第3章 最強の魔法少女の登場と殺人事件でサスペンスの香り……?『オオイタ』編!

第59話 いざ『オオイタ』へ!


 晴れて『ウツノミヤ』が国へと昇格した一週間後、俺たちはミリアの宣言通り次の目的地『オオイタ』へと向かうことになった。

『オオイタ』から来る月に一回の定期便のタイミングがちょうどそこだったため、一週間も待たされたわけだけど、それが逆に良くて、あまり出来ていなかった『ウツノミヤ』観光に当てることができたのだ。これは嬉しい。

 さらに、我らがミリア様は名実共に『ニッコウ』の救世主様であり、その協力者ということで俺たちまで街での買い物を無料にしてもらえたこともあり、この一週間は本当に最高の観光になったと思っている。俺は一体一週間で何個の餃子を食べたのだろう?


 基本的に俺たちの旅の仲間は観光を楽しんでいたのだが、クレハだけは何故かこの街の鍛冶屋にこもりっきりの一週間になっていた。

 オカザキの家系の者は鍛治師業界? にとっては神に等しい存在らしく、『ウツノミヤ』を出る前に手ほどきを受けたいという鍛治師が殺到したのだ。

 最初は「タケルくんとの観光を邪魔するつもり? 死にたいんですか?」とかなりキレ気味だったんだけど、ミリアが『ウツノミヤ』の戦力増強をお願いしたことと俺がお願いしたこともあって、泣く泣く了承してくれた。

 元々クレハは武器や防具に関しては非常に関心が強いから、鍛冶屋の人たちとも上手くやってるみたいで、夜宿屋に帰って来るたびに今日作った武器や防具の話を嬉しそうに沢山してくれた。そういう姿を見て少し可愛いなとか思ったけど、それを言ってはまた調子に乗るからそれは伏せておいた。


 1つ説明が遅れた。ミリアが何故『ウツノミヤ』の戦力を増強させようかと思ったかについてだ。

 最初、ミリアは『ニッコウ』の人たちを仲間にしようと彼らに近づいた。しかし、色々あって『ニッコウ』は『ウツノミヤ』に吸収され、その境界があやふやになってしまった。

 それでも元『ニッコウ』の人たちを仲間に『トウキョウ』と戦うものだと思っていたのだけど、事態はそんな小規模に収まらなかった。


 なんと『ウツノミヤ』が全兵力をあげて協力をすると言ってきたのだ。


 いつのまにそんな約束をこじつけたんだとミリアに聞いたところ「私は何も話してないわ。フクダが勝手に理解して、勝手に協力を申し出ただけ」だとのこと。

 まったく、フクダさんの頭はよく切れている。

 前にフクダさんが言ってた通り、彼らの国も『トウキョウ』に優秀な人材を奪われている。敵対する理由は間違いなくあって、そこに巨大な戦力……ミリアのことだけど、それがやってきたから協力しないわけがないと言ったところだろうか。

 ミリアは自分が思っていた以上の戦力が早くも手に入ってしまったこともあり、終始ご機嫌だった。

 ミリア自体が一国級の力を持っているとして、そこに『ウツノミヤ』の力が加わればさらにもう一国。結構な戦力なんじゃないかと俺は思ったりするが、実際のところは分からない。


 そんなこんなで一週間の話はここまでで、俺たちは今、『ウツノミヤ』の北にある温泉地に来ている。

 目の前に木でできた茶色く大きな建物が建っていて、温泉マークの暖簾が入り口にかけられていた。

 間違いなく、温泉施設だ。

 周りを見渡すと川とがあり、川沿いにいくつか建物が建っている。

『ウツノミヤ』の主な都市部分から離れて形成された集落のような感じだ。

 俺は見送りに来てくれたフクダさんに問いかける。


「本当にここから『オオイタ』までいけるんですか? ……ただの温泉施設にしか見えませんけど……」

「そう思うのであれば私たちの思惑通り、ということになる。この転移スポットは外の人間に知られたくないのだよ」

「言われてみれば……確かにそうですね」


 俺はちょっと考えが甘かったようだ。

 ワープポイントのことがバレたら、そこを占領しようと思う不埒な輩がいるかもしれないしこれが賢明な判断なんだろう。


 しばらく待っていると、茶色い建物から一人の男性が現れる。

 背が低く、丸顔で平べったい顔をした男性で愛くるしさを感じる。

 男はフクダさんに低姿勢で歩み寄ると両手でガッチリと手を握った。


「お久しぶり、です。そちらは、どう、でしたか」

「いつも通り、と言いたいところだが変化があった。なんと私たちのギルドは国へと昇格したよ」

「ほ、本当、ですか! それはすごい、です」


 男は独特なイントネーションの日本語で話しながら興奮した様子でフクダさんの手をブンブンと振った。

 俺やミリアがその光景を見ていると、フクダさんは男を紹介する。


「こちらだけで話が進んで申し訳ない。こちらが今回君たちを転移させてくれる、ワンさんだ」

「ワン、です……って、フクダさん、私聞いてません、よ」

「連絡せずにすまない。しかし、彼らは『ウツノミヤ』の恩人たちだ。ここは1つ、私の顔に免じて彼らを向こうに送り届けてくれないか?」

「フクダさん、がそういうなら……」


 フクダさんが頭を下げると、決まりが悪そうにワンと名乗る男性が後ずさりする。

 この人押せばなんとかなる人だ。

 ワン、ということは中国系の人だろうか?

 そもそも異世界に中国があるのか知らないが、フクダさんにそのことを尋ねると「ワンさんは西の大陸からやってきた者だ。こちらの大陸を旅しているらしい」と言ってくる。

 なるほど、『ウツノミヤ』に来た旅人とはワンさんのことだったのか。


 俺たちがワンさんに自己紹介をすると、一人一人握手をして笑顔でそれに応えてくれた。

 ワンさんは誰にでも分け隔てなく、こういう対応のようだ。

 友達作るのとか上手そうで少し羨ましい。

 別に俺に友達がいないと言っているわけでは無いからな!


「どれ、くらいの期間『オオイタ』に行く、つもりなのです、か?」

「それはミリアくんの用事によるな。どうなんだ、ミリアくん?」

「一週間あれば良いわ。『オオイタ』が楽しかったらもう少し伸びるかも」

「一週間……大丈夫だと思います、よ。ギルドの方には、私から、説明しておき、ます」


 少し不安そうな表情を浮かべたワンさんはすぐに先ほどまでの笑顔に戻ると、首を縦に振る。

 入国とかって審査が必要なものなのだろうか?

『ウツノミヤ』では無かったけど、ギルドによってはあるんだな。

 そういえば『ミト』にいた時はギルドの周りは壁で囲われていて、門の前には兵士がいたし、もしかしたら入国審査があったのかもしれない。

 逆に『ウツノミヤ』の危機管理体制がなってない可能性も然り。

 まあ、『ウツノミヤ』はかなり大きめのギルドだったわけだし、あまり問題ないって感じなのかな。


 ワンさんに転移の許可がもらえたところで、俺たちは早速転移させてもらえることになった。

 彼の後ろをついて行くようにして、茶色い建物の暖簾をくぐる。


 中に入るとそこは普通の和風旅館といった内装で、まさかここが転移ポイントになっているだなんて分からない。

 ワンさんは廊下を迷うことなくまっすぐ進み、1番奥の襖を開ける。


 するとそこにはコンクリートらしきもので出来た灰色の階段が現れた。


 階段は奥が見えないほどに薄暗かった。

 俺は怖がるアイリの手を右手で握ってやると、彼女は体をさらに一歩俺の方に近付ける。

 こういうことすると間違いなく、反応してくるクレハは左手を掻っ攫うと腕に双丘を押し当ててくる。

 こういう余計なことをするから嫌なんだとか思うが、前に彼女をフッて相当凹んだところを見ているのでなんとも振り払うのが躊躇われ、結局そのまま階段を進むことにした。


 なんでミリアはこっちを見ているんだ?

 まさかお前も怖いのか?


 残念ながら3本目の腕は存在しないので腕に捕まることは出来ないし、そもそも愛しのアイリちゅわんの前でそんな不恰好なことミリアには出来るわけがなかった。


 その階段を降りて行くと、段々と水の流れる音が聞こえてくる。

 川か何かが流れている?

 階段を進んで行くと、急に明るく広い場所に出る。

 砂利の敷き詰められた地面の真ん中を二分するように走る川が黄色い発光色の照明に照らされ光っていた。


「温泉施設の下に…………川?」

「いえ、これも温泉です、よ?ここから『オオイタ』まで、私の加護ギフトで、ひとっ飛び、です」

「なるほど」


 確か温泉地をワープポイントにする転移の加護は本当にあったんだな。

 俺は感心しながらも川の近くによってみる。

 川に思えていたそれはほのかに湯気が立っており、温泉なんだということを示していた。


「皆さん、準備は良いです、か? 【転移ワープ】を始め、ます」


 ワンさんに言われるままに彼の周りで俺たちは待機していると、周囲が白い靄のようなものに包まれる。

 転移が始まったらしい。

 初めての体験に怖がるアイリの手を強く握ると、アイリは顔を一度見上げ涙ぐんだ顔をこちらに向けると、顔を俺の股間に埋めてきた。

 突然のことに俺の顔は赤くなるが、アイリは今自分がやっていることの重大さに気づいていないのだから、こちらが恥ずかしがってどうすると言い聞かせた。

 その状況を見てクレハは自分のことを指差して口をパクパクさせて何か言っているが、転移途中だからかそれは俺の耳に届かない。

 まあ、何を言っているかは大方予想はできる。


 世界が光に包まれる。


 俺は分かりやすい口の動きで「ムリ」と言うのだった。

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