

「王様よぉ……その前に、俺たちに言うことがあるんじゃねえか?」


 ゴウケンが青い瞳で彼を睨む。

 巨体も相まってすごい迫力だ。

 細身の王様はそれに臆せず、頭を下げた。


「本当に申し訳ありません。新たな敵について、皆さんに話すのが遅くなってしまいました」

「私は、薄々感じてはいたわ。ただ、直接あなたの口から説明が欲しかった、というのは私も同意見よ」

「儂も同じじゃのう。まさか五宝人の力が信用できないというわけではあるまいな?」

「いえ、まさか……」


 見た目年齢最年長のゲンゾウさんに言われて、罰が悪そうに謝罪した。

 ゲンゾウさんは立派な髭を指で弄りながら、言葉を続ける。


「それで、次の儂らの仕事とは如何様なものかのう?」

「はい、皆さんには、まずは防衛の役割を担って頂こうと思っています。敵の頭領がこちらの大陸に上陸していますので、一先ず防衛です」


 王様はそこで一区切りサラに指示を出す。

 投影されていた九州近辺の地図にピンが打たれていく。


「作戦は、2段階で行います。1段階目では防衛、2段階目では襲撃です。防衛はいくつかの防衛ラインを設けて、敵をキュウシュウ地方より先に侵略してこないようにするのが目標です」

「それでよぉ、その防衛ラインはどうするんだ?」

「はい。キュウシュウ地方の主要なギルドを防衛ラインとします。本来であれば7つの主要ギルド全てを防衛ラインとしたいところですが、残念ながら『クマモト』以南は既に敵の手に落ちてしまっています」


 熊本より南ということは、宮崎と鹿児島は既に支配されてしまっているということだろう。

 四魔人という強大な戦力を中心に『チャイナ』が回っていることを考えると、もしかしたら、各県1人ずつ魔人が担当して支配を行ったのかもしれない。

『オオイタ』はリン担当でって感じだ。

 そのことを、近くにいたリンに聞いてみたらコクリコクリと頷いていたので、俺の予想は正しかったらしい。

 というか、その情報をリークしたのはリンだとのこと。

 リンには故郷への愛情とか誇りとか一切なさそうだ。


「したがって、防衛ラインを『ナガサキ』『サガ』『オオイタ』……そして『フクオカ』に定めます。『フクオカ』は規模も大きく既に国となっていますし、最もチュウゴク地方に近いため、ここが最終防衛ラインとなります」

「となれば、儂は『フクオカ』を担当する、で間違いはなかろうな?」

「ええ、話が早くて助かります。僕たちの守護神に期待していますよ。それに、ゲンゾウさんの加護ギフトは人数が多ければそれだけ強力な壁となります。人口の多い『フクオカ』に協力してもらえれば、突破の危険性はかなり減るでしょう。一応、別ルートでの侵入も考えられますので『エヒメ』にも少し兵を割いていただきたいです」

「承知。儂の兵はたとえ、儂と離れたとしても百戦錬磨の堅盾よ。必ずや敵の侵攻を食い止めてみせよう」


 右手で胸を叩く。

 ドンと低いその音はとても頼りになる音だった。


「残りの3ギルドですが、優先順位としては『オオイタ』『ナガサキ』『サガ』の順で考えています。なるべく『オオイタ』に戦力を寄せたいのですが、希望者はいますでしょうか?」


 どうやらゲンゾウさん以外の配置はまだ決まっていないようだ。

 実際、ゲンゾウさん以外は防衛というよりも襲撃向きな人材が揃っているわけで、このような人選になるのはうなずける。


『オオイタ』は今回の戦いにおいて最も危険なギルド……戦禍の真っ只中にあるそこにいくのに抵抗があるのか、皆自薦する様子はなかった。

 確かに、自分から死地に向かうようなことは誰もしたくないだろう。

 ただ、俺を除いては。


「王様、俺がいきますよ。俺なら死んでも大丈夫ですし、1番危険な場所は俺がいくべきです」

「タケルくん……ありがとうございます。ただ、タケルくんには重要な役目がありますので、『オオイタ』に常駐しながら、他の仕事をこなすというようになるかと思います」

「わかりました」


 他の仕事とはなんだろう。まあ何であれ、力になるしかない。

 俺が立候補したところで、他の面々も手を挙げ始めた。


「はーい、タケルくんが『オオイタ』なら私もそこがいいでーす!」

「クレハ、お前本当に大丈夫か? 俺たちのパーティーの中だと、クレハが1番心配なんだけど……」

「そうですわ! クレハさんは……確かにお強いですが、防御力に関してはその……」

「ミリアとアイリちゃんが硬すぎるだけで、私も結構だからね? インフレ怖いなぁ」

「俺もそう思う。ただ、クレハは1番安全なところで待機してもらった方がいいというのが俺の意見だな」

「えー! タケルくんまでどうして!? 私と離れ離れになってもいいの!?」


 クレハは駄々をこねながら、俺の腕にしがみつく。

 しかし、駄々をこねたところで、彼女のするべき……いや、彼女が最も得意なことは変わらない。


「一応確認だけどさ、クレハは鍛治職人だよな? 本業はそっちであって、戦闘は……まあ、半端じゃなく強いんだけど、とにかく、クレハするべき仕事は武器の整備とかそっちだと思うんだけど」

「むむむ……確かに。自分がオカザキの末裔だってことを忘れてたよ。もしかして末裔じゃないかもしれないからかな? かな?」

「自然発生的に子供が産まれてたまるか! クレハは『サガ』な! 王様、それでよろしくお願いします」

「もー!!!! タケルくんのイケずー!!!!!!!」


 こうして半ば強制的にクレハ配置が決まった。

 まあ、彼女はこれ以上抵抗しないのを見るに、一応俺の言葉は届いたんだと思う。

 一区切りついたところで、ミリアが挙手した。


「聞いておきたいのだけど、どうして『オオイタ』の次は『ナガサキ』なのかしら? 地理的に最終防衛ラインである『フクオカ』に近いのは『サガ』だと思うのだけど?」

「ええ、それは海からの侵攻の可能性を考えているからです。もっとハッキリ言えば、『ナガサキ』から少し西に離れた島……あそこがかなり危険だからです。リンさん、説明をお願いしてもいいですか?」


 長崎から少し西……つまり五島列島のことを言っているんだと思う。


「あっ…………えっ……はい。わたしたちは……最初、その島……に着きました……」

「つまり、敵がそこの島に潜んでるってことか?」

「う、うん……」

「なるほどな。だから、そういう優先順位なのか…………でもちょっと待てよ。どうして、ファンたちは『ナガサキ』から侵攻しなかったんだろう?」


 純粋な疑問だ。

 五島列島から1番近いのは長崎なのだから、そこからまず攻め落とせばいいはずだ。

 問いかけにリンがすぐに答えてくれた。


「……ファンが……やめようって…………理由は……知らない」

「うーん、いまいち分からないな」

「いえ、タケルくん。結果的に『チャイナ』は正しいです。あの島を起点に敵が攻め込んでくるのは予想がつきました。なので、魔王を討伐するかたわら、『ナガサキ』にこちらの兵を少しまわしていたんです。ファンという男、相当なキレ者のようですね」

「王様そんなことしてたんですか」


 王様は魔王が討伐された後のことを常に考えて立ち回ってきていた。

 だから彼の行動にも納得がいく。

 しかし、敵のファンはそれを超えてきたというわけだろう。

 思えば、『オオイタ』で俺と戦ったときも、真っ先に切り札の正宗を破壊してきたし、彼の勘はかなり冴え渡っている。

 リンからは『嘘を見抜く加護ギフト』を所持していると聞いているが、もしかしたら『相手の心を読む』というようなもっと強力な加護ギフトを持っている可能性も考慮しなければならない。


 一連の話を聞いて、最初の質問をしたミリアが言葉を返す。


「なら、私は『ナガサキ』を担当するわ。防衛の重要度と安全その双方を考慮すれば『ナガサキ』が美味しい役回りなのは確かだもの。それに、ここ……おそらく『攻め』よね?」

「……ミリアさんは素晴らしい御慧眼をお持ちで。その通りです。作戦の2段階目……襲撃は主に『ナガサキ』を起点に行います。『オオイタ』も攻撃担当ですけどね」


 王様はミリアに拍手を送る。

 すごいな、俺はまったく気づかなかったけど、ミリアはあの少ない情報でここまでたどり着いたっていうのか。


「大方、『ナガサキ』の役回りは離れた島の奪還、そして敵船を使った奇襲といったところかしら? やりがいのある職場ね」

「……そこまで考えてはいませんでしたが、その作戦でいきましょう。敵は強大です」

「うわ、ミリア非人道的〜」

「卑怯だな」

「卑怯ね」

「卑怯なの」

「う、う、う、うるさいわねっ!!!! このミリア様だって、たまには卑怯な手も使うわよ! それに、非人道的だなんてクレハには1番言われたくないのだけど!?」


 ミリアはみんなから弄られて赤面する。

 そっぽを向いて、自慢の金髪をいじり始めてしまった。

 我らがミリア様は文句は言っても、しっかり役割は果たしてくれる。

『ナガサキ』は安泰だろう。


 それぞれのギルドの役割が見えてきたところで、それぞれの配置もスムーズに決まっていった。


『フクオカ』にはゲンゾウさん1人。

『サガ』にはクレハが1人。

『ナガサキ』にはミリアとサラ、そして一応リリの3人。

『オオイタ』には俺とアイリとゴウケンとリンの4人配置で戦っていくことが決まった。


 さりげなくゴウケンがアイリと一緒になったことに俺は少し安心している。

 戸籍上家族じゃないけど、彼らは血の繋がった親子なのだ。

 親子の連携でこの戦いを乗り切ってくれ。


「さて、編成が決まりましたが『襲撃』の説明がまだでした。こちらはリリさんから話してもらいましょう」

「任せてなの」


 リリが椅子の上に乗って立ち上がる。

 御行儀が悪いが、そうでもしないと背丈の都合で見にくいので仕方なし。


「リリは、みんなが防衛してる間に、キュウシュウ地方に扉を適当に置きまくるの。それで索敵して、相手の出方を伺うの」


 自慢げにリリはそう言う。彼女の【不思議の国の扉ワンダードア】の汎用性の高さに再び俺は驚かされてしまった。

 最強の称号とはまさに彼女のためにある。

 全局面において使える彼女の【不思議の国の扉ワンダードア】は完全にチートの域へと達している。


「なるほど。確かにそれはリリにしかできない仕事だな」

「もっと褒めてくれてもいいの! 出方を伺って、敵の守りが薄いところを叩くの。『ナガサキ』の離島をこっちが押さえちゃえば、敵の援軍は止まるから、ジリジリ削って息の根止めてやるの!」

「こら、お口が悪いぞ」

「えへへ……ごめんなさいなの」


 リリもそういうお年頃か……ちょっと汚い言葉を使いたがってしまうお年頃。

 俺にも多分あった。あったよね……?

 あんまり覚えてないけど。


「それと、おにーちゃんは転移の能力が使えるから、奇襲に向いてるの。だから、リリと頻繁に連絡をとって、4人の魔人がいないうちに敵陣を壊滅させるのがこっちの狙いなの」

「こっちも結構卑怯な手を使うんだな……まあ、ミリアの案よりは人道的だから良しとするか」

「タケル、後で裏に来なさい」

「金髪ヤンキーミリアやめろ」


 後で何度か死ぬことは覚悟しておこう。

 作戦の全貌が明らかになった。

 4つの国とギルドで防衛戦。

 リリが視界を取って、鬼の居ぬ間に弱いところから敵を襲撃。

 最後に残った魔人たちを各個撃破というわけだ。


「皆さん、作戦はだいたい把握しましたでしょうか。それでは明日から早速防衛に入ります。今日はこれで解散です」


 王様はそう締めくくり、席を立つ。

 俺たちの国を守る戦いがついに始まった。

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