第69話 トウキョウの秘密?

「俺が人間じゃない……」


 少女から告げられたその言葉が俺の心の中に響く。

 絶対にありえない。

 否定しないといけない言葉であるはずなのに、その言葉は俺の中にすんなりと入ってきた。


「うん。リリはいっつもモンスターとかと一緒にいるから分かっちゃうの。おにーちゃんは普通の人間とは違う。初めて会った時は、生きた心地がしなかったの」

「それは……どういうこと?」

「おにーちゃんはおにーちゃんなんだけど、おにーちゃんじゃない。リリが見てるのは絶対おにーちゃんなはずなのに、それよりもっと大きな存在を感じたの」

「めっちゃおにーちゃん言っててよくわからなくなってきたな……」


 たった二言で俺は何度おにーちゃんと呼ばれたのだろうか?

 冗談はさておき、彼女の言っていることが本当だと、俺は元の世界でスタンド的な何かを使えていたということか?

 俺を見ながらもっと大きな存在って、そういった感じな気もするし、この考えは単に漫画の読みすぎの気もする。俺は結構サブカルに強めなんだ。


「他に感じたことは何かある?」

「うーん…………逆ならあるの」

「逆っていうと?」

「今のおにーちゃんからは何も感じない。昔感じたちょっと怖い感じが無くなってたの」

「怖い感じ……か」


 それはもしかしたら単純に俺の性格が変わってしまったからかもしれない。

 子供から大人までずっと同じ性格という人は少ないと思う。

 中学の頃の俺は荒れていた可能性だってあるんだ。


 しかし、そんな簡単に片付けていいものなのか?

 リリの言葉を性格で片付けないとすると、俺には何か不思議な力が宿っていてその謎の力にリリが恐れをなしてしまったということになる。

 おそらく、その不思議な力とは俺の【世界の加護ギフト】だ。

 そして、その流れで行くと俺は元の世界にいた時からこの【世界の加護ギフト】を持っていたことになる。


 いくら考えても、何が本当なのか分からない。

 俺の頭で考えて分かるものなのかも不明だし、とにかく情報が足りなすぎる。

 帰った時にミリアに聞いてみよう。ちょっとは手がかりがもらえるかもしれない。



 ミリアのことを考えてたら、俺はほかにやらなければならないことがあることを思い出す。

 俺がシャーリーとこうしてトランプで遊んだりした理由は別に楽しむためというわけじゃなかったのだ。


「シャーリー、ありがとう。俺の方でも、少し調べてみるよ。ところで、話は変わるんだけど、さっきの金髪のお姉さんってどんな人? 悪い人って言ってたけど」

「悪い人なの。『トウキョウ』の街をいっぱい壊して、リリがそれを追っ払ったの」

「なるほどな。どうして、そのお姉さんはそんなことをしたんだろう?」

「それは、王様がちょっと強引だったからなの。王様は剣の人が欲しくて、でも言うこと聞かなかったから、剣の人の家族をまずお城に連れてってそれで……」

「人質、ってことか」

「それはそうだけど……違うの! 家族の人には怖いことはしてないって王様も言ってるの!」


 彼女は声を大きくして叫んだ。

 彼女の感情の高まりに呼応して、周囲を取り囲むウサギや猫達はジワリと一歩前に出る。

 モンスターたちの敵意を察した俺が、一歩下がろうとしたところで、俺の後ろにいたドラゴンが彼らに睨みを効かせると、モンスターから発せられる敵意のようなものは消えた。

 どうやらドラゴンは俺の見方をしてくれているらしい。


「怖いことしてないって……でも、俺この世界を旅してよく聞くよ? 『トウキョウ』は強引に優秀な人材を他のギルドから取ってきちゃうって。みんな『トウキョウ』は悪い国だって言ってる」

「それは…………仕方ないの……あと一年、ううん。もしかしたらあと半年以内できっとみんなも分かってくれるはずなの…………」

「半年以内になにかがあるの?」

「それは……おにーちゃんにも言えないの…………王様も絶対他の人に言っちゃダメだって言ってるの。言ったらみんながおかしくなっちゃうからって」

「うむ…………」


 彼女の表情が陰る。

 先ほどまで明るい笑顔を見せていたと言うのに、それほどこの話は聞いて欲しくないのだろう。

 ミリアについて聞こうと思ったわけだけど、まさに藪から蛇、俺たちがこれから相手にしようと思っている大国の秘密に触れることができるとは。


 シャーリーは他の人に言ってはいけないと最強の国『トウキョウ』の秘密を教えてくれなかった。

 しかし、その内容を正確に把握はできなかったが、分かったことがある。


 1つ目、ミリアの家族は無事であること。

 2つ目、『トウキョウ』の蛮行は決して悪事のために行なっているわけではないこと。

 3つ目、一年、または半年以内に何かが起きるということ。


 かなりの朗報があるとすれば、ミリアの家族が無事であるということだ。

 しかも怖いことはしてないって言ってるし、拷問とかも受けてないんだろう。

 半年以内になにが起こるのかは分からない。

 しかし、それを知るとみんながおかしくなるってことは、悪いことであるのは間違いない。


 例えば地震や噴火はどうだろう。

 もし仮に、それらの大災害が起こることが分かっていたとして、それを食い止めるために優秀な人材を集めているとしたら、『トウキョウ』の行動は腑に落ちる。

 大地震が来ると分かれば、もちろん皆パニックに陥る。

 そうなっては大変だ。不安を煽る事実は伏せて、それに備えるというのは1つ良い策な気もする。


「とにかく『トウキョウ』はそんなに悪い国じゃないのかもしれないなって思えたよ。リリもそのために頑張ってるんだろ?」

「そ……そうなの! もう大変なんだよ! お休みも少ないし、ブラック企業ってやつなの」

「『トウキョウ』急に悪い国になったな!?」


 この世界に会社というものがあるのか知らないが、彼女は俺が元いた世界を知っている。

 多分そこから仕入れた言葉だろう。

 シャーリーはアニメとか好きみたいだし、結構俺のいた世界に詳しい。


 そういえば、アニメの知識とかについては『トウキョウ』の国家秘密なんだっけ。

『トウキョウ』上層部の一部しか知らないとかミリアが言ってた気がする。


 色々と情報を聞けたところで、俺はあることを思い出す。

 俺の旅の仲間たちのことだ。


「えっと、さっきから聞いてばかりで悪いんだけど、シャーリーは今お休み? それともお仕事中? お仕事中なら、俺と道草食ってていいのかなと思うんだけど」

「それなら大丈夫なの! リリは今日と明日はお休み! だからたくさんおにーちゃんとお話できるの」

「じゃあ観光中だったわけだね。実は俺たちも『オオイタ』に観光しにきてたんだ」

「そうなの! だったら明日まで一緒に居られるね! 嬉しいのー!」

「俺も嬉しいよ。だから、せっかくの観光なのに『オオイタ』に居ないのはおかしいと思うんだよね」


 俺がそう言うと、彼女は今まで自分が観光中であったことを忘れていたと表情でそれを伝えて来る。

 まさかこのまま二日間の休みをここで過ごすつもりだったな。


「リリったらおとぼけさんなの。『オオイタ』に帰ろう、おにーちゃん?」

「もちろんそのつもり! リリの魔法、頼りにしてるぞ?」

「う、うん! それじゃあ掴まっててなの! ウサギさんたちまたね〜! 楽しかったの!」


 彼女は弾ける笑顔でモンスターたちに別れを告げると、目の前に赤い扉を生成する。

 その扉にノックすると、扉はゆっくりと開き、周りの真っ白な花畑に似合わない『オオイタ』の本道が映し出される。

 俺は彼女の手に引かれるままに、扉をくぐった。

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