第50話 迫る炎柱
『ウツノミヤ』最西端。
直線距離で『ニッコウ』に最も近いその場所には『ウツノミヤ』の【土】の
彼らは今回、2つのギルドで意見を出し合い、練った森の開通作戦に参加するメンバーである。『ウツノミヤ』側の役割はただ1つ、道に壁を作るということだ。
宝具、
予定では正午かそこらで
隣国の合併問題は『ウツノミヤ』が国になれるかどうかを決める重要な問題であり、ギルドの人々のホットで注目度がある話題、故にここまでの人が集まったのだろう。今回の作戦に参加する手はずになっていない人達まで、炊き出しをしだして若干のお祭り騒ぎだ。
不意にフクダは体を貫く何かを感じ、一歩後ずさる。
(なんだこの魔力は……これは昨日ミリアくんとの戦闘で感じたものに近い。全身の毛が逆立つような、生命の危機を感じるほどの膨大な魔力……!)
フクダは感じた。彼方遠方より弾ける膨大な魔力を。
そこから放たれる魔力の本流がこちらに迫っていることを。
しかし彼は何が起きているのかを正確には把握できない。
なんせフクダの
嫌な汗を背中に感じたと思うと、賑わう作戦本拠地に似合わない、焦りと動揺が混じった声がフクダの耳に不意に届く。
送られてくる言葉を頭の中で噛み砕き、自分の
(不安を仰ぐ、そんなことで指示を躊躇している場合ではない!)
フクダは腰に携えた透明の何かを掴みそれを抜くと、握ったそれは正体を現す。
刀の形状のその武器には7色の魔法石で北斗七星が刻まれていた。
彼は民に向けて声高に指示を出す。
「【土】の加護所持者はすぐに壁を作りなさい! 森に垂直にです! 他の者は壁の後ろに退避を!」
「突然どうしたのですか……」
「理由は後です! 死にたくなければ早く言う通りにしなさい!」
「は、はい……!」
壁製作班のリーダーらしき若者はギルド長の気迫に押し負ける。
フクダは普段から温厚で、何が起きてもどっしりと構えた冷静な人間として通っている。
そんな彼が声を荒げ、身を守る行動を取れと言っているのだ。
異常を察した民たちは即座に壁を作り始め、正体不明の不安から身を守る準備をした。
民が壁を作り始めたのを確認するとフクダは刀を強く握り、森の中へと走り出す。
フクダの手に握られているのは『ウツノミヤ』の宝具、北斗
森を走るフクダは自身の加護により、迫り来る爆炎の位置を把握し、不意に足を止める。
(速度が速い。これは無傷ではいけないか?しかし……逃げる気など毛頭ない)
木の倒れる衝撃で地響きが森に響き、その音は段々と近づいて来ていた。
もうここまで近くに来れば加護による探知能力がなくても十分にその存在を確認することが出来る。
徐々に迫る熱の熱さのためか、無事にギルドを守れるかという焦りからか、フクダの額に汗が流れる。
(目標接近。3…………2…………1ッ!)
心の内のカウントを終えると同時にフクダは刀を地面に突き刺しその反動で彼の体は後方へと猛スピードで吹き飛ばされる。そのすぐ後に『ニッコウ』からやってきた炎柱が続いた。
速度は現状五分。しかし、フクダは徐々に失速し迫り来る豪炎に包み込まれてしまいそうになる。
フクダは炎が自身の刀の間合いに入るのを見計らい、刀を振る。
「
1度、2度、3度…………4度目の斬撃を繰り出す前に速度負けし炎柱に飲み込まれるが、致命傷を負う前に、宝具を地面に叩きつけることで速度を回復させる。
一度炎に飲み込まれたため、彼のスーツは所々が黒く炭化し、フクダの避退にも火傷跡が生まれていた。
速度をあげたフクダは再びゆっくりと爆炎に接近していき先程と同様斬撃を加えていく。
4度……5度目の斬撃を終えたところでフクダは森を抜けてしまう。もうこれ以上後には引けない。宝具の発動まで残り2度の斬撃。先程のようにもう一度速度をつける余裕も距離も彼には残っていなかった。
6度目の斬撃を繰り返した際にはフクダは既に炎に飲み込まれる。
灼熱に包まれ全身の火傷で苦痛に顔を歪めるが、それでも火傷し赤く腫れた腕で最後の一撃を振るう。
「
絞り出した渾身の一振り。北斗
霧散したのとは反対に倒れた木が巻き起こす砂煙が辺りを包んだ。
砂煙が晴れ、広場には土の壁を背に口角を上げ勝利を確信したスーツ姿の戦士が、刀を杖にして立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます