第80話 ミリア vs. リリ 【その2】


 リリの加護ギフトの攻撃をもろに受け、ミリアは叫ぶ。

 耳をつんざくその叫びに俺は目をそらしたくなるが、それは絶対にできない。

 ミリアがこんなところで負けるはずがない。

 これまでの旅で、アイツの粘り強さは分かっているつもりでいる。

 こんな状況でも絶対に勝機を見出し、次の一手を潜ませているはずなんだ。


 リリの電撃が止むと、ミリアから黒い煙が立ち昇る。

 服はボロボロで、大部分が焼け焦げてしまっていた。

 しかし、彼女は剣を突き、未だ膝を地につけていない。


「リリの攻撃を受けてまだ立ってられるなんて、思ったよりもやるの」

「はっ! 思ったよりもとは心外ね…………私の力はこんな物じゃないわ」

「勝手にしろなの。でももう戦う意味はないの。剣の人も気付いてると思うけど、リリはまだ一度も自分の魔力に手をつけてない。戦いが長引けば長引くほど、リリが有利になるのは剣の人も分かってるはずなの」

「気付いてたわよ。でも私は止まれない…………私は今着々と勝利に近付いているのだから!!!!」

「何を言って……」

「戦闘が長引けば、あんたが有利になるですって? その言葉そっくりそのままあんたに返すわ!」

「まさか……!」

「遅いッ!」[

 リリはミリアの言葉に反応し、転移による回避を取ろうとするが、それをするより先にミリアの魔法が発動する。


 ミリアは遠距離戦でただひたすら不利な戦いを強いられていただけではなかった。

 疾風迅雷の細剣ブリューナグにより 【固有空間マイルーム】の発動可能範囲の拡大を行なっていたのだ。

 幾千の衝撃波により、今現在この草原は全て【固有空間】へアクセスできる状態になっている。


 突如リリの周りの空間が裂け、そこから朱に染まる炎の鎖がリリへ向かう。


「【召喚】……無限の炎鎖ダグザッ!! 拘束しなさい!」


 リリは放たれた4本の鎖の内、3本を回避、しかし一本の鎖に左足を掴まれた。

 彼女の雷の障壁は攻撃に対して反応するもので、無限の炎鎖ダグザが絡みつくこと自体は防げなかったようだ。

 無限の炎鎖ダグザがリリに絡みついた瞬間、彼女は体の異変に気付く。

 宝具による魔力吸収が始まったのだ。


 敵の魔力を使い熱を生み、対象をさらに苦しめるミリアの宝具。

 無敵に思われた彼女の隙を突き、ミリアの攻撃が始めてその身へ到達した。


「くっ…………きゃああああああああああああ!!!!!!」


 熱と、魔力吸引によりリリは悲鳴をあげる。

 魔力の吸収をしている間、リリの防御障壁は発動し、さらに無限の炎鎖ダグザの威力を援助していく。

 一本絡みついてた後は、2本、3本と順にその本数を増やしていき、ついには彼女の体を鎖に宝具が包み切った。

 圧倒的熱量でリリを苛んでいたミリアであったが、不意に無限の炎鎖ダグザを仕舞い込む。


 鎖から解放された魔法少女は全身火傷痕を残しながらも、その顔には笑みが残っている。


「へへへ…………どうしたの? 攻撃を続けないの?」

「まさか、無限の炎鎖ダグザの魔力許容量を超えるだなんて…………あんたのその馬鹿げた魔力量は何なのよ! チートじゃない!」

「今のはズルじゃないの。今のは正真正銘、リリの魔力だよ。愛と正義の魔法少女はこれぐらいできて当然なの」


 リリはそう言うと、扉を階段のようにして地面に降りてくる。

 宝具の一撃を受けて尚、膝をつかない少女の姿に、ミリアは面食らった様子だ。


「でも、分かったの。戦いを長引かせるのはお互いに良くないって」

「私もその案には賛成よ。こちらも体力的にキツいわ」

「剣の人、もう歳だからね?」

「何ですって! 戦いを続けるわよ!」

「全く剣の人は怒りっぽいの。…………剣の人、まだ何か残してるよね?」

「…………その通りよ」

「リリがあなたをやっつけた2回目の時、何かを狙っているような目をしていたの。結局最後までそれを出してこなかったのを……少しリリは怒ってるの。格下に手加減されるほどムカつくことはないの!」

「それを言うならあんたこそ、まだ上があるんでしょ? その宝具には。お互い様じゃない」


 一度、戦いの手を止めたと思われた2人は再び武器を持つ。

 輝剣と銀鍵が触れ合い、キンッと耳に響く音を立て、それを合図に、2人は逆方向に走り出した。

 そして、互いに距離が200メートルほど離れたところで静止した。


 ミリアは輝剣を最強の魔法少女に向け吠える。


「行くわよ、魔法少女ッ! 私はこの一撃で、貴方を超えるわ!!!!」


 リリは大きな銀の鍵を目の前に立てると、挑戦者へ叫ぶ。


「来なさい、剣の人! リリの魔法があなたの夢を撃ち壊すの!!!!」


 金髪少女達の最終決戦の火蓋が今切って落とされた。

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