第81話 ミリア vs. リリ 【その3】
魔法少女は僅かに銀の鍵へ唇を触れさせる。
それをトリガーに機械仕掛けの鍵の宝具は、そのパーツを動かし始めた。
「第一の門、解錠」
パーツが動き、鍵は一回りその大きさを増す。
宝具はひとりでに宙に浮き、彼女の周りを旋回し出す。
「第二、第三、第四……順に解錠」
宙を舞いながら、宝具はさらなる変貌を遂げて行く。
段々と膨張を始める鍵には所々隙間が開き始め、そこから深い青が顔を覗かせる。
「開け、開け、開け…………開け」
隙間がさらに面積を増して行く。
既に鍵の宝具は鍵の様相を保つことなく、彼女の周りを旋回した。
「第九の門……解錠。全門解錠、鍵は今開かれた」
変形を終えた鍵の宝具は既にその面影を全く残していない。
そこにあるのは……門。
覗き込めば引き込まれてしまうほどの深青色が広がる世界への入り口となる機械仕掛けの門だった。
「この門は全てを開き、この鍵は全てを繋ぐ」
怪しげに白い煙を垂れ流すその門は、魔力が見える者であれば慄き、見えぬ者であっても直感的に毛を逆だたせさせるほどの威光を怪しげに放っていた。
「さりとて、鍵は開き、門は繋ぐもの」
門の宝具が魔法少女の周囲を舞い、それに合わせて彼女の足元には藍色の魔法陣が展開される。
徐々に巨大化して行くその魔法陣はものの数秒で、半径50メートルほどにまで到達する。
そして、門は彼女の隣へと還った。
「ならば、これは解なき謎かけに対する、理に反した
門から漏れ出す不気味な藍色の魔力が少女の全身を包み込む。
宝具の名を告げ、魔法少女は真剣な面持ちで、両手を前に突き出し、
*
挑戦者の少女は5本目の宝具を腰にかける。
そして、右手で宙を切り、己の固有空間へアクセスした。
「風よ来たれ」
ゆっくりと、透き通る水色をした細剣が召喚される。
それを右手で固く握り、半透明な衝撃波を5つ空に撃ち込んだ。
「風は火を灯し、光を運ぶ」
衝撃波によって生まれた空間の裂け目から、4本の鎖が少女の体に向け発射される。
それと同時に白い光を放つ光球が彼女の周りを回り始めた。
「一柱来ては、また一柱」
3本の紅い鎖は彼女の胸から腰にかけて巻きつき、その先端は緑生い茂る地へと突き刺さる。
1本の鎖は体に纏わせ、先端に水色の細剣を指すことで地面に固定した。
「神の息吹は我が血を巡り、大地を巡る」
突き刺さった鎖が、重低音を鳴らしながら、彼女の体に魔力を運ぶ。
そして、彼女でさえも蓄えきれない魔力が、体の表面から空中へ漏れ出し、また細剣を通って地面へと戻される。
「回れ、回れ…………巡りて回れ」
大地から魔力を吸い上げ、吐き出し戻し、吸い上げを繰り返し、彼女の周囲には黄と緑の光の粒子が漂っていた。
炎の鎖はついに熱量すらも魔力へ変換し、彼女の体に送り込む。
魔力の輝きに加え、宙にはキラキラと何かが白く輝き始める。
ダイヤモンドダストだ。
魔力を吸われた大地は痩せ細り、草原であったそこは変化を遂げていく。
次第に、彼女の周りの草花は枯れ果て、黒っぽい土が顔を出した。
「そしてその手は黄金の頂に、その足は故郷の大地へと踏み入れる……宝具全展開」
上方の固有空間から、輪郭の揺らぐ黄金の剣が舞い降りる。
その剣へ少女は手を伸ばす。
両手でそれを握った瞬間、猛烈な風圧彼女の髪を激しく揺らした。
「この一振りは誰がために。これは正義にあらず」
魔力の循環は未だ継続しており、半径50メートルの草花は既にそのエネルギーを完全に吸い尽くされている。
黄や緑の光の粒子はその量を着々と増やしていた。
宙に漂うそれらは不規則に揺れ、陽炎のような現象を引き起こしている。
「この一振りは、我が勝利のために!」
少女は周囲を回っていた青白く光る球を、光の剣で切り裂いた。
ガラスの割れる音が響くと同時に、輝剣が巨大化し突風が彼女の髪を、纏わり付く鎖を揺らす。
「大地の神々よ、勝利の加護を我に授けたまへ––––
四つの宝具の複合名を告げると、必殺の一撃を撃つべく、両手で剣を構え、前方の少女を見据えた。
互いに宝具の力を解放し、飽和した力が、彼女たちに駆け巡る。
行き場の失った奇跡を起こすその力たちが、今少女たちの手から放たれた。
「【
「
魔法少女から放たれるは、電気を帯びた紫色の魔力。
彼女の
地面をえぐり、焼け焦がすほどのエネルギーを持ったそれは、一直線に目前の敵へと襲いかかった。
挑戦者から放たれるは、煌めく魔力の粒子を纏わせる光線。
彼女の宝具ではこのような光線を出すことは出来ないはずであったが、彼女も、それに宝具自身の限界を超えた魔力量がこれを可能にする。
極太の雷とレーザーがジワリジワリと接近する。
そして、二つが触れた瞬間、巨大な爆発が起き、猛烈な熱量が草原の草花を押し倒した。
遠く離れた木の陰で2人の様子を見守るタケルたちにまでその威力は伝わって来ており、木にしがみつくことで、なんとか吹き飛ばされずにいるといった様子だ。
二つの魔力の塊は未だ拮抗状態。
製造からおよそ300年、それ程までの長い期間を経て吸収した魔力を、宝具内部の異空間と
通常危険すぎるその力には九つの封印がかけられ、放出する魔力の量を制限されている。
その封印が解かれた今、
どちらが上の戦士なのか、初めて現れた自分を超えるかもしれない挑戦者の少女に向けて!
鎖に絡まれた挑戦者の持つ宝具たちは、単一での性能を考えても間違いなく一級品の宝具である。
しかし、それらの宝具を生み出した今は亡き天才鍛冶師はそれらの宝具は4本全て揃って1つの宝具と考えていた。
四つの宝具を解放することで得られる、周囲の魔力を己がものとし地形すらも変化させるその恩恵はまさに神の御業。
魔法というものは使用者の魔力器官を通り行使されるまたは、魔法石へ蓄えられた魔力が何かのきっかけで放出される奇跡の現象である。
この際、大気中の魔力を一度魔法石や魔力器官という魔力の変換フィルターに通す必要がありそこにエネルギーを使ってしまう。
大気中には通常【火】【水】【雷】【土】【風】の属性系の魔力が高い比率で混在しており、魔力器官によって魔力の変換を行わなくても良い場合が多い。
つまるところ、エネルギー変換効率が良いのだ。
これが属性系の
彼女のような【時間】や【召喚】の魔力というものは大気中に存在しないため、そのような
これはごく普通、当たり前のこの世の摂理のようなものだ。
しかし、
大地から吸い上げた魔力を、また熱量を変換して生まれた魔力を、一度少女の魔力器官を通し【時間】や【召喚】の魔力として放出、吸い上げては放出を繰り返す。
そうすることで、大気中の魔力の種類の比率が歪む。
属性系の魔力はその数を減らし、通常この世に自然発生することのない稀有な奇跡を内包した魔力が空気中での大多数を占め始める。
ここはまさに彼女のために用意されたステージ。
今この空間は彼女が一切無駄な力を使うことなくスムーズに膨大な魔力を行使できる場へと変貌を遂げていた。
と、ここまでが宝具の作成者が想定した宝具の性能である。
挑戦者の彼女の【時間】の魔力が新たな魔法を引き起こす。
高濃度になったそれが
結果、大気中に時間の層を織り成し、彼女の周りは時間的に歪曲した空間へとなっており、数秒前に存在した、そして現在存在している、さらには未来に存在しているであろう魔力が同じ空間に留めることに成功した。
これにより、一瞬一瞬を切り取っても膨大な量の魔力を、複数回使用することを可能にしたのだ。
拮抗したと思われた二人の一撃は、徐々に挑戦者に勝利の天秤が傾き始める。
魔法少女は顔を歪め、
挑戦者はここが勝機と見定め、この戦いを終わらせるべく叫ぶ。
「届けえええええええええええええええッ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
彼女の一撃はついに、魔法少女の雷の勢いに勝った。
エプロンドレスの少女は身の危険を感じると、【雷】から扉の
「【
少女は身を引きながら、目の前に厚さ1メートル以上の大きな扉を10枚出現させる。
各地に置いている転移用の扉を除き、彼女に出せる
扉と光線が打つかると、ミシミシと音を立て扉が破壊される。
1枚、2枚、3枚と破られ、このままでは全ての扉を破られると感じた魔法少女は、最終解放し門と化した
先端に火が灯る木製の杖を取り出した瞬間、少女は心臓を掴まれるような感覚に陥る。
命を、自分の
その後も次々と扉は破られ、9枚目の扉を破られたところで少女は意を決して、杖を右胸に刺そうとしたが、それをする前に迫り来る光の本流が途絶える。
安堵した幼い魔法少女は杖を戻すとヒビの入った巨大な扉の傍から顔を出す。
戦いを見ていたタケルたちは彼女の元へ走り出していた。
荒れ果てた草原に一人…………世界最強へと一歩近づいた金髪の少女が膝をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます