第101話 後手に回る
家具ひとつない、リビングで今、俺たち特に何をするわけでもなくダラダラと時を浪費していた。まあ、仕方がない。待機するのも仕事のうちだろう。
実は、リリがここに搬入されるべき家具の所在に役所に聞いた後、業者の方から連絡があり、今日中に家具を家まで届けてもらうことになった。俺たちは特にやることはない(王様に話を聞きたいが、今は用事でいないらしい)し、自分たちがこれから住む家のことだから、手伝いたかったのだが、業者の方に「自分たちの仕事ですから」と断られてしまった。そういうわけで、絶賛お暇している俺たちなのであった。
「暇ね」
「ああ。新居が決まってもう少しはしゃぐ物だと思ってたけど、こうなにも無いとはしゃぎようが無い」
「私は別にこのままでいいな。倦怠期入ったカップルみたいで楽しい」
それが楽しいとなると、俺はクレハの感性を疑うしかない。
「王様がいれば俺たちがここに連れてこられた理由とか、聞きたいことが山ほどあって、これからの俺たちの行動方針も決まるってもんなのに、当の本人がいないからなぁ」
「リリ、王様とやらは一体どこに行ってしまったのかしら? このミリア様を呼ぶだけ呼んでほったらかしとはいい度胸だと思うわ!!」
「王様なら、今は国の周辺調査に行ってるの」
「王様自ら……ですの?」
アイリは首をかしげる。
「そうなの。早くて1ヶ月後だろうって王様は言うけど、慎重に慎重を重ねて2、3日前から周辺調査に王様も加わることになったの。リリは昨日付き添いしたの」
「へえ、リリも一般の兵士たちと見回りに行ったりするんだな。ゴウケンから、リリの部隊はリリだけで、他の兵士はいないって聞いてたから意外だな」
俺の発言にリリは少し引っかかるところがあったらしく、人差し指を頬に当てて考えていたが、すぐに素の表情に戻る。
ゴウケンが俺と知り合いだということはリリは知らなかったのか?
てっきり、ゴウケンが俺たちを自分の部隊に入れるって話をしてたから知ってる前提で話してた。
「おにーちゃんの言う通りなの。だから、リリの部隊が周辺調査をしているわけじゃなくって、リリが他の部隊に同行してることになるの」
「でも、どうしてリリや王様が見回りをしないといけないんだ? 別に『トウキョウ』の兵士たちは弱いわけじゃないよね?」
「ええっと、前に話したけど【
「ああ、確かそんなこと言ってたな。傷を負わないってのは、リリが体の周りに張り巡らせてる電気の障壁ってことか。というか、他にリリたち見たいな強い防御の
俺は今まで色々な
そして、経験上、防御に長けた
俺はそう分かっていながらも、逆のことをリリに尋ねた。
「いることにはいるの。でも、完璧じゃないの。完璧じゃないと死に至るの。一度傷がつけば、それで終わりだから」
リリは声のトーンを一段さげてそう言った。
やはり、優秀な人材は揃っている。しかし、【闇】はその上を行くようだ。
一度傷つけばということは、もしかしたら俺の
リリの言葉を聞いて、アイリはゴクリと唾を飲む。
自分の持っている
どんよりと重い空気が漂いう中、我らがリーダーミリア様がそんな空気を引き裂た。
「だったら私は【闇】なんかに負けないわね! 私も宝具でバリア貼れるし、ただの
「ミリアお前……」
「何よタケル。怖気付いたのかしら? あんたが怖がってちゃ、クレハやアイリちゅわんに失礼よ。あんたの
「うん。私もそう思うよ。私は【闇】に対抗できないけど、タケルくんの
頼もしい女性陣の言葉を聞いて、俺は頬を叩き気合を入れなおす。
弱気になるなんて俺らしくない。
これまでこんなふざけた世界で、魔力も持たず生きてこれたのだ。
きっとこれからも大丈夫。どんな相手だろうと、俺の
俺が自分にそう言い聞かせたところで、玄関が強くノックされた。
知らない人がインターホンを押した時、その対応をするのは大概お父さんであったり、長男であったりするわけで……周りの女性陣からの視線が一斉に俺に注がれ、俺は玄関のドアを開けに行った。
「どなた様ですか?」
俺は鍵のかかっていないドアを開けると、そこには…………何やら焦った表情を浮かべた王様が立っていた。
「王様? どうしたんで」
「ミリアさんはいますか!?」
王様は家の中に入るなり、律儀に靴を脱ごうとしたが、それをする前に、ミリアがリビングから現れる。
彼女の顔を確認するなり、王様は言葉を続けた。
「今すぐ来てください! ミリアさんの力が必要なんです!!」
「私? まあいいけど、随分急いでる様子じゃない」
「実際急いでます。急がないと人が死ぬかもしれません」
そこでリビングからひょっこりと顔を出したリリの顔が真っ青になる。
「まさか……そんなのおかしいの……早すぎる……」
「ええ、リリさん。僕もそう思います。それより早く! 時は一刻を争いますよ」
「ちょっと待て! 早すぎるってなんのことを言ってるんだ!」
予想は出来ている。しかし、確信が欲しいのだ。
俺が王様にそう聞くと、王様は歯を食いしばりこう言った。
「『魔王』は既に生まれていたんです!」
彼から放たれた言葉は、明日からの俺たちの生活が一変するほどの大ニュースだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます