第44話 技量の差
自らが『トウキョウ』に追われていることを指摘されたことで、ミリアの顔から余裕がなくなる。
かく言う俺も、自分が魔力を持っていないことを言い当てられ、汗の粒が頬をスーッと撫でた。
ミリアは異空間から
「あら、このミリア様のことを知っているのかしら? 知っててこんな密室に誘い込んだ……と。いい度胸ね」
「『ウツノミヤ』は巨大ギルドだ。そんな重要な情報が『トウキョウ』から回って来ていないとでも思ったのかい? それと………………あまりおじさんを舐めるんじゃあない」
互いに構え、暫し睨み合い、あまりの緊張感で俺が唾を飲んだ刹那、2人の剣は真っ向からぶつかり合い、強烈な爆風を生んだ。
部屋の窓は壁ごと割れ、それに気を止めることなく2人は打ち合い、その激しさは増していく。
こんなに大きな音を立てたのだ、受付の役員たちが気付かないわけがなく、ドアノブがもう意味をなしていない扉から彼らが4人、流れ込んできた。
フクダはミリアの剣をさばきながら、役員に指示を出す。
「こちらの金髪は私がやる。君たちはそっちの少年たちを拘束しなさい!」
「は、はい!」
何が起きたのか分からないと言った様子であった役員たちは、ギルド長の一言で一気にまとまりを見せ、俺たちに迫る。
一体なんだというんだ。俺たちは交渉しに来ただけだというのに!
ミリアが指名手配なのは知っていたけど、まさか『トウキョウ』以外の人間も彼女を追っていたとは。
「アイリ、クレハ! 俺の後ろに回れ、早く!」
「わ、分かりましたわ!」
「うん。タケルくんに守られちゃう〜」
「クレハさんちょっと緊張感なさすぎじゃないですか!?」
緊張感のないクレハをよそに、役員たちは一斉に俺たちに襲いかかる。
両方に刃がついた剣を彼らは振るい、俺はそれを素手で跳ね返す。
よし、俺の加護はこいつらの剣を全くもって通さない。
【
剣を跳ね返され一歩下がった役員に俺はすかさず接近し、腹に向け最大以上の力で拳を振るう。
拳を受けた役員は、そのまま壁に叩きつけられ意識を飛ばした。
残る敵は後3人、こちらは何とかなりそうだ。
余裕があればミリアの方に加戦したいが…………どう見てもあちらはレベルが高すぎる。
これまでの傾向で言えば、宝具で、しかもかなりの威力で攻撃されれば、俺の加護が耐えきれず怪我を負う。
フジミヤゴウケンの持っていたあのガントレットは宝具であろう。
俺はあの一撃でこの世界で初めて出血した。
無理に参加してミリアの本気の剣を食らってしまえば、おそらくだが無事で済まない。
室内にたえず響く剣戟の音を耳に入れながら、俺は目の前の敵の対処に励むことにした。
*
(すいません。ここからミリアさんがモノローグ担当となります。今後も稀に語り手が変わることがあるかもしれません。よろしくお願いします)
室内での打ち合いが困難になっていることは私たちの中で確かに認識があり、自然と戦場は屋外へと移行していった。
フクダが右から切りつければそれを必要最小限の力で交わし、こちらが突きを入れれば剣で薙ぎ払われた。
【
ギルド外の街頭を高速で駆け抜け、人の少ない街から少し外れた、木材の加工場らしき場所に出る。
周囲には木がちらほらと生え、加工済みの木材がまとめて置かれていた。
ここまで本気の打ち合いをしたのはいつぶりだろう。
覚えている限り、最後に私が本気で剣を振るったのは『トウキョウ』でひと暴れした時だ。
街で暴れる私を止めるために出て来た魔法少女然とした女の子……リリと私は本気で戦った。
戦ったは嘘か。一方的に私は敗北した。
おとぎ話の国から出て来たようなふざけた格好に、オモチャと疑うような大きな鍵を振るう少女に私の武器は次々と破壊され、最後には扉から兵隊を呼び出され泣く泣く逃げ帰ったのだった。
思い出すだけで嫌な記憶だが、今となってはどうでもいい話だ。
今と昔じゃ状況が大きく変わっている。
身体的にも精神的にも経験的にも、それに
「
私には今、宝具を所持している。絶対的な力が手の内にあるのだ。
振るった細剣の剣先から飛び出たほぼ不可視の衝撃波をフクダは難なくかわしていく。
初見で今のをかわされたのは初めてだ。
「意外とやるじゃない。今のは当てるつもりだったのだけど?」
「そうかい? そんな見え見えの飛び道具に当たるほど私は年老いていないのだがね」
「そう、見えているのね」
これまでの言動、行動からフクダの
奴は、魔力を感じ取る加護を持っていると見て間違いない。
じゃなければ、ステータスを見ることなくタケルに魔力器官がないことを当てたり、ほぼ不可視の衝撃波を初見でかわすなんて不可能だからだ。
魔力探知系の加護……代表的なものだと【
なんせ相手の魔力の動きが手に取るように分かっているのだからね。
こちらの技の打ち始めを確実に捕え、攻撃が出る前に対応が出来てしまう。
私ぐらい魔力が高くても、打てて4回か5回。
消費を抑えて打てばもう少しいけるかしら?
いやダメね。そんなことしたら絶対にかわされる。
かと言って本気で……それこそこの都市を半壊させる気で、予測可能回避不可能の一撃を振るえば……そんなことして、もしフクダに耐えられたらその時は私の負け。
相手の持つあの刀、おそらく宝具だろうが、その能力がまだ分からない。
分からないうちに博打に出るのはあまりに無謀だと私は思う。
だからこそ今は、相手の力を見極める!
私は先程放った衝撃波によって出来た空間の裂け目から宝具を召喚する。
「
「だから見えていると言っているだろう?」
裂け目から飛び出した炎の鎖をフクダは剣で払う。
払った瞬間、フクダの刀が色を失うがそれはすぐに元に戻る。
フクダは何が起きたのか分からないと言ったような表情で剣を見つめる。
そして私は今のを現象を見逃さない。
高純度の魔法石は周囲の魔力を喰らう。
宝具使用に使う魔力を相手から供給させることで相手が力つきるまで熱を発し続ける破壊の永久機関。
その攻撃を受け、あいつの刀は一瞬消えた。
つまりあれは
これならばこちらに勝機がある。
そういった武器に対しては、圧倒的に
私はここが好機と見定め、衝撃波による牽制を交え近接戦を拒否しつつ、
相手が一歩前進すればこちらは一歩後退し、同時に足元に向け衝撃波を飛ばす。
回避したところを
魔力でできた刀はこちらの宝具により力を吸収されるが、元を辿ればそれはフクダ自身の魔力だ。
宝具自体も魔力を帯びているが、今現在、刀に魔力を供給しているのはフクダであり、防御をしているが魔力は奪われ続け、意味をなしていないことに彼も気づいているはずだ。
5回の攻撃で吸収した魔力を使い、私は
この攻撃は防ぐことが出来ないと判断したフクダは軽い身のこなしで火炎放射を回避。炎ギリギリを攻めながらこちらに突進してくるところを
フクダは今の一撃で体勢を一瞬崩すが私は特に追撃はしない。
チャンスであるが、それを掴もうとしたところが逆に相手のチャンスになるかもしれないからだ。
戦況は私が有利。
無理に勝ち急ぐ必要はない。
ジワジワと一方的に、勝利への道を詰めていけばいい。
戦いは仕切り直しになり、再び私は
繰り出された宝具をフクダは剣で払い、その流れで地面を斬りつけると砂埃を巻き上げフクダの姿が見えなくなる。
自分より強い相手に対して知恵を絞り小賢しい真似をするのは1つの手だと思う。
しかしそれが通用するのは真っ向から戦ってくれる優しい強者に対してだけだ!
私は念には念を入れ砂煙から距離を取り、待機する。
いつか砂煙は晴れ、フクダが姿を現わすはず。
私は彼の出方を見てから対応できるからそれでいい。
予想通り、砂煙が薄れ、人影がうっすらと見え始めたと思った刹那、彼は刀を上段に構え最高速度で突っ込んでくる。
速い、速いが対処できないほどじゃない!
「これで終わりよ、
私は彼の進路を塞ぐように
全ては私の思惑通り進む……はずだった。
フクダの剣が
「……
彼の刀が触れた
嫌な予感がする、そう思った次の瞬間、赤く透き通った炎の宝具、
宝具を破壊された事実に動揺し、私はフクダを見失う。
一瞬のうちに私の懐に潜り込んだフクダは、剣の柄の部分を向けると右胸の少し上の部分に柄を打ち込んだ。
ミシリと嫌な音がすると同時に、私の体は後方に吹き飛ばされる。
地面を体感したことない速度で転がり、生えていた木に叩きつけられ反吐を吐き、呼吸ができなくなる。
強烈な痛みと共に、身体に違和感を感じた。
力を入れようとするが上手く力が入らない。
膝をつき、血反吐を吐く私の元にフクダ立ち塞がる。
「魔力管と言って君は分かるかい? 魔力器官で作られた魔力を全身に運ぶ、あの魔力管だ。その一番太い魔力管を傷つけた。しばらく十全に魔力を使うことは出来ない」
「…………」
「なんでそんな芸当が出来るかって? 君はもう気付いているだろう? 私の
彼の
分かってはいたが理解不足だった。
まさかここまで正確に魔力の位置を把握できるなんて思うわけがない。
「決着はついた。大人しく……」
「大人しく…………なんて、するわけないでしょ………………私はこんなところで捕まらない。捕まっちゃいけないの! でないと…………私は家族の仇を打てない!」
「いや、ちょっと待つ……」
「魔力を封じた? だから何よ。まだ宝具が私の手元から無くなっていないつまり【
そうだ。
私はこんなところで負けるわけにはいかない。
全力全開で私は目の前の敵を打ち倒す!
「
わずかに使うことのできる魔力で不気味に漂う光球を召喚し
溢れ出す光が私のフクダの目を塞ぎ、それと同時に私の体にありえない量の魔力が流れ込む。
魔力器官から魔力が溢れ出し、塞がれた魔力管を無理矢理こじ開ける。
今まで体験したことのない強烈な痛みが体の内から湧き出て、私は発狂した。
痛みが若干引いたところで、私は
身体中に魔力がほとばしり、手に持つ宝具が今にも暴発しそうだ。
「強大な魔力を流して無理矢理魔力管を復活させたか。まともなやり方じゃないな」
「イカれてて結構よ。フクダ、あんたは私の魔力の流れが見えていると言ったわね。今の私はどう見えるかしら?」
「…………眩しすぎる。君は今、魔力を扱う人間ではなく魔力そのものに近い」
「これがミリア様よ。目に焼き付けなさい。あなたの宝具がどんな効果をもって私の
私は
全力の
私の全力でダメなら、それを超える一撃を繰り出せばいい。
宝具と宝具を掛け合わせた一撃に対応できる人間がいるわけないのだから。
「覚悟しなさい、フクダ! 痛みを感じることすらなく、一瞬で葬り去ってあげるわ!」
必死を感じ取ったフクダは踵を返し足早にその場を立ち去ろうとする。
無駄だ。そんな速さじゃ私の剣の方が速い!
「
地を焼き払い天を穿つ一撃を放つべく私は宝具の名を叫ぶ。
身体中に満ちる魔力全てを、ただこの一撃のために!
刀身の境界が曖昧になり、粒子に変換されていこうとする中、その変換が急に止まる。
「えっ……?」
私の頭に疑問が浮かんだ次の瞬間、体にドッと倦怠感が襲う。
膝から力が抜け、倒れようとしたところを後ろから抱きかかえられる。
厚い胸板、ゴツゴツとした手、それに手には赤い指輪がはめられていた。
「タケル……あんた何してるのよ……!」
「それはこっちのセリフだ。さっきの打ってたら『ウツノミヤ』が吹っ飛んでたぞ」
急遽現れた異世界人は、私の魔力を奪うと険しい顔で私を見つめていた。
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