第105話 俺の力の根源は
「つまり……
「その認識であってますよ。そして……世界を救う奇跡の力をその身に宿し、魔王という死の病を浄化したのが、僕の後ろにいる原初の魔法使いです」
「そうよ〜! 私、こう見えても結構出来る子なのよ〜」
原初の魔法使いは自慢気に笑うと、空中でクルクルと旋回する。
随分と上機嫌な彼は、騒ぎすぎて回った勢いで王様の後頭部に足を当ててウィンクして彼に謝る。
「……ちょっと抜けたところがありますが、本当に凄い方なんです。死して尚、現世にその魂を呼び戻せるほどですからね」
「確かにそうですね。でも、それを言ったら王様だって……あなたも原初の魔法使いがいた頃からの人間なんでしょう?」
「いえ……僕はそんな大した人間ではないですよ。偶々こんな
「それは自己評価が低すぎる気がするんですが」
「ふふふ、そうですか? 僕は元演者なので仕方ないですね。それが僕の本質ですから」
彼は頬をかきながら、少し嬉しそうに微笑んだ。
自己評価の低さが王様の本質?
きっと昔から、今のような性格だったということだろう。
人の上に立つ身分でありながら誰よりも下に立つその姿勢に俺は違和感を感じていた。
「それよりもタケルくん。僕は僕の知っている全てを話しましたよ。思い当たる節はないのですか?」
「思い当たる節と言われても……分からないです。王様の話したことは、この世界で魔法が生まれるまでの話ですよね? 俺のこの力とは関係ないです」
「いえ、関係あります。こう尋ねた方が良かったですか? タケルくん、あなたの世界は滅ぶ運命にありましたか?」
「えっ…………?」
思わず声が出た。
俺のいた世界が滅ぶかどうか……? ……そうか!
彼のその言葉は少し考えれば、俺が彼に発するであろう言葉を想像するのに十分なものであった。
「王様、分かりましたよ。つまり、俺が……元いた世界での原初の魔法使いだったと言いたいんですね」
「その通りです。そして、こちらの世界の
「俺の世界を滅ぼすかも知れない何か………………」
俺は今では少し朧げになってきている元の世界での記憶を辿った。
思い出せ。
何があった?
俺が生まれた世界での脅威……
人? 物? それともこっちと同じように感染症?
感染症で世界が滅ぶほど、医療技術のレベルは低くない。
人が人を滅ぼすことは……十分にありえる。
確証はない。感覚的、感情的なものだ。
感覚、感情……俺の感情はどこからきている?
そうだ、思い出した。
俺は一度自分の制御ができなかったことがある。
確か、アイリが銃で撃たれそうになった時だ。
俺はあの時考えるまでもなく、本能的に銃を破壊していた。
あの時の感情は今思い返しても不可解な点が多い。
ならば世界を滅ぼしたのは、銃のような武器や兵器だっていうのか?
……いや、もっと絞り込めるはずだ。
世界を滅ぼせる力を内包した力の塊。
人命を弄ぶあの兵器の名は。
「王様、分かりました。俺の世界を滅ぼすのは」
王様はゴクリと唾を飲む。
一呼吸置いて、俺が続きを口にする。
「核兵器、です」
人を滅ぼすためには一度きりの、小規模での虐殺では足りない。
長期的で、大規模でなければならない。
科学技術の粋を集めた核兵器を無差別に、無躊躇に使用したのだとすれば、その災厄は『魔王』と形容されることだろう。
その言葉を紡いだ途端に、俺は自分という存在をぼんやりと理解していくのだった。
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