第46話 私が撃つから!

 昼食を手短に済ますと、俺たちは再びギルド本部に招かれた。

 先ほど半壊させてしまった部屋(ギルド長の仕事部屋だったらしい)は使えないとのことで、本部の二階にある応接間に招かれた。

 話し合いは順調に進んでいて開始5分の段階で大まかな作戦が決まりつつあった。


「森に火を放ち道を切り開く、基本的な方針はこれでいいだろう。山火事が懸念されるため水系の加護を持った人材が必要になるがそれはこちらで確保する」

「異論なしよ。抵抗しに出てきたモンスターはタケルが止めて、私が処理する」

「俺、モンスター相手だとまともに戦える気がしないんだが、それでも良いのか?」

「問題ないわ。倒す必要はないもの。あんたはそもそも時間稼ぎがしやすい加護なんだからね。フクダが索敵するから、指示をもらって守りに徹しなさい」


 俺の見せ場はどうやらないようだが、加護の性質にあった役回りに徹することはこの世界において大きな意味がある。

 元の世界と違って明確にこれが出来る、というのが決まっているというのはそういうことだと俺は思っている。

 ミリアはさっきフクダが索敵をすると言っていたが、これは彼の加護がそれに向いているものだからだ。

 俺はクレハに書いてもらったフクダのステータスを見るために黒い革の手帳を開く。

 _________________________________________

 フクダカズアキ

 筋力:A

 魔力:A

 体力:S

 技量:SS

 経験:SS


 加護:【魔力探知(センサー)】魔力をより鮮明に感じ取ることができる。

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【魔力探知】……その名の通り魔力を感じ取る加護だそうだ。

 初見で俺が魔力器官を持っていないことを言い当てたのはこの加護があってのことらしい。

 俺のもつ宝具、形成す炎クサナギは魔力を吸い取る、もちろん本来の使い方は違うのだろうけどそのような宝具で、これはモンスターに対して意味をなさない。

 それはモンスターが魔力を持たない、もっと言うと魔力器官を持たないことが原因なんだけど、フクダさんの加護はモンスターにも通用する。

 モンスターは魔力を持たない、しかし、モンスターの体内にはコアとなる魔法石を持っていて、それは魔力を帯びている。

 彼の加護はその魔法石の魔力を鮮明に感じ取り、それにより索敵が可能なのだ。

 本当に頼りになる加護だと思う。

 俺たちのパーティーで索敵を担当しているのはアイリなわけだけど、彼女が索敵をするためには他の感覚を削らなければならないことを考えると尚更その偉大さがわかる。

 俺はミリアとフクダさんの話を聞き、気になったことがあったので1つ質問する。


「ミリア、お前モンスターを倒すって言ってただろ?」

「そうね、言ったわ」

「それと森を切り開いていくのは火とも言ってたな。火……恐らく無限の炎鎖ダグザ使うんだと思うんだが、ミリアが戦うならそれを使うのは別の人だろ? それってミリア以外でも使えるやつなのか?」

「ええ、もちろん……と言いたいところだけど、少し危険ね。無限の炎鎖ダグザは私のために作った特注品だから……使うときに気分が悪くなるかもしれないけど、そこさえ無視すれば使えなくはないわ」

「それはありがたいことだ。ところで、君の鎖の宝具……先の戦いでわたしが破壊してしまったわけだが、出力的には問題ないのかい?」

「あっ……」


 ギクッと言う効果音が聞こえてきそうな程に顔色を悪くしたミリアは、カクカクとぎこちない動きでフクダの方へ視線が動く。

 反応が分かり易すぎるだろ。


「…………ミリアさんどうしましたかー?」

「…………………………」

「もしかすると私は……取り返しのつかないことをしてしまったのかい?」

「その通り……ね。あの宝具は今は使うことができないわ…………もう自分の体の一部のような感覚だったから、使えるのが当たり前になっていたけど…………ふ、フクダ!!!! 何やってくれてるのよ!」

「こら、人に当たるな」


 ミリアを抑えるが、今回に関してはフクダさんに非がある。

 かと言って、ミリアを相手に手加減すると言う方が無茶な話で、仕方ない面もあるだろう。

 無限の炎鎖ダグザが使えない。

 それに代わる武器があれば良いのだが……そこまで考えて俺はふと左手を見る。

 そういえばこの宝具の元々の使用用途って確か……


「なあ、クレハ。この指輪って炎を放射する宝具なんだよな?」

「う、うん。魔法石の質を考えてもドラゴン並み、それ以上の炎を出せちゃうかもね。でも触れるだけでこっちがひどくダメージ受けちゃうから、実用範囲外だけどね」

「……クレハ、あんたの言い方だと『形成す炎クサナギは一発撃つ分には誰でも出来る』みたいに聞こえるのだけど、この認識は合っているかしら?」

「そうだね。それで大体合ってるよ。それこそ、この場にいる人達なら何とか上手く…………って、もしかして私に形成す炎クサナギを撃たせようとしてる!? やだやだやだ! 怖いから!」


 クレハはブンブンと頭を振り、宝具の使用を拒否した。いや、誰も撃てだなんて言っていないのだが。

 ともかく重要なことが分かった。

 今ミリアの宝具は使用不可の状態にあり、森を開拓するには俺が持つ宝具、形成す炎クサナギの力を借りるのが手っ取り早い。

 そしてこの指輪の本来の力を使うことは可能であるらしい。


「ここにいる人達なら上手く使える、って言ってたけど形成す炎クサナギを撃つために要求されるステータスとかがあるのか?」

「ううん。別に撃つだけなら誰だってできると思うよ。でも……多分魔力のステータスがA以上じゃないと命に関わってくるかもってこと。自信はないけどね」

「なるほどな。フクダさん、『ウツノミヤ』から魔力A以上の人間ってどれくらい集められそうですか……?」

「魔力A以上……か。結構無茶な要求をしてくるね。クレハくん、因みに君の言う魔力A以上の人間は高齢者でもいいのかい?」

「ええっと……出来れば若い方がいいと思います。魔力Aあったとしても体調は間違いなく悪くなりますから」

「……そうなるとこちらから出せるのは私以外いない。若くして優秀なステータスの人間は大方『トウキョウ』に連行されてしまったからね」


 フクダは苦笑いしてそう答えた。

 そもそもフクダさんは若者じゃないけど、と言おうと思ったけど話がややこしくなりそうなのでやめておこう。

 ミリアから『トウキョウ』は優秀な人材を各地から集めていると言う話を聞いたことがあったけど、それはこのギルドでも行われていたようだ。

 形成す炎クサナギの使用に関して『ウツノミヤ』は残念ながら頼りにはなら無い。

 また、高齢者は作戦に加われないとなると超高齢化が進んだギルド『ニッコウ』の人たちも協力してもらうことができないな。


「これは厳しくなってきたな……実質的に、ここにいる俺を除いた4人しか宝具を撃てないってわけだろ? いや、ちょっと待て、フクダさんとミリアはそもそも別に役割があるから候補から外すとして、クレハとアイリ2人になっちゃわないか!?」

「……付け加えるならアイリちゃんもダメなのではないかしら? 前に不可避の輝剣クラウ・ソラスを撃った時にも、1発でダウンだったですもの」

「ちょ、ちょっと! その流れだと、私だけが被害者に……タケルくん助けてー!」

「こ、こらっ! どさくさに紛れで抱きつくな! …………というかクレハは本当に宝具は打てるってことでいいんだよな? 俺、クレハのステータス見たことないから、ステータスをちゃんと満たしてるのか分からない」

「…………そ、そうだったー私、ステータス全然足りてないやー。私ってば慌てんぼさんなんだからー」


 あまりにもわざとらしく、クレハは宝具の使用を拒む。

 確かに触れれば間違いなく大ダメージを受けるような宝具を起動したいなんて奴はいないのはわかるけど、それにしても断り方があるだろう……。

 そんなクレハの姿を見かねてか、椅子に座り動向を伺っていたアイリが立ち上がった。


「そ、それでしたらわたくしが形成す炎クサナギを起動しますわ! 魔力回復のために聖水を用意してくだされば私だって、何発かは宝具を使うことができるはずですの!」

「そんな……アイリがそんな危険を冒す必要はないんだぞ。命に関わるかもしれない」

「そうよ。アイリちゃんが傷付くのミリアママは許しません」

「お前はいつからママになったんだ」

「アイリくんは聖水と言ったね。それは盲点だった。それを使えば私でも良いだろう。私はもとより【魔力探知】での索敵のため後衛だからね」

「ふ、フクダさんは重要な役を担っているのですから、それは危険ですわ! やはりわたくしが……」

「それならこのミリア様でも良いのよ? 私なら形成す炎クサナギを撃ちつつ前線で戦う自信があるもの。だって私の魔力はSSSですし!」

「いやいやいや、ミリアが撃つのは1番無いだろ。あまりにも負担が大きすぎる」

「では、やはりわたくしが……」

「いや、今回は私が撃とう」

「いいえ。このミリア様に任せなさい」

「あーもう! 分かったから! 私が撃つからもう許して!」


 クレハは目に涙を貯め、泣く泣く了承する。

 古き良きこのネタは異世界でも健在だったみたいだ。


「クレハ、さっきステータス足りてないって言ってたけど、体調悪くなったらちゃんと言ってくれよ? 倒れたりされたら、俺が介抱しないといけなくなるかもしれないしな」

「私は大丈夫だって。ステータスは確かに足りてないけど……こう見えて宝具を作る家系の末裔だよ? そんなヘマはしないのです。でも私が倒れたらちゃんと抱きしめてね? 寝ている隙にキスとかも……」

「それはしない」

「酷いッ!!!!」


 全然酷くないだろ、と俺は心の中で突っ込みを入れるのだった。

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