第41話 解決の兆し
浴槽でひとしきり暴れまわったミリアは落ち着きを取り戻し、俺は額に流れる汗なのか湯気が元となってできたものなのか分からない水滴を拭う。
全く、他の人がいたら大迷惑だったぞ。
貸切にしてくれた長男さんたちに感謝するしかない。
「落ち着いたところで話を戻すけどさ、ミリアの言う宝具を取り戻す算段って何だ?」
「ふう……それね。簡単よ。敵の手に渡った宝具の性能を理解して、対策を立てる。そして正面から奴らを叩きのめすわ!」
「随分脳筋な算段だな!? 作戦と称するのが申し訳ないレベルだぞ!」
ミリアのことだから大した作戦は考えていないのだろうなとは思っていたが、余裕で俺の予想を上回って来た。
ミリア自身は強いからそれで何とかなるかもしれないけど、俺やアイリ、それにクレハはそう行かない。
もうちょっと他人のステータスを考えてくれ。
また、実行が難しいのは勿論のこと、力による解決は、今回に関して望ましくないということをミリアは分かっていない。
俺の過剰なツッコミに仏頂面になったミリアは口を尖らせて文句を言ってくる。
「じゃあ他に何か方法があるのかしら? 宝具を取り戻す最短の方法はきっとこれよ」
「宝具を取り戻すだけだったら確かにミリアの言う方法が一番早いと思うよ。でも、それじゃダメだ。ミリアも分かっていると思うけど、宝具を取り返すというのは『ニッコウ』を自立させるためへの一歩だったはずだぞ」
「分かっているわ。だから私は徹底的にやる。2度と『ニッコウ』に手を出そうなんて思えないほど徹底的にね。これなら問題ないでしょ?」
「いやいや、問題大ありだろ!」
とんでもない作戦を当然のように話すミリアに俺は少し恐怖を感じる。
こいつはちゃんと周りが見えているのか?
少し暴走気味になるのはミリアの悪いところだ。
いくら知識があって、頭の回転が速くても、我を忘れてしまってはその頭を台無しにしてしまう。
だから俺は彼女のストッパーの役割をしなければならない。
「ミリアの作戦には大きく2つ問題があると思うぞ。まず1つ、そもそも『ウツノミヤ』を完膚なきまで叩きのめすことは不可能だ。俺、アイリ、クレハはお前ほど強くない。お前があと5人いたら実現できただろうけど、それは無理だ。たとえミリアが1人で頑張ったとしても、どうせ魔力切れして負けるのが見えてる」
「そう言われればそうだけど……」
「もう1つ、力で屈服なんかさせたら俺たちが違う土地に移ったのを見計らって復讐しにくるに決まってる。今回『ニッコウ』を自立させるのが目的なんだからさ、終わった後のことも考えろ…………あれ?」
「どうなさいました、先生?」
アイリが心配そうに俺の顔を覗き込む。
自分でも言いながら、おかしいと思うところがある。
俺たちの目的は別に『ニッコウ』を自立させることじゃない。
確かに『ニッコウ』は歴史的な誇りを背景に合併することを望んでいなくて、そのために自立させないといけないと俺は考えていて、勝手にそれが目的にすり替わっていた。
「質問なんだけど、もし『ニッコウ』が『ウツノミヤ』に吸収されたらどうなるんだ? 俺たちが行こうとカマかけた少し離れた鬼怒川沿いの温泉の土地は『ウツノミヤ』領だったけど、『ウツノミヤ』から離れていただろ? そんなふうに『ニッコウ』もならないのかな」
「これは私の勝手な考察だけどね、『ニッコウ』はそうならないわ。だってここは結構な山地よ。ここにくるまでに私たちがどれだけ苦労したのか思い出してみなさい」
「無駄に長い山道を歩き続けたな。山道にモンスターも結構いたし、ミリアが片っ端から倒してくれなかったら、まともに辿り着くことも出来なかったかもしれない」
「そうよ。このミリア様ぐらい強い美少女じゃなければまともに2つのギルドを行き来することはできないわ。ギルドはギルドに定住する人間を管理しないといけない、だから必然的に行き来できない場所に住んでいる『ニッコウ』は住居ごと『ウツノミヤ』周辺に持って来られるわね」
「美少女は余計だけど確かにそうだな」
ミリアの言うことは最もだと思う。
もし、『ニッコウ』の人たちの本籍が『ウツノミヤ』になったとしたら、彼らの情報を管理するのは『ウツノミヤ』になるわけでそれは、管理する側にとっても管理される側にとっても非常に面倒だろう。
俺の元いた世界でも住民票や戸籍抄本とかは基本的に市役所で取れることになっていた。
市役所から遠いと面倒……そういえば俺の家って森の中でポツンと建ってて街の中心部からかなり離れていたな。
ご近所さんは全くいなくて、学校に行くのも一苦労。
なぜか世界から隔離されたような場所に住んでいた。
元の世界の時住民票とかどうしてたんだっけ……
修学旅行だ。確か修学旅行の時にパスポートが必要でそれを作るために戸籍抄本を発行してもらったことがあった。
でもおかしい。俺はその時、市役所に行かずに、違う場所で書類を発行してもらった覚えがある。
じゃあ、あの施設は……きっと出張版の市役所だったんだ。
この世界でも元の世界と同じようなことができるとしたら『ニッコウ』の人たちは自分の土地を捨てることなく、『ウツノミヤ』は晴れてギルドから国に昇格できるのではないか?
「ふう……今回の合併問題、うまい落とし所が見つかりそうだ」
「何よそれ、教えなさい。私のスマートな作戦より良いものじゃなければ許さないからね」
「ミリアのよりは間違いなく良いから安心してくれ。詳しい話は三兄弟さんたちのいるところでしよう」
俺は立ち上がり、1人先に風呂場を去るのだった。
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